第47話

 帝都に着いたのは翌日の明け方。静まり返った通りに蹄鉄の音が響く。

 コビンとカーリアは御者台を降りると、一路兵舎の方へ走っていった。今回の任務の報告のためである。


  その間に、ジャックとユミルとで馬車から女達を降ろしていく。女達は皆で肩を抱き合って喜びをかみしめながら、ジャックとユミルに向かって感謝の言葉を送っていった。


 ジャックに恐れや憎しみを目に浮かばせていた女達は、もう何処にもいない。それどころか、まるで英雄を見るかのような、尊敬と感謝を込めた視線を彼女達は彼に送っていた。


 女達の姿が朝日に照らされる大通りに消えていった頃。コビンとカーリアがエドワードを連れて戻ってきた。エドワードはねぎらいの言葉とともにジャックの肩を叩くと、最後に馬車に残っているエマの元へ足を向ける。


「ご無事で何よりです。ヴィリアーズ様」


「心配を掛けてごめんなさい」


 エマが微笑みを浮かべて言った。緊張も取れて、心底安堵している様子だ。


「それは貴女のお父君に言ってあげて下さい。今頃貴女の帰りを、首を長くして待っておられる事でしょうから」


 エドワードはエマに手を差し伸べる。彼女はその手を取りながら、ゆっくりの馬車の荷台から降りた。その時にちらとジャックの顔を見るエマだが、にこりと微笑んだだけで言葉はかわさずに、エドワードと共に兵舎へと入っていく。


「お二人も、行きましょう」


 コビンが言う。


「どこに? もう任務は終わりでしょう」


 ユミルが訊く。


「エマ様のお父君のところです。娘さんを無事に連れて帰ってきたら、うちに来て欲しいと仰せつかっておりましたので」


「へぇ。そう」


「報酬もそこで渡すと言う話ですので、お二人もご同行願えると、二度手間にならなくていいと思います」


「確かに、ね」


 ユミルはちらりとジャックを見る。ジャックもユミルを一瞬見るが、特段言葉をかけることなく、エドワード達を追って歩き始めた。


 団長室を抜けて、再度あの転移装置のドアの前に来る。プレートを差し込み中に入ると、廊下を進みアーサーの部屋の前にきた。エドワードがノックをする。


 「入れ」その声の後、エドワードがドアを開ける。中にいるのは、言わずもがな。アーサーが背もたれにもたれながら彼等を迎え入れた。


 彼はエマの姿を見ると、腰を上げて彼女の元へ歩み寄っていく。


「ご無事で何よりです。エマお嬢様。このアーサー、貴女様の身を案じて夜も眠れませんでしたよ」


 耳障りのいい社交辞令を並べ立てながら、アーサーはエマの手をとりその甲に接吻を送る。エマはそれを微笑みと共に受け入れて、


「ご心配をおかけしました」


 と言った。アーサーもまたその言葉を微笑と共に受け入れる。そして、背後に控えていたジャック達に顔を向けた。


「よくエマお嬢様を連れ帰ってくれた。危険な任務に違いなかったが、無事に帰還を果たした事は喜ばしいことだ。キスの一つでも送ってやりたいところだが、まずは礼を言おう。ありがとう。皆ご苦労だった」


 アーサーからの労いの言葉。コビンとカーリアの二人は誇らしげに胸を張りながら敬礼でアーサーの言葉に応える。しかし、ジャックとユミルはそれぞれに苦笑をうかべたり、眉間に深い皺を刻んだりと、その反応は芳しいものとは言えなかった。


 アーサーは四人の肩をたたき労をねぎらっていく。


「……俺の見込みは正しかっただろう」


 ジャックの肩を叩きながらその耳元でアーサーが囁く。ジャックの眉間はいよいよ深く刻まれたのだが、アーサーはその様子に気づくことはなかった。


「さて、これでようやくお父上に喜ばしい報告が出来るというものです。時間も勿体ない。早速向かうとしましょう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る