第44話
「ユミル」
ジャックは呼んだ。ユミルはすぐさま二つの矢を弓につがえ、男達めがけて放つ。矢は男達の喉と頭に突き刺さる。男たちの体はぐらりと揺れて、仰向けに倒れていく。
敵は排除した。だが脅威は未だ彼らの前に立ちはだかる。
大扉の奥からぞろぞろと男たちが現れた。剣に斧に、槍に鎚に。めいめいの獲物を握りしめ、雄叫びとともにジャックたちの元へと駆け迫る。
「ユミル、コビンを連れてご令嬢を安全な所へ連れて行け」
「わかった」
ユミルはコビンのケツをたたき、階段を下っていく。残されたジャックとカーリアは互いの獲物を抜いて、構える。
「しっかり働け」
ジャックはカーリアの頭を軽く小突く。
「言われなくても」
ジャックを一睨みしながら、彼よりも早く悪党の群れへと駆ける。
すると明らかに嘲声が男達の中から聞こえてくる。
自分は強い、誰にも負ける事はない。あるはずがない。そんなあるはずもない全能感とまやかしの強者の余裕はいらぬ妄想を彼らにもたらす。
男達は集団でかかる事なくまずは一人が突出してカーリアに襲いかかる。
カーリアは男の攻撃を半身で避けながら、身体をひねり逆手に持った鞘で男のあごを打つ。男は頭とともに横へと吹っ飛び、壁を崩しながら部屋の中へと叩き込まれた。
「ほぅ……」
ジャックの口から思わず感嘆の息がこぼれる。それはカーリアの実力に対してのものであり、そして彼女の戦い方と武器に対してでもある。
片手には刀、もう片方には鞘を握っている。一刀一鞘。二刀流とも言える彼女の構えもさることながら、刀と鞘を包む青白い光がジャックの目を奪った。それはかつてエルフが杖にかけた強化の魔法と酷似、いや、それそのものだったのだ。
あぜんとする男達を尻目に、カーリアの足は真っすぐに男達へと向かう。こいつはただの犬ではない。そう気づいた頃には、二人の男がカーリアによって斬り伏せられていた。
もはや嘗めることはしない。一人の女に奴らは総出でかかる。彼女は悪党たちの攻撃を刀でいなし、鞘で打ち落とし、足を使って俊敏にかわしていく。そして隙をついて男達を鞘で突き、刀で斬り裂き、男たちを次々と退けていった
観客となって彼女の戦ぶりを見ていたジャックに、男たちがかけ迫る。無論、ジャックもまた男達に迫っていく。
男達が剣を振る。一つは首をねらって横薙ぎに振るわれ、もう一つは足下から斬り上げるように振るわれる。剣で下から迫る剣を受け止め、体勢を低くして首を狙う剣から逃れる。男達はすぐさま追撃を仕掛けようとするが、その間には僅かな隙が生まれた。
ジャックは片手で男の頭をわしづかみ、もう一人の男と自分の間に立たせる。
そして、剣で男の腹を突き刺しながら、一気にもう一人の男との距離をつめた。
二人を串刺しに、とはいかないが。一人倒しもう一人を壁に押し付ける。
生き残った男は仲間の死体を押しのけ、なおもジャックに挑みかかろう構えた。だが、次の瞬間には男の首は宙を舞い、男の身体だけが取り残されていた。
ジャックとカーリアの二人によって、次々に屠られていく悪漢達。
実力差は明らか。だが逃亡をする者は一人としていない。恐怖に取り憑かれながらも彼らは剣を振るう。それは何か秘策があるという事だろうか。それとも虚勢による物か。はてはそのどちらとも違う新たな思考によってもたらされるものか。
二人には判断が着かないが、その理由はすぐに二人の前に現れる。
剣を振るう際にちらと扉の奥を見る。燭台の灯りより闇の密度が高い部屋。
そこから光り輝く紫電が、二人の元へと放たれた。
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