第28話
それから数日が経った頃。ついにユミルからの依頼で、村へ赴くこととなった。
水と食料。それと馬も用意して、早朝のうちに帝都を発つ。
ユミルの馬に荷物をくくりつけ、ジャックの後ろにはエリスが乗った。
街道に沿って進む事二日。ようやく、村の入り口へとたどり着いた。
だが、ここへ来るまでにエリスの口数はめっきりと減っていた。
帝都からの道中、活発にエリスの口は動き続けていた。
楽しみだから、というよりも恐怖と不安を紛らわすためにといったような風だった。
だがよく知る道、見知った場所が多くなるたびに、言葉は少なくなり、表情に影が落ちていく。
森の小道を進み。ようやく村が見えてきた。
長い旅路の目的地が見えたことで、肩の力が一瞬だけ抜けていく。
だが、様子がおかしい。
誰もいないはずの村に、死人しかいない村の中に、動く影がいくつもあった。
村の入り口の所に数匹の馬が止めてある。
馬の鞍には見慣れぬ紋章。
二重になっている円の内側に方角を示す八芒星。
八芒星の中心には一つの目が描かれている。
三人も同じく底に馬を止め、村の中へ足を踏み入れる。
村にはこれまた見慣れない者達が四、五人。
彼らは同じような黒いローブを身に纏い、胸元にあの紋章と同じブローチを下げている。
「貴方達は、この村の方でしょうか?」
ジャックたちに気づいた一人が、三人に歩み寄って声を掛けてくる。
「そう言うお前達は、何者だ」
「おや、これは失礼いたしました。名をお聞きする前に、こちらの身の上を明かさなければなりませんな。そうでなくては無礼というものです」
フードをとり、その下から男の顔が現れた。
「初めまして。私は帝都の教会で神父をしております。ミノスと申します」
フードの下から現れたのは、青目で色白の男。
剃髪をして丸まった頭を三人に下げる。
「あちらにいるのは私の仲間の神父、シスター達です。皆こちらの方々に顔を見せなさい」
ミノスの声の後、それまでフードをかぶっていた面々の顔があらわになる。
姿形、性別はそれぞれに違ったが、皆人間だ。
「さて、では私の質問に応えていただいてよろしいでしょうか」
「なぜだ」
「もしも私たちを害しよう、またはこの村の金品を奪おうなどという目的であれば、私たちもそれ相応に対処しなければなりませんから」
その言葉の後、ミノスは懐から杖を取り出した。
「杖か。魔法を使えるのか」
「ええ。下手に動こうとは思わないでください。もし変なまねをすれば、貴方や後ろにいるエルフのご夫人とお子さんがどうなるか分かりませんよ」
ミノスは言う。
その顔には満面の笑みを張り付かせているのが、無性にしゃくに触る。
だが、抵抗する手だてはない。それに、抵抗する必要もない。
「私たちはこの村のエルフを弔いに来ただけだ」
「弔い?では、やはりこの村の方々でしたか」
「私は違う。後ろの二人だ」
ジャックは親指で後ろを指す。
「そうでしたか。これは失礼いたしました。皆、杖をおろしなさい。この人たちは敵ではありません」
ミノスが言うと、他の牧師たちが素直に杖を下ろした。
「なぜこんな所に帝都の神父がいる」
「なぜと申されましても、私たちは神父であり、生ける人に神のお言葉を届け、死者の安寧を願い弔う事が使命ですから」
「エルフの死体もか」
「ええ。種族は違いますが、皆神の子です。死ねばもろとも、皆等しく神のもとへ迎えられます。たとえ一昔前まで敵であったとしても、それは変わりありません」
微笑みを絶やさないまま、ミノスは言葉を続ける。
「ですが、私たちにも限界がある。魔物達の急増によって、被害に遭われる村々が後を絶ちません。私たちも方々へ足を運んでいるのですが、弔いができていない村々は多々あります」
「じゃあ、村の人の遺体は」
ユミルが恐る恐る口を挟んでくる。
「ええ。これから村の方々のご遺体を運んで供養をしようと思っておりました」
「私達も手伝ってもいいですか?」
「勿論です。村の方々も同郷の者の手で葬られた方がお喜びになられると思います。では、こちらへ」
ミノスは三人を村へと案内した。
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