午前0時の非行処女

@makura_k

第1話 夏の初めと愛の裂け目

 「今年は平成最後の夏らしいよ」


 例年よりも早く、肌を刺す日差しが痛いと感じ始めた夏の初め、私は彼と別れた。


 突然だった。いつも通りの、なんてことない喧嘩だったはずなのに、だるすぎる暑さが連日続いてしまったせいなのか、突発的に口にした「別れる」の言葉を、私が訂正することはなかった。


 付き合って、もうすぐで5年目を迎えるはずだった7月上旬。先月は友人の結婚式に出席し、少なからずは“結婚”を意識したはずだった。もうすぐで26歳になるし、相手はもう30歳を過ぎた。そろそろという頃合いだった、はずだった。どうせすぐ、仲直りして、また普通の日常が戻ってくる、はずだったのだ。


 それなのに、なぜ“いつもと同じ”にならなかったのか。幾度となく繰り返してきた不毛な喧嘩の仲直りの仕方も、何を言ったら彼が喜ぶかも、何が一番楽なのかも知っていたはずなのに、しなかった。


 目の前で、キョトンとした顔を浮かべた彼。そりゃそうだ、いつもなら


「ごめん、言い過ぎた」


「俺も」


「うん」


「仲直りしよう」


「うん」


 と、ぎこちない会話を一つ二つ交わして何度となく抱かれてきたその腕の中に身を沈める。時には、「好き?」「好きだよ」なんて慣れない言葉も囁きながら、その後はいつも通りの日常が帰ってくる。その安心感が、いや、安定をいつも手放せずにいた。


 そのダラっと続いた約5年の拘束期間に終わりを告げた。


 目の前で、キョトンとした顔を浮かべた彼。私はただ淡々と、2人をつないだ鎖を切り離して、悲しい顔を浮かべた彼に剣を刺した。何度となく訪れた彼の家の匂いを背中にまとって、泣くつもりだった私の手はやっぱり彼に掴まれたけど、女に二言はない。


 ---------「さよなら」。


 平成最後の夏が始まろうとしていた。早とちりなセミがいそいそと鳴き始めていた。ポケットにしまったiPhoneが鳴っている。




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