第75話 地下五階 ベースキャンプ
「さて、地下五階まできたぞ。タンナケット、どう思う?」
ミーシャが問いかけてきた。
「そうだな。ハッキリ言って、これじゃ使い物にならねぇな。地下一階からあれじゃ、冒険どころじゃねぇぞ。それこそ、ただ魔物相手に腕試しにくるような連中ばっかりになっちまうぜ。まいったな……」
俺はため息を吐いた。
「まあ、それもこの迷宮だと思うがな。ここは、お前のものじゃねぇぞ!!」
国王が小さく笑った。
「私はなにも……まあ、タンナケットやミーシャに会えたのは幸運だったかな。なんとでもなりそうな気がするぞ」
ミーナが笑った。
「まあ、ねぇものグダグダいっても始まらねぇな。ここがこうなっちまったからには、それなりの事をすればいいか。この際だからみんなで暴れてやろうぜ。それも悪くねぇぜ」
俺は苦笑した。
「んじゃ、魔物の間引きだな。いくら何でも多すぎるからね。私は暇だけどしょうがねぇな!!」
「馬鹿野郎、なんのために杖を渡したと思ってるんだよ。もう、この際だから魔法使いになっちまえよ。思い切りブチ込んでやるぜ!!」
俺は小さく笑った。
「おいおい、私が魔法使いってヤバいだろ。気持ち悪いって!!」
ミーシャが慌てた。
「いいじゃん、攻撃魔法はいいぞ。色々ぶっ壊せるぞ!!」
「……お前、回復メインだろ。そっちは、大したことねぇ」
国王が笑った。
「なに、ジョブチェンジってか!!」
「馬鹿野郎、絶対やらねぇ!!」
ミーシャが舌を出した。
「んだよ、つまんねぇな。やたら強力な結界しか使えないって、超絶偏った魔法使いになれるぜ。最高に馬鹿野郎だぞ」
「だから嫌なんだよ。なんだその妙な野郎はよ!!」
「……結界専用機だぜ。ある意味、レアだぞ」
ミーシャが俺を抱きかかえた。
「そりゃお前の領分だろ、私が侵略するわけにはいかん。せいぜい、明かりを大量に作って遊んでやる!!」
「……おい、もっと馬鹿野郎だぞ」
ミーナが笑った。
「私もこの杖でいいかな。どうせ、攻撃なんか大したことないんでしょ。いっそ、おもっくそ回復に偏らせてよ!!」
「……いい度胸だぜ。いったな」
俺が動いた瞬間、ミーシャが首根っこを掴んだ。
「……分かったよ。もちろん、冗談だ」
「よし!!」
ミーシャが手を放した。
「あれ、却下ですか?」
ミーナが笑った。
「あとでな。今はダメだ。動かしたらエラい事になるぜ」
「ったく、いつもの馬鹿野郎じゃダメだぞ!!」
ミーシャが小さく笑った。
「へぇ、タンナケットがいうこと聞いてるぜ。こりゃ、なんか降るんじゃね?」
国王が動いた瞬間、カチッと音が聞こえた。
俺とミーナが同時に呪文を唱え、国王を結界が覆った瞬間に大量の槍が落ちた。
「……」
「おう、確かに降ったな」
俺は笑った。
「馬鹿野郎、妙なもの落とすんじゃねぇ!!」
「……いや、普通に罠だぜ」
俺は笑った。
「なんだよ、ちゃんとシャレが通じるぜ。まだ、いけるな」
「い、今の罠、気がつかなかったぞ。いかん、弛んでるぜ!!」
ミーシャが苦笑した。
「なに、大した事ねぇ。怪我するのは国王だ。どうってことはねぇよ」
「馬鹿野郎、俺だっていてぇのは嫌だよ!!」
「……国王の扱い方が酷いぞ」
俺は息を吐いた。
「よし、取りあえずこの前作ったベースキャンプに行くぞ。ミーナの杖を完璧にしておきてぇんだ。あそこには大体揃えてあるからな」
「おう、分かった。ついてこい!!」
ミーシャは俺を下ろし、先頭を歩き始めた。
「まあ、通路自体に変異はないな。このフロアは罠もあまりないし、魔物もいないね。つまらないけど、今は安心か……」
ミーシャは小さく笑った。
「おう、やっと休憩かよ。俺もまともに弓の手入れをしておきてぇな。そろそろヤバいぜ!!」
国王が弓の弦を見た。
「面倒な武器使いやがって。まあ、おもしれぇけどな」
「……私もこれ使っちゃおうかな。ウズウズしてきたぞ」
ミーナが笑みを浮かべ、太ももから拳銃を抜いた。
「な、なんで!?」
ミーナが俺をみた。
「魔物ぶち抜いた方が役に立つでしょ、実は、攻撃魔法よりこっちの方が得意だし」
「こ、こら、いきなり魔法使いを捨てるな。落ち着け!!」
ミーナが息を吐いた。
「捨ててないぞ、これで回復とか結界は張れないから。少しでもタンナケットと国王の負担を減らしたいだけだよ。もう、見てるだけなんて限界だぞ!!」
俺は小さく笑った。
「その気持ちは分かるがよ、結界はともかく回復できるのはお前しかいねぇんだぞ。考えろ」
ミーナはため息と共に拳銃をしまった。
「はいはい……もう、イライラするぞ!!」
「だったら、俺か国王のどっちかぶん殴れ。スッキリするぜ」
「うっ……どっちも無理だぜ。なんで、こんな編成なんだよ!!」
ミーナが肩を落とした。
「なんなら私でもいいぞ!!」
ミーシャが笑顔でいった。
「……もっと怖いよ。なんか、妙な気配を感じるぜ」
「……いい勘してるぜ。アイツはヤバいぞ」
「んだよ、根性ねぇな!!」
ミーシャが小さな笑みを浮かべた。
「……ほ、ほら」
「……危なかったな」
「よし、着いたぞ!!」
結界に包まれたベースキャンプは無事だった。
「さて、この結界どうするかねぇ。ナターシャの野郎が気合い入れてやったからな。簡単には解けねぇぞ」
「えっ、タンナケットでも?」
ミーナが驚きの目でみた。
「俺の得意分野じゃねぇもん。分からねぇか、この高度な結界だぜ。アイツの本領だから、半端じゃねぇんだよ」
「……うわ、なんだこれ!?」
ミーナが愕然とした。
「まあ、高度で強固な結界ってのは、案外脆いもんでな。一カ所崩せば一瞬で崩壊しちまうんだ。ウィークポイント分かるか?」
「……分からん」
ミーナがため息を吐いた。
「ったく、迷宮でなにしてたんだよ。このレベルの結界ならそこら中にあったはずだぜ。全部スルーとかいわねぇよな?」
ミーナがため息を吐いた。
「もっと凄腕がいたんだ。私と違って魔法が好きでやってたのがね。だから、ほとんど出番がなくてさ」
ミーナが苦笑した。
「なんだよ、早くいえよ。最前列でバカスカやっていいぜ。なんか、変に遠慮してやがるなと思ったら、自信がなかっただけか」
俺は苦笑した。
「だから、このパーティーが好きなんだ。やっと、やる事出来たからね。こうじゃないと、面白くないぜ!!」
「その調子だ。勢いでこの結界ぶっ壊してみろ。実は簡単だぜ。あるポイントさえ突けばな」
「それは無理。自分の限界はわかってるつもりだよ。この結界は、私では解けない!!」
ミーナが笑った。
「合格だ。それが分かってりゃ問題ねぇよ。出来ねぇ事やろうとされると困っちまうからな。よし、見てろ」
俺は呪文を唱えた。
「……ん、ジジイに教わったな。いつもの気まぐれが出やがったか。しかも、これ見た目だけだぜ。それっぽく教えて誤魔化しやがったな」
俺は呪文を中断した。
「おい、ミーナ。試しに軽く蹴飛ばしてみろ。それで、ぶっ壊れるぜ」
「ま、マジで!?」
ミーナがそっと近づき、結界壁を蹴った。
瞬間、ガラスの割れるような音が響き、結界が消滅した。
「……な、なんで?」
「ナターシャの野郎、ジジイ相手によっぽどしつこく粘ったんだろうな。しまいには面倒になって、適当にあしらわれたみてぇだ。魔法に関しては絶対に妥協しねぇはずなのに、こんな妙なの教えるなんざよっぽど頭にきたらしいぜ」
俺は笑った。
「……ど、どんな器用なことすれば、こんな変な魔法が」
「俺だってよくやるだろ、全く役に立たねぇ魔法ってやつをよ。この程度、簡単に誤魔化せるぜ。ちょっと注意すりゃ分かるのによ、これも名前に騙された例だな」
ミーナがため息を吐いた。
「も、もう、タンナケットしか信じないぞ。他に当てがなくなった!!」
「ったく、ここは腐っても弟子が頑張るか。面倒な師匠だぜ」
俺は息を吐いた。
「さてと、なんとかここまできたな。ダメかと思ったぜ」
俺は小さく笑った。
「まあ、ここまでのはなかなかないぜ。ってか、私の経験でもねぇぞ!!」
ミーシャが笑った。
「ったく、いいタイミングできちまったぜ。お陰で、楽しくてしょうがねぇよ!!」
国王が笑った。
「よし、ミーナの杖をまともにする前に、ちと休ませてくれ。いくら何でも、魔力を使い過ぎだぜ」
「あいよ!!」
ミーシャが俺を引っつかんで胡座をかき、その中にブチ込んだ。
「寝ちまえ。ずっと起きてるだろ!!」
ミーシャが俺の背中を撫でた。
「一応警戒しておきます。仕事寄越せ!!」
ミーナが笑った。
「じゃあ、俺は弓を直しておくぜ。これが、大事なんだよな!!」
国王が弓を弄り始めた。
「初めてだな。ミーナ、任せたぜ」
「自分でいったので、もちろん」
ミーナは杖を持った。
「……それ、回復しかできねぇって、忘れてねぇよな?」
「ああ!?」
「……おやすみ」
「ま、待て!?」
俺は苦笑して目を閉じた。
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