第2話 縁

旦那とは喫煙所で挨拶を交わすだけの顔見知り程度だった。何度か挨拶を交わし会話は一切せず、お仕事に出る日がお互い合わなかったのか、しばらく会えない日が続いた。


何日か経ったあと同じビルで働く友人とご飯を食べることになり、飲食店がいくつも並ぶ所で「どこにしよう」とうろうろしていた。

「ここは?」と友人が指をさした先に、

喫煙所で挨拶を交わすだけの旦那がそこにいて

いかがですか〜とキャッチをしていた。

目が合い、また「お疲れ様です」と会釈。

他へ行こうと、目をそらし歩き始めようとした時「最近喫煙所、来てないんですか?」と旦那が話し始めた。今までそういう会話をしてこなかったので、もし答えたとして私ではなく後ろにいる人に話しかけていたら恥ずかしい目に合うと、咄嗟に後ろを振り向き誰もいないことを確認し「私ですか?」と訪ねた。

すると「他に誰がいるんですか」と無邪気な笑顔で笑った。

私は笑われたと思い恥ずかしくなり

顔を赤らめながら初めて会話をした。

「いえ、毎日喫煙所には行ってます」

「あぁ、会わなかっただけなんですね」

たったそれだけだったけれど

なんとなく仲良くなれた気がした。

その日は旦那の場所では食事はせず

「次は食べに来ますね」と言ってその場を離れた。


日が経たないうちにと

友人とまた旦那が働いてる階に出向いた。

旦那はまた店の前に立ちキャッチをしていて、

「お疲れ様です、食べに来ました。」と伝えると

嬉しそうに案内してくれた。

お水を持ってきてくれるのも、ご飯を持ってきてくれるのもすべて旦那だった。

食べている最中また来て、私の前にしゃがみ、話し始めた。

「仕事終わりですか?」

「そうです」

「夕方までなんですね」

「はい、何時までなんですか?」

「23時ぐらいまでですかね」

「遅いんですね」

他愛もない話をしたあと

「休憩は何時までなんですか?」と尋ねた。

昔はそんなこと思って言ったつもりは無かったのだけれど、すごく仲良くなりたかったのだと今になって思う。

休憩が20じくらいだと言っていて

暇だしタバコも吸いたかったので、待っていてもいいですか?お話しましょう。と言っていた。人見知りの私が待っていてもいいですかだなんて、初めてかもしれない。

20時まで待ったあと一緒にタバコを吸い、成り行きで連絡先を交換した。

「そういえばおいくつなんですか?」と聞くと

「何歳に見えますか?」といたずらっ子のように笑った顔がとても可愛かったことを

昨日のことのようにハッキリ覚えている。

初めて連絡し合った夜は普段使うことのない顔文字や絵文字がたくさんだった。

連絡を取り合って喫煙所でも話をするようになって、何日か経った頃。

私は休日祝日がお休みだったので

明日は出勤ですか?と尋ねられおやすみですと答えると旦那は黙り込んだ。

沈黙が気まずくて、ふざけて「寂しいんですか?」と笑い飛ばした。

「その笑顔を見れないのは寂しいですね」

旦那はそう真剣に答えた。

沈黙がもっと深まった。

それからはお互いの昔の恋愛やくだらない話を

ずっと繰り返した。


また何日か経った夜中のことだった。旦那から電話が来た。

「伝えたい事があって」

友人が泊まりに来ていたので急いで外に出て用件を聞いた。

「好きです。笑顔に一目惚れしました。」

言われると思ってなかったとはならなかったけれどビックリしたし、嬉しかった。

けれど当時の私はひねくれていて

「だからなに?すきだからどうしたいの?」

と質問攻めにした。

電話の向こうから小さな照れたような声、すごく早口で伝えられた言葉が

「付き合ってください」だった。

これが私たち夫婦の縁。

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思い描く理想の夫婦 @kuronaRN

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