我輩は小説である。コメントはまだない。
ちびまるフォイ
これであなたも見えなくなる
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小説には何も書かれていなかった。
「……なんだこれ。ふざけてるのか?」
面白そうなタイトルだと思って開いてみれば、空っぽ。
腹立ちまぎれにコメントを書いて送った。
>中見ないのに投稿してんじゃねぇよバカ
コメントが投稿されてから反映されているかもう一度ページを開いた。
すると、小説には18文字だけ物語が追加されていた。
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>世界を終わらせるため100均へ行った
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「あれっ、なんか書き進んでる」
作者がリアルタイムに更新したのかと思い、何度か再更新をかけた。
けれど18文字が投稿されてからは何も変化はでなくなった。
「コメントで嬉しくなって書いたってわけでもないよなぁ」
先が気になってしょうがない。
もう一度コメントを残してみても、今度は何も書き進むことは無かった。
そして、前に投稿した自分のコメントを見て気が付いた。
「いち、にぃ、さん……18文字だ! これって、もしかして!?」
小説が進んだ文字数も18文字。
俺が投稿したコメント数も18文字。
書かれたコメントの文字数分小説が公開されていくのかもしれない。
「くっそーー、めっちゃ先が気になるなぁ。
最初のコメントをもっと文字数多くしておけばよかった」
反映されるのは1度目のコメントのみ。
そこで、ほかの人に協力してもらってコメントを書いてもらうことに。
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自主企画:この作品にコメントを載せてください
■ 文字数は最低でも100文字以上
■ 内容はどうでもいいです「あ」だけでもOK
■ コメントを書いたら作者ではなく、私に連絡してください
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自主企画始まって以来の他人の作品をプロデュースする謎企画を行った。
これで自分以外の人にコメントを書かせて先を読むことができる。
と、思ったが集まりは異常に悪かった。
「どいつもこいつも、自分が読まれないものには参加しないのか。
こうなったら足でかせぐしかないか」
自主企画で募集するのをあきらめて、他の作品に出向いてはコメントを残し、
>この作品に、何でもいいからコメント書いて!
と宣伝しまくる訪問販売のようなことを続けた。
結果は宣伝業者臭さからやっぱり誰も寄り付かなかった。
「あーーもう! どいつもこいつも非協力的過ぎる!」
しかし、あの冒頭からどう進んでいくのかが気になって夜も8時間くらいしか眠れない。
他人に任せられないと判断し、使わないメールアドレスを大量に作成した。
大量のメールアドレスをもとにサイトに複数のアカウントを作成し、
自分でいちいちアカウントを切り替えながら、小説にコメントを書いていった。
「最初からこうしておけばよかった。これならたくさん読めるぞ」
コメント欄いっぱいにどこかのサイトからコピペした文章を載せて文字数をかせぐ。
それを何度もアカウントを切り替えて投稿し続ける。
あれだけ真っ白だった小説も、コメント文字数がかさむにつれどんどん表示されていった。
今日は大量にコメントを投稿する作業だけを行って、
明日に進んだぶんの小説を一気読みしようと楽しみにして寝た。
翌日、該当の小説にアクセスすると、また真っ白になっていた。
けれど、今度は物語ではなく別のものが表示されていた。
【 該当の小説は運営により不適切と判断されて削除されました 】
「はあああああ!?」
怒りのあまり連絡すると、答えはあっさりしたもので
『複数のアカウントでのコメントが見受けられました。
サイトの利用規約上、コメントによる評価の水増しは認めてないんです』
と、あっさり俺のサブアカ連投作戦が見破られてしまっていた。
「こんなことなら、昨日のうちに読んでおけばよかった……」
がっくりと膝を追って地面に手をついた。
中途半端に読んでまた先が気になるくらいなら、と考えたのが間違いだった。
それでも先が読みたくなり、作者のページへとアクセスして連絡した。
「あの、今は削除されてるんですが、前に投稿した『 』という小説。
なんとか読ませてもらえる方法はありますか?
せめて、どういった展開で、どうなっていくかだけでも。
あなたは作者ですから、それくらいは答えられるでしょう?」
「あなたは?」
「あなたの作品のファンです。どうしても先が読みたくて震えてます」
「もしかして、コメント書いたのも……?」
「はい、そうです。私が変なコメント主です」
「そうですか。バックアップならありますよ、再度掲載します」
「本当ですか!? ありがとうございます!!」
こんな幸運があったなんて。作者がバックアップしていてよかった。
外部サイトを経て手に入れたテキストファイルには、
あれだけ読みたがっていた作品がずらずらと書き進めていた。
「ああ、やっぱりすごく面白いです! 大好きです!」
「よければ、差し上げますよ。あなたの作品として投稿しても構いません」
「ええ!? 本当ですか!? いいんですか!?
書籍化して印税が入って、札束風呂入ってもびた一文あげませんよ!?」
「かまいませんよ」
「あなたは神か!!」
こんなに面白い作品を自分名義で出させてくれるなんて、親切どころじゃない。
さっそく、自分のマイページからこの小説を掲載した。
「本当にありがとうございます。掲載できました」
「それはよかったです。やっと解放されました」
「でも、どうして譲ってくれたんですか?」
「実は私、応援コメントにひどく飢えていたんです。
評価も欲しいがコメントで褒めちぎられたいとばかりに思っていた時期があり
その時にこの透明小説を手に入れたんです」
「気持ち……わかります」
「透明小説に出会って以来、私は物語のインスピレーションが止まらなくなり
何を書いても自分では最高傑作と呼べるほどの品質になりました。
皮肉なものですね。書いても読まれないというのは」
「読者が寄ってこなかったんですか?」
「いえ、もうあなたのおかげで、そうはなりません。
こちらこそ、本当にありがとうございました」
何か引っかかる物言いだったが、そういう人なのだろうと思って気にしないことにした。
マイページ戻って小説を確認して気が付いた。
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俺がたしかに投稿したはずの小説が透明になっていた。
過去に投稿した作品もすべてキレイに真っ白な画面だけが映されている。
元・透明小説作家が嬉しそうにやってきた。
「これを手に入れると、あなたの小説がすべて透明になるんですよ。
ああ、引き取り手がやってきてくれて、本当にうれしく思うよ」
我輩は小説である。コメントはまだない。 ちびまるフォイ @firestorage
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