寒中水泳教室
寒中水泳教室・1
好きな男の子に一度や二度ふられたくらいでめげていられないアガサである。
「これを機会に、バルバル王妃になる事も考えたら? おいら、風の精霊となら水よりはマシにつきあっていけるぜぃ!」
フレイの言葉に、アガサの隣でアリが真っ赤になってしまった。
こほこほと咳をしている。
「何を言っているのよ! どっちみち今のままじゃ、バルバルにもここにも入れないのよ! どうにか、あなたをコントロールできない事には」
そう。そのためには、ロウソクに火をつけることが肝心なのだ。
だから今、アガサはアリの絨毯に乗って、練習場所を探している。
「ね、それはそうと……この絨毯、ずいぶんと揺れていない?」
同乗中のイミコは、さっきからアガサの背中に貼り付いていて、固く目をつぶっている。いっしょに場所を探すという本来の目的をまったくなしていない。
「ごめんなさい。三人乗りするには、ちょっと私の力不足で……がんばります」
アリが赤い顔をしたまま答えた。
「おーい、おーいや、おーい!」
少し前を飛んでいたイシャムが手を振っている。
そちらの絨毯の上には、ジャン‐ルイも乗っていた。彼は、ずっと絨毯の上に立ち上がって、あちらこちらを探していた。
そして、どうやらいい場所を見つけたようである。
アガサ強化訓練初日である。
誰もフレイの力に対抗できないならば、全員総出で協力しようということになったのだ。もっとも、今日は日曜日で学校が休みだからできるのであるが。
ソーサリエの学校は、水曜日と日曜日がお休みなのだ。
――でも、一ヶ月しか期間がないのに、週二回の練習じゃあ足りない……。
アガサは焦っていた。
しかし、まさかこのメンバー全員に授業をさぼって! とは言えない。
ソーサリエの学校から飛ぶこと十分ほど。
ジャン‐ルイが見つけたのは、天空の欠片であるハグレ地のひとつである。
真ん中に大きな池があり、それが地表の80%は占めている。上空から見ると、まるで大きなスープ皿のような形をしている。
「ハグレ地に上陸するなんて、校則違反です。火の寮の生徒総監であらせられるジャン‐ルイ・ド・ヴァンセンヌ殿がなさることではないと思いますが」
降り立って開口一番、カエンが言い出した。
「上陸は校則違反ではないよ。ハグレ地まで飛ぶことが校則違反なのさ」
「ますます悪い気がする……」
そんな校則があるなんて、アガサは知らなかった。
だが、ジャン‐ルイはそっけなく言った。
「僕たちは飛んできたんじゃない。乗ってきたんだ。だから、違反じゃない」
「すごいへりくつのような気がする……」
アガサの横で、イシャムががはは……と笑った。
「でーじょーぶですたい! アガタ姫。おいどんとアリは許可書を持ってるとですたい」
よく見ると、今日のイシャムの顔は眉が五倍でヒゲがなかった。精霊・ジンの筆さばきによるものだった。
「な、な、何? 今の?」
「おそらくマダムのいたずらです。すぐにいつもの口調に戻ると思います」
アリがこほこほ咳をしながら言った。
「そうなのよぉ。マダムは、あたしが古株なので、時々こんないたずらをしでかしておもちゃにしているのよぉ」
……五倍眉毛で気持ち悪い。
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