おまけ マンモスあわれな奴

 イプノティスモの瞳を取り返した俺はシェイラたちと合流した。

 

「へえ、大きいな! それがイプノティスモの瞳か」

「きれいだけど、赤みが強いし、光の筋が目みたいでちょっと不気味だね」

 

 2人は俺の手の宝石をじっと眺めて喜んでいる。

 こんな秘宝なんてめったに見れるものでもないし、はしゃぐのも無理ないが……魔導師マンハリンの首は気味悪がられもせずスルーらしい。マンモスあわれな奴(※どうでもいい情報ですが、エステバンは蟹座デスマスク)。

 

 このイプノティスモの瞳、ザクロ石よりも濃い赤色の宝石だ。

 レーレの言うように12条のスター効果がクッキリと出ており、こちらを睨む目のようにも見える……これが名前の由来だろうか。

 大きさは直径8センチくらいのタマゴ型。宝石としてはかなり大きい。

 

「どうやって使うのー?」

「魔力を込めて、これを見せながら名前を呼ぶんだ。命令するにはかなり魔力が必要らしいぞ」

 

 レーレが「エステバン、ボクを好きになれー」と無邪気にはしゃいでいるが、なかなか使えるものではないようだ。

 

「無理だぞ、俺はレーレのことはもう好きだからな」

「え? やっぱり? 照れるなー」

 

 レーレが「にゃはは」と喜んいるが、イプノティスモの瞳は作動していない。

 魔力以外にも作動キーが必要な可能性もある。

 

 ……まあ、そうじゃなきゃ、俺がこの秘宝を持ち逃げして世界征服できるもんな。

 

 使い方がわからなければ珍しい宝石としての価値しかない。

 

 不完全ながらも秘宝を使って見せた魔導師マンハリンはかなりの魔力と学識をもつ実力者だったのだろう。

 彼が秘宝に頼らず、純粋な力比べになったら危なかったかもしれない。

 

「エステバンはさ、使うとこみたの?」

「ああ、やばかったぞ。エスコーダ家にはすでにマンハリンに洗脳されたやつがいてな。俺の名前は知られてたのさ」

 

 レーレが「ひええーっ」と大げさに驚き、シェイラは心配そうな表情をみせる。

 ここまで喜んでもらえるなら、俺もサービス精神を発揮するしかない。

 

「ああ、俺は気がついたら幻に囚われていた。レーレは人間で、俺と恋人? なのかな? その愛で俺は幻から逃れることができたのさ」

「こ、こらっ!エステバンは私の婚約者だろう!? レーレが恋人なんて変だ!」

 

 シェイラがぷりぷりと怒るが、それを見たレーレが「愛だよねー」などと煽っている。きゃぴきゃぴとした雰囲気で楽しそうだ。

 

 俺は順にシェイラが隣で暮らしてたこと、レーレがクラスメートだったことなどを順に説明するが……どうにも伝わらない部分が多い。

 例えば、こちらで「学校」と言えば学者など知識階級が通う大学みたいなものになる。

 貴族や上流階級の教育ですら家庭教師が一般的なのだ。

 

「ふーん、学校エスクエラかー。難しそうだけど、みんなと一緒なら楽しそうだね」

「エステバンは賢いからなっ」

 

 案の定、シェイラはあまり理解できてないが、これは仕方ないだろう。

 彼女がバカなわけではなく、俺の話が荒唐無稽なのだから。

 

 それにしても奇妙な幻だった。

 俺の中での楽しい記憶や幸福感といったものがごちゃまぜになったような……そう考えると、日本の学生生活ってかなり特殊だったんだな。

 

「ね、ね、エステバンはボクが人間だったらうれしい? 恋人だったんでしょ?」

「それは難しい質問だ。たしかに人間のレーレはキュートだった。だけど俺は今のレーレが好きだしな」

 

 この手の答えづらい質問には照れないのが肝要だ。

 俺は実質ゼロ回答なのだが、レーレは満足して「にゃはは、照れちゃうよお」と喜んでいる。

 

「だめだっ! そんなの浮気だぞっ! エステバンは私のことがイチバン好きじゃなきゃダメなんだぞっ!」

「えー、そうかなー? エステバンはボクの魅力にメロメロだからね、本命がボクでも仕方ないんじゃない?」

 

 シェイラがレーレに突っかかり、なにやら揉めだしたが……よく幻の話でケンカができるもんだ。

 

「うーん、シェイラは裸になれー」

「な、ならないぞっ!」

 

 イプノティスモの瞳で2人が無邪気に遊んでいるが、すぐに返すしこのくらいはいいだろう。

 

 ……学生もいいけど、俺は今の旅暮らしが気に入っているからな。

 

 レーレの故郷を探してかなり北西まで移動した。

 そろそろアイマール王国の版図からも外れはじめている。

 旅も終わりが近いのかも知れない。

 

 俺は少しセンチな気持ちになり、はしゃぐ二人を見つめていた……彼女らを見ていると、どこかで何かを忘れてきたような……?

 

「あ、首……? シェイラは……もってない、よな」

 

 俺の言葉にシェイラは「首ってなんだ?」と不思議そうな顔をしている。

 どうやらはじめから意識の外だったらしい。

 

「やべ、どこに置いてきたんだろ」

 

 マンハリンの討伐も含めての依頼だ。証拠がなければ認められない。

 俺は慌ててマンモスあわれな首を拾いに戻った。すまんな。

 

 

 

 ■■■■

 

 

 魔導師マンハリン

 

 地方領主エスコーダ家に仕えていた初老の魔導師。

 古代の遺跡が多いエスコーダ地方で研究を奨めるうちにイプノティスモの瞳の使い方を知り、悪心を起こしたようだ。

 今回はあっさりやられたが、これはイプノティスモの瞳とエステバンの相性みたいなもので、実力者ではある。

 ちなみに魔導師、魔術師、魔法使いなどの違いに定義はないが、一般的には公職につくと魔導師と呼ばれる傾向があるらしい。

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