好色冒険エステバン

小倉ひろあき

1話 森人との出逢い

1 うだつの上がらない3等冒険者

 俺の名はエステバン。

 ここ、アイマール王国の冒険者ギルドに所属する冒険者だ。


 もともとは日本で冴えない派遣社員をしていた俺だが、神様の手違いとやらで死んでしまい人生をやり直して――いわゆる転生をして29年になる。


 このアイマール王国ってところは、いわゆる『剣と魔法のファンタジー』的な世界だった。

 科学技術は低く、鉄砲や電気の無い『中世ヨーロッパ風』ってヤツだろうか。

 魔法って便利なモノがあるお陰で生活水準はそれなりだ。


 はじめは俺も2度目の人生のアドバンテージを活かし、必死で努力したものさ。

 なにしろファンタジーの世界だ。日本では無かった剣や魔法で伸し上がってやろうと考えたのは俺の中では自然な事だった。


 まだよちよち歩きの頃から魔法を習い、読み書きを覚え、剣や弓で体を鍛えた。

 そんな俺はいつの間にか『神童』と呼ばれ、期待されたもんだ。

 神様の手違いとやらにも感謝したよ「これでうだつの上がらない人生とはお別れだ」「俺は絶対に成り上がるんだ」って。


 ――だが、人生とはそんなに甘いもんじゃない。


 俺には剣も魔法も才能が無かったんだ。


 成り上がるために危険な冒険者になったものの、才能が無かった俺の能力はすぐに頭打ちになってしまったのさ。


 危険な冒険を何度もこなし、最年少で3等冒険者になったまでは良かった。

 だが、これ以上の高みに行くには特別な才能が必要なんだと散々に思い知らされたんだ。


 無論、俺だって誰にも負けない努力はした。

 努力で才能をカバーできると信じてな。


 冒険者は10等級あり、6等かそこらで一端いっぱしと言われる世界だから俺の3等ってのは「そこそこ有名」だ。

 だけど、良しくも悪しくも「そこそこ」止まり。


 幼い頃から脇目も振らずに鍛え続け、その結果が「そこそこ」……思い描いていた成り上がり人生とは程遠い現実だ。


 殻を破りたくて死線を潜り抜けたのも1度や2度じゃない。

 仲間と共に魔貴族と呼ばれる魔王の尖兵とやりあったこともある……とは言っても1等冒険者のサポート役、つまりモブ枠として荷運びしただけだけどな。

 まあ、これはこれで凄いことではあるんだ。


 だが、ここまでだ。


 はじめのアドバンテージである程度のところまでは鍛えたが、どうしても一流どころと言われる最後の壁が越えれなかった。


 超一流と呼ばれる1等2等の冒険者は才能の塊だ。

 剣を使うものは信じられない身体能力や人間離れした頑健な肉体を持っていたし、魔法使いは生まれつきに膨大な魔力や鋭敏な魔力操作を備えていた。


 彼らは『持てる者』だ。

 たまたま冒険者をしているが、武官や宮廷魔術師になっても一流以上になる存在……努力では越えられない『何か』を持つものたちだ。

 事実、2等冒険者以上になると、何らかの功績を立てて領地を貰ったり、開拓団を率いて土地を得て貴族になる者も珍しくない。


 俺もそれなりに活躍したが所詮は3等、再就職の話も貴族に仕官を誘われたり、戦士団にスカウトされたりする程度だ。

 これらの職業を否定する気もないが『自ら貴族になる』のと『貴族に仕える』のでは成り上がり度としては雲泥の差がある。俺はどうしても納得できなかった。

 せめて王様の直臣なら……とも思っていたが、そんなに甘くはない。


 3等冒険者となり10年。いつの間にか気力もすり減り、向上心も尽きた。


 思うような再就職の話もなく、気がつけば29才。

 冒険者として先も見えたが、かといって鍛えた剣や魔法も「そこそこ」で食っていくには困らない。

 「そこそこ」の成功を収めたので今さら違う道に行く度胸も無い。


 冒険者以外、他に何もできない半端者――それが今の俺3等冒険者エステバンだ。




――――――




 今の俺は王都を離れ、辺境のチャパーロの町で冒険者をしている。


 田舎のギルドでは3等冒険者は珍しく、それなりの依頼をこなしつつギルドの酒場か娼館で時間を潰す。

 そんな屁みたいな毎日を送っていた。


 今日も俺はのんびりと冒険者ギルドに向かう。

 昨夜から娼館に居続け、すでに日はかなり高い。


「おい、エステバン! 良いところに来たな」


 俺がギルドに顔を出すと、支配人ギルドマスターのペドロが声を掛けてきた。

 ペドロは赤銅色に日焼けしたむさ苦しいハゲ親父だ。


 彼は元4等級冒険者で俺もパーティーを組んだことがある強面こわもてだったが、結婚を機に引退し、ギルドの職員となった。

 もう50才近いはずだが、数年前にハイティーンの若嫁さんを貰った変態ロリコンだ……実に妬ましい。


「どうしたんだペドロ。また浮気がばれたのか?」


 俺が根も葉もない言いがかりを口にすると、ペドロは「したことねえよ、殺すぞ」と凄んできた。

 冒険者は荒くれ揃い、気が短いやつらが多い。


「全く、適当なこと言うなよ。この依頼書を見てみろ」

「ん? 豚人オークか。もうそんな季節か」


 ぼやきながらペドロが差し出した依頼書は豚人の討伐だった。


 豚人は繁殖力が非常に強く、人間や他種族の亜人とも交配が可能だ。

 春は彼らの発情期でもあるらしく、辺境の街道や村を襲撃して女をさらうことが多い……これがバカにならない被害が出るので、毎年のように春先には豚人の駆除が行われるのだ。


 余談だが、知能がある豚人は厳密に言えば亜人であるが、人に迷惑をかけるのでモンスター扱いだ。

 あくまでも人間の都合であるが、人間に迷惑をかければモンスターである。

 他にもゴブリンやワーウルフも亜人でありながらモンスターとされるが、この辺も人間の事情でしかない。


「おいペドロ。豚人なんぞ、6等かそこらのパーティーに任せろよ」

「そう言うな。今年は暖かいからな……すでに奴らが色気づいてるらしいんだ。このままじゃ被害が拡大しちまうし、大急ぎの案件なんだよ」


 ペドロは顔をしかめるが、俺は興味なく「ふうん」と再度、依頼書を眺めた。

 賞金は1体1000ダカットの出来高払い――ちなみにダカットと言うのはこちらの通貨だ。

 豚人討伐は通常だと700~900くらいが相場だから、確かに急ぎらしい。


「いいぜ、討伐証明は鼻で良いのか?」

「ああ、助かるよ。期限は8日で最低でも3匹以上……まあ、お前なら問題ないな」


 ペドロは「待ってました」とばかりに手早く書類を作成する。

 はなから俺が引き受けると思っていたらしい。


 今の俺はパーティーを組まない単独ソロ冒険者だ。

 報酬を頭割りしなくても良いから実入りは良い。

 数匹も豚人を殺せば暫くは働かなくてもよい稼ぎになるはずだ……もっとも、道具のメンテナンスや新調したりで経費はそれなりに掛かるし、俺の場合は娼館やら飲み代やらですぐに無くなっちまうんだが。



 豚人は知能があり油断できる相手ではないが、若い頃は何度もこなした依頼でもある。

 しかし、どのような内容であれ討伐依頼は危険なモノには違いない。



 俺は宿に帰り、手早く身支度を整えると森へ向かった。





■■■■■■



エステバン


人間、男、29才。 庶民ながらも比較的裕福な半農半商の三男。

各地でそこそこ活躍したベテラン冒険者。

本人は『全てそこそこ』と自嘲しているが、剣、弓、魔法とバランス良く備え、ベテランらしく無理をしない彼は依頼の成功率も高く、周囲からは実力者だと目されている。

中肉中背で黒目黒髪。

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