4-15

 今日、ユリウス様が出撃なされました。ボルデ(※大陸東部に位置する村。ウール山脈を挟んでテアルタ共和国に隣する)の地に異教徒が攻めこんだそうです。心配はしていません。きっとすぐ終わるでしょう。ただ不満があるとすれば、曾祖母が羨ましい。私はただユリウス様の無事をお待ちすることしかできないのです。手持ち無沙汰に日記を捲っていたらこんな一節を見つけました

 「ボルデの地で一晩を過ごす。そこかしこに葡萄がなっていて、町はワインの香り。ヘクトルが酔っぱらって好き放題暴れ、次の日は寝坊。もう二度とあの人には酒を飲ませないようにしましょう」 

 地図を広げてボルデの辺りの鼻を近づけてみても、インクのにおいしかしません。私はきっと、マントについた汗と草木、靴にしみ込んだ泥と血のにおいであの方が見た景色を想像するしかないのです。それが待ち遠しくも妬ましい。これくらいにしておきましょうか。

                                     A

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る