4#風船ウマ
「?」
ここは、乗馬コーナー。
元競走馬のサラブレッドのライフルは、空を見上げていた。
「何か白いのが降りてくる?!」
ふうわり・・・ふうわり・・・
その白いのは、真っ直ぐにライフルの居る乗馬場に向かってゆっくりと降りてきた。
「あれは・・・」
ふうわり・・・ふうわり・・・
「風船だっ!!」
ライフルには、風船というものにかなりの因縁があった。
・・・・・・
競走馬時代。ライフルはGⅠレースに出走する程の能力を持っていた。
GⅠレースに勝ったライバル達は、表彰式でいっぱいの風船が飛ばされて、その栄光を祝福されていた。
・・・悔しいなあ・・・
・・・僕もあの風船の洗礼を受けたいのに・・・
今回もGⅠレースを惨敗して、厩舎の人に曳かれて馬場から引き揚げるライフルは、空高く飛んでいく風船の群れを悔しい目で見上げていた。
・・・僕もあの風船の洗礼を受けたい・・・!!
ライフルは『風船』の為に、
『風船』と戯れたいが為に、
トレーニングセンターでの毎日の調教を頑張り、
幾多の重賞を勝ち、
幾多の試練を乗り越えてきた。
しかし、どう頑張ってもライフルはGⅠレースには勝てなかった。
毎度、勝った他のライバル馬の表彰式で飛ばされる風船を見上げて悔し涙を流すだけ・・・
どんなに頑張っても、
どんなに頑張っても・・・
やがて・・・
「んん?これから競馬?」
ある日、厩舎から馬運車へ曳かれて行き着く先が、
「ここは何処?!」
ライフルはやっと気付いた。
ライフルは『競走馬』を引退させられたのだ。
ライフルは年齢的に『競走馬』として、やっていけなくなっていたのだ。
風船の洗礼を受けたいが為に、無我夢中で走ってきてきて!いつの間にか年月を重ねていたのだ・・・
「何故だ・・・!!何故だ・・・!!僕はまだやれるのに!!」
ライフルは呆然とした。
遠退いていく、風船の洗礼。
ライフルはじっと空を見上げた。
風船がひとつも飛んでいない、ただ鳥が飛ぶだけの大空。
それが、今ライフルの為に白い風船がこっちに向かって降りてくる・・・
「風船・・・風船・・・」
ライフルは譫言のように呟き、後ろ脚立ちして口を開いて降りてくる風船の紐を掴もうとした。
びゅううううう・・・
「えっ?!」
突然、風が吹いて風船の紐がライフルの口からスルリと抜け・・・
ぱくっ。
「ひーろった!!」
「あーーっ!!アルパカの野郎!!この風船は俺が取ろうとしたものだ!返せ!」
「やだよー!!私が拾ったから私のものよ!!あっかんべー!!」
柵の外で放し飼いされていたアルパカのパーカーは、口にくわえた風船の紐を揺らして真上でフワフワと浮いている白い風船に見とれながらスキップして去っていった。
「んもう・・・やっぱり俺は風船には縁が無いのかなあ・・・はぁ・・・」
乗馬のライフルは深くため息をついた。
「おーい、ライフル。乗馬体験の出番だよ。」
乗馬スタッフが、馬具を持って項垂れるライフルの方へ向かってやって来た。
「ライフルよお。今日は何か元気無いなあ。どうしたの?」
乗馬スタッフがライフルに馬装しているのを気になって、ライフルが後ろを向くと・・・
「しっぽ?!」
ライフルは目を疑った。
ライフルの尻尾に、パンパンに孕んだ赤い風船の紐が結ばれてフワフワと揺れていたからだ。
「ふ・・・ふ・・・風船だぁーーーー!!ひひーーーん!」
「こらっ!こらっ!暴れるなっ!立ち上がるなっ!」
尻尾の風船に歓喜したライフルは、手綱を必死に握りしめてドウドウと宥める乗馬スタッフをよそに、乗馬場じゅうを跳ね回った。
・・・他の馬仲間達の尻尾にも・・・!!
・・・柵に風船がいっぱい結んである・・・!!
・・・乗馬待ちの子供達にも手に風船が・・・!!
「風船!!風船!!風船がいっぱい!!ひひーーーん!!」
競走馬では栄光を逃して、風船にありつけなかったサラブレッドのライフル。
でも、乗馬になってからこんなにも風船に囲まれて念願が叶い、ライフルはとてもとても幸せだった。
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