第2話 前編


 起きると見知らぬ天井だった。どこだここは。

 それよりも身体を起こさないと。


「んん~っ」


 まず両手を伸ばして上半身を起こそうと腹に痛みが来た。


「うっ!」


 直ぐ様お腹をさする。痛みは直ぐに引いていた。

 今の痛みで意識がはっきりしたが、なんで俺はここにいるんだ。着ている服も憶えのないものだ。というよりパジャマだこれ。

 とにかく俺は何をしていたか思い出す。


「そうだ!俺は腹を刺されたんだ!」


 あれだけ腹から血が出たはずなのに…………よく見たら傷がふさがってる。包帯すら巻かれていなかった。

 

「あとは…………」


 他に思い出そうとした時だった。


「ん?あれ起きたんだ!」


 急にドアが開いたと思ったら女の人が入ってきた。


「えっと…………?」


 俺の知り合いではないはずだ。


「ああ、ごめんね。私は名取清美なとりきよみ。よろしくね」

「あ、俺は笹倉良司ささくらりょうじです。よろしくお願いします。」

「とりあえず、どこか痛いところとかある?気持ち悪いところとか」


 自己紹介したあとは早速おれの体調について訪ねてきた。


「さっきお腹に痛みが出たくらいで他はないです。」

「ありがとう、他に何かあったら言ってね。そうだ!お腹は空いてる?」


 そう聞かれるとなんかお腹が空いてきた気がする。


「そうですね。空いてます」

「そっか。起きてるとは思わなかったからご飯とかは持ってきてないんだよね。今持ってくるから待っててね」


 そう言って名取さんは部屋から出ていった。

 俺は何もすることがなくなったので、まだ思い出してない事を思い出そうとしていた。

 そう、俺は腹から血が出ていた。どうして無事なのかは気になるが、その前だ。怪しいやつらから逃げてたんだ。そう友達と…………。


「っ!」


 そこまで来てやっとすべて思い出した。

 小林、中村、鈴木。全員死んだ。そして俺自身だって死んだと思ってた。なのに生きてる。

 いや――俺は生きているのか?――死んでいる可能性もあるはずだ。やけにリアルな天国かもしれない。

 色々な事があって頭が整理しきれない。グルグルと悩んでいると、ノックの音がした。


「名取です。入って大丈夫かな?」

「大丈夫です」


 そう言うと名取さんと見知らぬ男性が入ってきた。見た目は老人だった。


「はい。起きたてだからお腹に良さそうなのを持ってきたよ。」


 お水と、りんごやみかんなどのカットされた果物がのったお皿をベッドの脇に置かれた。


「それと、この人は竹内玄龍たけうちげんりゅうさん。色々聞きたいことあるでしょ?」

「私に答えられることがあれば教えますよ。まずはお腹を膨らませないと。あなたは一週間は眠っていたのですから」

「一週間もですか?」


 俺は一週間も眠っていたのか…………いろいろ考えたいし、いろいろ聞きたいがまずは腹に何かいれないと。

 俺は食事をした後、改めて二人に向き合った。いざ聞こうと思うと何聞けばいいかわからない。

 俺の様子を見かねてか竹内さんが口を開いた。


「ではこちらから説明しましょう」

「私達の仲間がね倒れたあなたを連れてきたの。重症だったから傷が塞がるまで皆看病してくれたんだ」


 俺はこの人達に助けられたのか。やっぱり俺が血まみれになったこと夢じゃないのか。でも他に気になる事がある。


「俺、友達と一緒だったんです。友達はどうなったんですか!?」


 竹内さんは険しい顔をしている


「あなたと同い年位の遺体があったと聞きました。その遺体は私の仲間が警備棟の側に置いてきたといってました」


 やっぱり皆死んだのか?俺は希望を込めて聞いてみた。


「友達は助ける事はできなかったんですか?」

「仲間が見に来たときはすでに亡くなっていました」


 ……もう皆と会えないのか。小林、中村、鈴木…………。


「しばらく休む?」


 名取さんが聞いてくる。だけどここで休んではいられない。まだ聞いてない事もあるんだから。


「大丈夫です。それに此処の事を聞いてませんし、いつ帰れるかも知りたいです」

「やっぱ帰りたいよね…………」


 名取さんの態度がなんか変だ。


「ここから話が長くなります。あなたにとって信じられないような話が沢山あると思います。それでも大丈夫ですか?」

「はい、聞かせてください」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る