よるこさん

瀬川

よるこさん


 ねえねえ、よるこさんって知っている?


 放課後、一人で家に帰っている子の前に現れて、こう聞いてくるんだって。


「友達になってくれる?」


 それに頷くとね……





「あの世に連れていかれちゃうらしいよ!」


「うそー!?こわーい!!」


「この前、下級生の子が話しかけられて、慌てて逃げたって」


「そうか。聞かれたら答えなきゃいいんだもんね」


 クラスの女子は、みんな馬鹿だ。

 大きな声で騒いでいる奴らの話を聞きながら、俺は内心で思っていた。


 高校生にもなって、そんなくだらない事で盛り上がれるんだから気楽なものである。


「でも、うちのクラスの高橋いるでしょ。よるこさんに会ったら、頷くんだって言っているんだよね」


「うわあ、馬鹿だ。連れていかれればいいのに」


 高橋、か。

 俺はその名前をインプットしながら、席を立つ。

 学校に残る用なんて、俺には全くないからだ。


「……あいつってさ、まじ暗いよね」


「ね。何考えているか、分からないし」


 後ろから悪口が聞こえてくるが、全く気にしない。

 言いたい奴には、好きなだけ言わせておけばいい。



 学校から出ると家には向かわず、俺はとある場所に真っ直ぐに進んでいた。

 そしてたどり着いた一軒家。


 もう何度も来ているから、迷いなく中へと入った。


「おかえり!けいちゃん!」


 そうすれば、すぐに出迎えてくれる存在がいる。


「ただいま、よるこ」


 俺は穏やかに笑って、その頭を優しく撫でた。





 最近、ここら辺を騒がせている『よるこさん』の正体は、俺の幼なじみだ。

 妖怪でも幽霊でもない、ただの普通の女の子である。


 ……余命がわずかしかないことを除けば。


 病気がちなよるこは、学校に行きたくても行けなかった。

 でも、友達が欲しい。


「よるこ、外に出たんだろう。噂になってたぞ」


 だから体の調子がいい時に、外に出て手当り次第に声をかける。


「思いつきで出たから、またちゃんとした格好してなかったのか。その赤いワンピースも、もうボロボロなんだから、いい加減違うのを着ろよ」


「だって。これ、けいちゃんがプレゼントしてくれたものだから」


 よるこは口をとがらせる。

 ちゃんとしていれば可愛いのに、普段を色々とボロボロでボサボサだ。


 だから余計に怖がられてしまう。


「次に外に出る時は、声かけろよ。俺も行くから」


「えー。だって、けいちゃん途中で置いていくじゃん。私一人で帰るのさみしいんだよ?」


「いいから、約束な」


「はーい……それじゃあ、今から行こうよ!」


 よるこはきままだ。

 それに振り回されるのは、実はそこまで嫌いじゃない。





「だって、こんなに楽しいことが出来るからな」


「ひ、ひいっ!?」


 獲物を追いつめた路地裏。

 俺は、バッドを片手に微笑んだ。


 目の前には、涙を流しながら震えている奴。

 ……確か名前は、高橋だったか。



 よるこが今回、ターゲットにして話しかけた。

 その時に、頷いてしまった。

 だから、こうして相手をしてやっている。


 よるこはすでに、家に帰していた。散々、文句は言われたけど、仕方ないだろう。


「な、何でこんなこと。お前、同じクラスの」


「へー。知ってるんだ。まあ別に、それはどうでもいい。どうせ知っていても、もうお前は死ぬんだから」


 俺はバッドを振り上げた。

 それを見た高橋は叫ぶ。


「やめろ!!」


「よるこに答えた。お前が悪いんだ」


 その声に耳を貸さず、勢い良く振り下ろした。


 慣れた手応えとともに、声は止む。

 頬にかかった返り血を拭いながら、ピクリとも動かなくなったものに、俺は声をかけた。


「よるこを永遠にするためだ。悪く思うなよ」





「ねえ、高橋が行方不明になったのって、よるこさんに返事をしたからだよね」


「きっとそうだよ! やっぱり返事をすると、連れていかれちゃうんだ!」


 クラスの女子の話も、今日は心地よく感じる。



 そうだ。そうやって、もっとよるこの話をすればいい。

 そうすれば、よるこは死んだ後も永遠に生きていられる。


 俺はその為に犠牲になってくれた、高橋をはじめとするこれまでの奴らを思い、耐えきれずに笑った。



 今日も、よるこの家に行かなくては。

 きっと、この前置いていったからすねているはずだ。

 機嫌を直してもらうには為に、大好きなケーキでも買っていこうか。


 俺は頭を切り替えて、笑顔でケーキを食べるよるこを想像する。

 その姿は、きっとこの世のものとは思えないぐらい、幸せな光景だ。



 可愛い可愛いよるこ。

 死ぬまでずっと一緒だ。


 いや、死んでからも。





 ねえねえ、よるこさんって知っている?


 放課後、一人で家に帰っている子の前に現れて、こう聞いてくるんだって。


「友達になってくれる?」


 それに答えるとね、よるこさんの友達のけいちゃんが現れて、返事をした子を殺しにくるんだって。


 よるこさんを好きなけいちゃんは、よるこさんに友達が出来るのを嫌がって、そうするんだって。



 だから、もしもよるこさんに会ったら。

 その時は、けいちゃんに気をつけるんだよ。


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よるこさん 瀬川 @segawa08

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