それでも好きだから。

皇 晴樹

それでも好きだから。

高校卒業まで…あと1ヶ月か。



今日で登校日は終わり。

明日からは自宅学習期間に入る。



推薦で大学進学が決まった私——葉山はやま 華恋かれんは、明日からバイトの日々を送る予定。



「華恋。卒業式の日、先生に伝えるの?」


「え?」


「好きなんでしょ? 遠山先生のこと」



クラス担任である遠山先生は、私の初恋の人。


初めての感情でよくわからない部分もあったけど、恋だってわかってからは、意識しすぎて先生の顔をちゃんと見れなくなっていた。



「伝えたほうがいいのかなぁ」


「言わないで後悔するより、言ったほうがいいと思う!」


「そうなのかなぁ…」



親友の りりあは、優柔不断な私の背中をいつも優しく押してくれる。



「お前ら、まだいたの?」


「せ、先生!?」



話題にしていた相手が来るなんて思ってもみなかった。


タイミングがいいのか、悪いのか……



「何話してたの?」


「秘密ですよ! ね? 華恋?」


「え、うん」


「えー、気になるなぁ」



先生は私の前の席に座って、下を向いている私の顔を覗き込んだ。



「ねぇ、葉山」


「は、はい!」


「今だから聞くけど、どうして俺のこと避けてたの?」


「え…」



バレてたんだ……

嫌いだから避けていたわけではない。

むしろ、好きだからこそ自然と避けてしまっていた。



「華恋…」



りりあが心配そうに私の名前を呼ぶ。


本当のことを言ったほうがいいの?

でも今言ったら、先生は……



「言えないならいいけど。あれ、地味に傷ついてたんだよ」



違う! 誤解です、先生!



「俺、葉山に何かしたかなぁってずっと悩んでた」



先生、待って! 行かないで!



「気づかないうちに葉山に何かしてたなら、ごめんね。暗くならないうちに早く帰れよ」



そんな悲しそうな顔、最後に見たくなかった。


私、知らないうちに先生を傷つけてたんだ。



「りりあ、私はどうしたらいいの?」


「今からでも遅くないよ。走ればまだ間に合うから!」



りりあはそう言って私を立ち上がらせると、軽く背中を押した。


誤解されたまま、卒業式を迎えたくない。



先生、見つけた!



「遠山せ……」



あれは、植村先生?



私は咄嗟に角に隠れて、2人の様子を伺った。



「遠山先生、私たちのこと生徒には言ったんですか?」


「卒業式の日に言おうかなって」


「言わなくてもいいんじゃないですか?」


「本来は言わなくてもいいことだけど、気づいてる生徒もいただろうし…」



“私たちのこと”?


2人は、付き合ってたの?


生徒に言うって、もしかして……結婚?



幸せそうに笑う2人はとてもお似合いだった。



「おかえり、華恋」


「私、諦めるよ」


「え?」


「遠山先生は植村先生と結婚するんだって」


「どうして華恋が知ってるの!?」


「2人が話してたから」


「そっか…」


「りりあ、いろいろありがとね」



涙が止まらなかった。


失恋した悲しみよりも、先生に誤解されたままだということに対する悔しさの方が大きかった。



***



そして、卒業式当日。



「おはよう、華恋」


「りりあ! おはよう。そして合格おめでとう!」


「ありがとう」



卒業式は泣かないって決めていた。


最後まで笑顔でいたかったから。



卒業式が終わって、最後のHR。



「みんなに伝えたいことがあるんだ」



真剣な表情の遠山先生。


大好きだった遠山先生。


先生との思い出が蘇る。



「先生! 私たちも伝えたいことがあるんです! 先に言ってもいいですか?」


「いいけど…」


「せーの!」



ルーム長の掛け声とともに、私たちは声を揃えて叫んだ。



『先生! 今までありがとうございました!』



そして…



『ご結婚おめでとうございます!』



それと同時にクラッカーの音が鳴り響いた。



「どうして、知ってるの?」


「華恋が教えてくれたの」



そう言ってりりあは私の肩を軽くたたいた。



「あの日、遠山先生と植村先生が話してるのをたまたま聞いてしまって…すみませんでした」


「それで、葉山が計画してくれたの?」


「はい」


「すごく嬉しいよ。ありがとう」



その言葉に顔を上げると笑顔の先生と目があった。



やっぱり、私は遠山先生のことが好き。


今なら言えるかな。



「遠山先生。嫌いだったから避けていたわけじゃなくて、その逆です。好きでした。大好きでした!」



きっとクラスのみんなにはバレていたんだろうな。


誰も何も言わなかった。



先生だけが少し困った顔をしていた。



結婚おめでとうって言った後に、こんなことを言うのはおかしいかもしれないけど。


伝えないで後悔したくなかったから。




「先生。私に恋を教えてくれてありがとうございました。植村先生と2人で、幸せな家庭を築いてください」


「葉山。ありがとう」



私の頭を優しく撫でてくれた先生の手は、すごくあったかくて……


泣かないって決めてたのに、今まで我慢していた涙が一気に溢れ出した。



「あー! 先生が葉山を泣かせたー!」


「え、葉山!? これは誤解だ!」


「女の子泣かせたー!」



みんなは笑いながら遠山先生の弱点である脇腹をくすぐり始めた。



「華恋、頑張ったね」


「ありがとう、りりあ」


「2人とも! 写真撮るよ!」


「うん!」



楽しかった高校3年間。


遠山先生に恋した1年間。


全部私の大切な思い出。



「葉山は先生の隣ね!」


「え!?」


「葉山、おいで」


「うっわー! 先生ってほんと罪な男だわ」


「上谷。私は先生よりも素敵な人見つけて、先生よりも幸せになるから気にしてないよ!」


「もっと言ってやれ、葉山!」


「みんなの幸せな報告、待ってるよ」



隣で笑う先生は、甘いイチゴの香りがした。






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それでも好きだから。 皇 晴樹 @girasole2243

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