転生者は絶滅しました。
廉価
プロローグ
大量転生
それは、この惑星がまだマナに満ちていない頃。
別の言い方では、古生代の終わり頃。
この地に七十八億人の転生者が出現し、そして圧死した。
それは、およそなんの予兆もなく起こった。
原始の森林の上空に、忽然と現れた転生者達。文字通り山のように巨大な肉塊であるそれは、一瞬の間、宙に静止する球体のようであったが、すぐに重力に従い始めた。
自らの落下に気づいた彼らに、〈チートスキル〉を使うことはおろか、〈ステータスウィンドウ〉を開く時間の余裕も無かった。
直径三キロメートル、重量四億トンに達する有機物の球体は、底を地面に接すると、より力学的に安定な形状を目指して円錐状に崩れていった。その裾野は水蒸気を上げながら、周囲の原始的な動植物を飲み込む濁流となった。シダ植物の森林が薙ぎ倒され、有羊膜類が逃げ惑った。
圧死した転生者達の遺骸は、一帯を血と屍蝋の層で覆われた不毛の地に変えた。その後、長い歳月をかけて土砂や火山噴出物、そして土壌が堆積し、生態系は回復した。遺骸の層はその下、暗く冷たい地中で安寧を得ることになった。転生者達は地質年代的時間をかけて、鉱物置換――つまり、化石化していった。
当初は一箇所に集中していた転生者の地層は、大陸地殻の移動に巻き込まれ、いくつかに分断され、多様な運命を辿った。様々な堆積岩に接しながらその成分を取り込むこともあった。あるいは海溝で半ばマントルに取り込まれそうになりながら、マグマの熱とともに深成岩に接することもあった。
多様な環境は、転生者をまるで宝石のような、様々な美しい鉱物にした。
硫化水素と反応した転生者は、あたかも黄金のように輝く黄鉄鉱に置換された。
霰石を多く含んだ転生者は熱によって方解石に変化し、水晶の透明度を湛えた。
珪酸分の浸透の仕方によっては、転生者はごくまれに、オパールと同様の虹色の遊色を見せるようになった。
転生者は眠り続けた。その間、地表では様々な生物が累々と世代を重ね、繁栄し、絶滅していった。
そして三億年という時間が流れた。
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