第一章 Ⅴ キューティーハニー
05 キューティーハニー
結論だけ言ってしまえば、問題なくスムーズに部屋を借りることは出来た。
呑気に寝息を立てているシェリアを背中におぶった状態で、フロントで受付をしていたカルメンさんの母親に事情を説明し、部屋に案内されてから早、数十分。
取り敢えずは、部屋の中央に陣取るキングサイズのベッドにシェリアの体を寝かせ、ひたすら部屋の間取りや施設、アメニティなどをチェックしながら、所在ない不安と一緒に部屋の中をウロウロする。
どうしよう、どうしたらいい?
今までの言動からすると、シェリアの中の性的な知識はほぼゼロだと考えて間違いない。おそらくこの宿がどういった目的で作られた施設なのかということも言わずもがな知らないだろう。
そんなシェリアの無知をいいことに、口八丁手八丁にその身体に悪戯するなんてことは...
『キミに子供を作ってほしいの!』
レイズさんに言われた言葉が頭の中で反響する。
...俺がシェリアと。
シェリアが寝息を立てている横に腰を下ろす。
二人分の体重を載せたベッドが僅かに軋んだ。
そのギシという音がなんだかとても生々しい音に聞こえてきて、思わずごくりと唾を飲み込む。
手を伸ばせば届く距離にある無防備なシェリアの肢体。
腰まで届く長さでありながら、どこか活発な印象を与える紅蓮のストレートヘアー。
その前髪に隠れている、形のいい細い眉。無邪気な光を宿した瞳は今は閉じられていて、その分シェリアの長い睫毛がやけに扇情的な印象を与えてくる。
すぴすぴ寝息を立てている、小振りでありながら女性を意識させるには十分過ぎるピンクの唇。
その唇に俺は.........
「むぅ。えへへ、リート...むにゃ。」
シェリアの寝言を受けて、我に帰る。
シェリアの唇に自分の唇を重ねようと覆い被さる自分の姿を省みて愕然とした。
こんな状態でするキスには大した意味はないんだ。きっとそうだ。いったん頭を冷やそう。
そう心に決めて、ベッドから立ち上がる。
その僅な揺らぎを感じたのか、シェリアのまぶたがうっすらと開いた。
「んう、ここどこ?ふかふかするよ?ねぇ、リート?」
寝ぼけまなこで目をこすりながら、ベッドの上にぺたんと女の子座りをするシェリア。
まさかラブホだとは口が避けても言えない。
言えば、「ラブホってなに?ねぇねぇ、リート?教えてよぅ?」
......脳内再生が余裕である。努めて平静を装って、
「ここは宿屋だ。お前、あの後泣きつかれて寝ちゃったんだよ。んで、あのエルフの受付お姉さんの紹介でここに一泊することになった。」
「あっ、なんか覚えてるかも?ねぇねぇ、リート!これスゴいよ!ふかふかだよ!!」
そのままの体勢でベッドをギシギシと揺するシェリア。
その上下運動に連動してシェリアの豊かな胸がたわんで、揺れる。
...無自覚って怖い。俺の下腹部に熱が籠っていく。
「そうだな。揺れるな!ふかふかだな!!だが、いったん落ち着くんだシェリア。」
自分でも何を指して言っているのかわからない。
「うん!今日はいっぱい遊んだし、ちょっと疲れちゃった!汗もかいたから体がちょっとベトベトするよぅ。人間体だとこういうところがタイヘンだねー。」
「なら、ちょっと風呂にでも入ってくればいいんじゃないか?結構、広かったぞ。ここの風呂。」
会話の流れで自然と出てしまった一言。
...言ってしまってからはたと気付く。
シェリアはこの姿で風呂に入ったことはないのだろう。
そうなるとこの後の流れは......
「えへへー。おふろかー。今までは湖とかで水浴びしたりはしてたけど、この体では初めてだよー。楽しみだなー。ねぇねぇ、リート...」
......でしょうね。
「いっしょにはいろ?」
......案の定だった。一瞬の判断が生死を分ける。俺は致命的なミスを犯したのだ。
「ひ...ひとりで入ってみて、使い方を覚えていくのも勉強になるんじゃないかな?なぁ、そうは思わないか?シェリア...」
「んーん。イヤ。リートといっしょにはいりたい。」
こうなるとシェリアはテコでも動かない。今日1日付き合ってそれは嫌という程わかっている。
「ねぇねぇねぇ、リートぉ。いっしょにはいろうよー?」
ベッドがギシギシ。頼むからその上下運動を止めてくれ!
こういう事態になってしまえば、前に進むしか活路は開けない。
前に......進むんだっ!
...そうだ。幸いなことにシェリアの裸なら、もう既に一度目にしている。なんてコトはない!湯けむりが立ち昇る中、一緒の湯船に浸かるだけじゃないか!
いける!!
「よし、わかった。一緒に入ろう、シェリア。今、お湯を張ってくるからちょっと待ってろ。」
「やたっ!わーい!リートとおっふろ♪リートとおっふろ♪」
ベッドに背を向けて呼吸を落ち着けながら、浴室まで歩みを進める。
もう、頭の中でごちゃごちゃ考えるのはよそう。ただ流れに身を任せて、この局面を乗り切る。
思考放棄とも言える開き直りの境地に達した俺は、蛇口をひねり湯船にお湯が貯まっていく様をひたすら眺めていた。
・
・
湯船に張ったお湯が七割方貯まったころに、シェリアは浴室に顔を出した。
「ねぇねぇ、リート!そろそろかな?おふろもういいかな?」
ここから先は出たとこ勝負だ。
「あぁ、ちょうどいい湯加減だ。一っ風呂浴びよう。」
「うん!楽しみだなー。おっふろっ、おっふろっ!」
跳ねるように脱衣場に向かっていくシェリアの背中。
もう、後には引けない。
俺もシェリアの後を追って脱衣場へ...
「リート、リート!おふろは裸で入るんだよね?じゃあ、ここで服を脱げばいいのかな?」
「まぁ、そうなるな。」
極力、シェリアの方は向かないように注意しながら、こちらの服に手をかける。
今日1日着続けていたトレーニングウェアを脱衣かごにいれようとしたタイミングで、シェリアの体が光に包まれる様子が目に飛び込んでくる。
シェリアが一瞬で服を造り出したことをすっかり失念していた。即ちそれは逆もまた然り。
俺が心の準備をする間もなく、シェリアはあの時ように、一瞬でその裸体を俺の網膜にブン投げてきたのだった。
シミ一つない健康的な輝きを内包した肌。首もとから肩口にかけて緩やかな曲線を描く鎖骨。
先程から散々自己主張をしてきた豊満な胸元。見れば谷間に見え隠れしている左胸のほくろ。
そしてその頂きは、張りのある柔肉に支えられ重力に逆らうようにツンと上を向いており、薄い桜色のグラデーションに染められていた。
少し視線を下に向ければ、キレイな縦線の中央に愛らしいおへそがちらり。
落ち着け。大丈夫だ。たかが乳首の一つや二つ。問題じゃない。
「リートも早く脱いでよぅ。お湯、冷めちゃうよ?」
こちらも負けてはいられない。
一息で下もまとめて脱いでしまえ。ズボンとトランクスを一息で脱ごうとするが、
ここに最大の障害がその姿を現した。そう、
いや、だが、しかし。シェリアは当然男性の身体についての知識も持ち合わせていない。最初からこういうものだと正面から堂々としていれば、なんら問題はないハズだ!!
ズボンとパンツを一気に下ろしてかごにぶちこむ。
これでお互いイーブンだ。バイバイ、羞恥心。
「悪い、待たせたな。風呂場に行こう。あと風呂場では走っちゃダメだからな。転ぶと痛いぞ。」
「はーい。りょうかい、りょうかい。ゴエツドーシュー!!」
ぺたぺたと足音を鳴らして先を進むシェリアの後ろ髪が左右に揺れる。その度にプリプリ動くシェリアの尻。こちらもやや小振りでありながらも、女性的な曲線の美しさはそのままに俺の視線を釘付けにしてくる。
さらにそこから伸びた長い足。太ももは太過ぎず細過ぎず、絶妙な肉付きをしており、そこからさらに先の膝裏、ふくらはぎ、くるぶしに至るまで完璧な黄金比で構成されている。
長い...長い戦いを経て、俺達二人は湯気が立ち昇る浴室に足を踏み入れた。
「わぁー、湯気でもわもわだー。スゴい白いよ!ねぇねぇ、まっしろだよ!リート!」
「世の中にはこうでもしないとギャーギャーやかましくなる人達がいるらしい。」
「へー、なんだかよくわからないけどそうなんだねー。じゃあ、じゃあ、もうおふろ入っていい?」
「待て。そう慌てるな。まずは身体を綺麗に洗ってから湯船に浸かる。これは大前提。風呂に入る上でのエチケットだ。」
「はーい。おふろに入る前にカラダを洗う。覚えたよ!じゃあ、リート。洗って洗って!!」
なん......だと......!
耳を疑った。いや、こうなる可能性は十二分にあったハズだ。無意識的に俺はこうなることから目を反らしていたのか...
こうなれば毒を喰らうなら皿まで喰らい尽くす!
「わかった。そこの鏡の前にある椅子に座ってなさい。」
「えへへ。おねがいしまーす。」
トテトテ進んで尻を椅子に押し付けるシェリア。座ったことで、その綺麗な曲線がやや歪みをもち、非常に肉感的な印象を俺に与える。
思わず生唾をのんで、シャワーヘッドを手に取った。
お湯を出しながら適温まで調整して、シェリアの背中からゆっくりとお湯をかけていく。
「熱くないか?ちょうどいいんだったらこのまま続けるぞ。」
「ふぃー、あったかくて、きもちいいよぅ。つづけていーよ。」
備えつけの石鹸を手にとり、アメニティのボディータオルに泡を馴染ませていく。
その様子を食い入るように見つめるシェリア。
「わーわー。アワアワになってく!ワタシもやりたいよぅ!」
シェリアにタオルを渡して、手早くこちらもお湯を被り石鹸で頭をわしゃわしゃ洗う。どうやらこの石鹸の泡は髪に使っても問題なさそうだ。
「はい。リート!むふー、満足満足。これで洗ってくれるの?」
「そうだ。まずは背中から洗うからな。じっとしてろ。」
「はーい。」
泡まみれのタオルをシェリアの背中にあてがった途端、
「ひゃん!」
聞き覚えのある悲鳴と共に、シェリアの体が跳ねる。
もしかして......
背中をゆっくり優しく擦っていく。
「ぅン...あ、あ、あっ、ぁんっ。ねぇ、リートぉ。きもちいいけど、くすぐったいよぅ...ん、ん、んっ。」
シェリアは背中が弱点なんじゃ......
背中から下に下りていって、艶かしい腰周りも擦っていく。
タオル越しに伝わるシェリアの身体の柔らかさが俺の思考も白熱させていく。
擦る度にピクピク小刻みにシェリアの身体が震え、シェリアの吐息の間隔がだんだん不規則になってくる。
...背中から腰にかけてはこれで完了だ。
「シェリア、背中はもう終わりだ。くすぐったいのはここまでだぞ。よく我慢したな。どうする?ここから先は自分でやってみるか?」
これ以上はこっちの理性も危うい。
「んぅ、もうおわりぃ?いーよ、リートが続けて。なんだかふわふわしてきて、きもちいいの。」
こちらの目を蕩けた表情で覗き込むシェリア。
もうだめだ、お互いに止まれない。
「なら、俺の方を向いて座ってくれ。前の方も洗ってやる。」
こくり、とうなずいてシェリアは屈んだ俺と正対する。
まずは腕をとり、泡を馴染ませながら白くて長い指先、手のひら下腕、上腕とタオルを滑らせていく。
「シェリア、両腕をを上に上げてくれないか?ワキは汗がたまりやすいところだ。しっかり洗わないといけない。」
「こう...かな?どう、リート?あってる?」
両腕を頭の後ろで組み、両方のワキを無防備に晒すシェリア。
産毛すら生えていないのでは、と思わせる程の滑らかな陶器のような質感。
そこのくぼみにゆっくりと小刻みにタオルを押し当てて擦る。
「ンっ、ンっ、ンっ、ンっ。ちょっとくすぐったいケド、ごしごしきもちいいよぅ。リート、もっとして?」
両腕をまんべん無く泡だらけにした後、首筋、うなじ、鎖骨。
ここから先は未知の領域だ。
胸元へと手をもっていく。泡に包まれたタオルに若干の力と勇気を込める。
ふよん。と指が沈み込んで
「ひうっ!」
びくりと再びシェリアが身体を硬直させる。
これはもう一気にいかないと埒が開かない。
ややスピードを上げて、胸元から極力傷つけないように円を描くように豊かな膨らみを撫で上げる。
「ンあっ、あっあっあっあッ!スゴいよぅ。リートぉ。これね、あったかいのがねっ、んぅッ、おなかにねッ、ひろがるの!あンっ!」
たまらずにシェリアが俺の腕を両手で掴む。
ここまでだ!理性が警鐘を鳴らし始める。これ以上先に踏み込んでしまうと取り返しがつかなくなる。
「んぁっ、んっ、んっ、んッ、ンッ、あっ!!」
タオルが桜色の頂きに擦れた刹那、
「~~~~~~~ッッッッッッ!!」
シェリアの身体が激しく痙攣し、くたりと脱力するように俺の身体に寄りかかる。肩を上下に揺らし、熱の籠った吐息をつくシェリア。
「ハァ、ハァ、ハァ...えへへ。ふわふわが止まらなくなっちゃたよぅ。リート、後はワタシがやってみたい!貸して貸して!」
蕩けた目の中に見える無邪気な光を確かめて、熱に浮かされた頭が徐々にクールダウンしていく。
「あぁ、後は自分で要領を覚えていけば一人でも入れるようになるだろ。何事も勉強だ。」
「はーい。べんきょう、べんきょう!」
いつもの調子で残りの箇所を洗い出したシェリアを確かめて、俺も自分の身体を洗っていく。そんな様子を見ていたシェリアが口を開いた。
「ねぇねぇ、リートの身体ってキズがいっぱいあるよね?ワタシのパパみたいだ。痛くないの?」
「あぁ、粗方もう治ってるから全然痛くない。どれも身体を鍛えてる最中にヘマやらかして付いた傷だしな。全然へっちゃら。」
「そっかー、だからリートはあんなに強かったんだねー。なっとくなっとく。」
頭からお湯を被って身体に付いた泡を流す。頭の先から爪先まで生まれ変わったような心地だ。
シェリアも一通り洗い終わったのか、シャワーヘッドを滑らせながら泡を流していく。
身体がさっぱりしたのはいいが、ごっそり見えない何かが減ったような疲労感だけが残ったが、気にしない方向で。
一足先に湯船に浸かる。
「ふぁー、これはキクなぁー!」
「えぇー、ずるい!ワタシも入る!」
「走っちゃダメだからな。落ち着いて入りなさい。」
「はーい。ゴエツドーシュー!!」
シェリアはイタズラっぽい笑みを浮かべ、ザッパーンと音を立てながら勢いよく入浴。
飛沫が顔にぶっかかる!
「わぶっ!」
しまった。飛び込んじゃダメだって教えてなかった!
「むふー。スキありだよー、リート!!」
続けてシェリアの手から放たれるお湯の散弾。
ほーう、そういうことですか...相手をしてやろうじゃないか!!
「このやろっ!おりゃっ!!」
俺も負けじとシェリアの顔にお湯を浴びせる。
ここからしばらく他愛のないお湯の掛け合いが始まった。
それなりに広い浴室に俺達二人だけの笑い声と飛沫が舞う音が反響する。
そんななんでもない遊びがシェリアがいるだけで、とても楽しくて......
二人揃ってのぼせてしまうまで、風呂場で死闘を繰り広げるのだった。
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