お嫁さまは召喚獣~選んだスキルは異世界言語 EX~ atk極振り召喚士の英雄譚
ktrb(かたりべ)
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00 プロローグ アンサイズニア
うだるような真夏の暴力的な日差しがジリジリと俺の肌を焼いていく。見上げると大きな入道雲。あぁ、でっかいなー。
現実逃避はそこまでだ。
よし、やれる。いける。がんばれ、俺。
今回だってきっと成功するはず。
負けるな、俺。
未だかつて経験したことのない恐怖を粘つく唾液と一緒に飲み下す。
目を閉じて深呼吸。そのまま足を進めて、一歩...二歩...三歩。
横殴りの風が体を揺らす。
ここまで頑張って来たんだ。後は実行あるのみ。
決意と共に目を開ける。眼下に広がる断崖絶壁。
ぶり返してきた恐怖のせいで、勝手に口がガチガチガチガチ耳障りな音を立てる。やっぱり別のにしとけばよかった、そんな弱気が湧いて来るのが悔しくて涙が滲む。
ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!
「ちっっくしょおおぉああ!!!」
世界がぐるんと反転する。あたまがしたであしがうえ。
あぁ、やっちゃった。とんじゃった。とびおりちゃった。
地球の重力に従って、身体が岩肌に引き寄せられる。
あれっ?
......ヤバイヤバイヤバイ
あたまがまっしろでなにもかんがえられない
そうだ、たしか...
思い出すより先に身体が動く。
目の前に迫った岩の一つに両手をついて、衝撃を殺す。
...が
......あぁ、こりゃだめだ。しっぱいだ。
最期に見た空はとっても蒼くて............
俺はすぐに訪れるであろう衝撃を受け入れるべく目を閉じた。
..........................................とぷん
.........うん?とぷん?ゴシャリ!とかグシャ!とかじゃなくて?
そもそも何でこんなに意識がハッキリしているのか、遂に限界を越えた俺の肉体が奇跡を起こしたのか?!
微かな希望を抱いておそるおそる目を開ける。
真っ暗だ。どこだよ...ココ。
手はある。足もある。頭だって付いてるし、ケツだって割れてる。手のひらはあの時の衝撃でズルズルだったけど、コレぐらいなら許容範囲だ。
......うん?どういうことだ、こりゃ。
『あー!よかったー!!間に合ったー!!ギリギリセーフ!!』
唐突に後ろから響く女の声。
反射的に体がビクッ。
そりゃあ、振り向きますよ。
『せっかく目ぇつけてた有望新人に死なれちゃたまんないもんねー。』
振り向いた先にいたのは、うん、コレ、火の玉だ。
青白い火の玉が喋ってる。
『だいじょうぶ?どっか痛いトコない?おなかは?アタマは?』
言いながら、俺の胸や頭の回りをふよふよウロウロする火の玉ガール。
「いや、ダイジョブっす。手のひらの皮はズル剥けっすけど、大したコト無いっす。」
一応、初対面なので敬語っぽいしゃべりで返す。...顔無いケド。
『えぇっ、ウソ?!全然、ダイジョブじゃないよー!見せて見せて!』
火の玉ガールの目の前に両手を差し出す。...目無いケド。
『うひー、痛そう。ちょっと待っててねー。』
火の玉ガールは差し出された俺の手のひらの上で、クルクルと忙しなく円を描くように動きだす。
飛び散る火の粉が傷口に降りかかりそうになって、思わず手を引っ込めてしまう。危ないじゃない!
『ちょっとー、それじゃ治せないじゃない!大人しくしてなさーい!!ハイ、もっかい手を出して!』
体?の丸くなっている部分を膨張させながら、プリプリ怒る火の玉ガール。
「はぁ、スンマセン。」......なんだ、コレ?
大人しく手のひらを差し出す。
『私の体は熱くないから、心配しなくてもへいきへいき。だいじょうぶ、だいじょうぶ。』
今度は言われた通りに火の粉を手のひらで受け止める。
じんわり手のひらが暖まってくると、時間を巻き戻すように血が、肉が、皮が、再生していく。
『これでよーし!ねっ、どう?痛くないでしょ?!スゴいでしょ?!ほら、グッパー、グッパー!』
ふよふよ俺の手の周りを周回し始める火の玉ホイ○ガール。
ぐっぱー、ぐっぱー。拳をにぎったりひらいたり。
おお、痛くない。
相手が○イミが使える火の玉だろうと、お礼はきっちりせねば。
「ありがとうございます。えーと、火の玉ホ○ミガール。」
『うん、どういたしまして。
「あ、どうも初めまして。宇良島李依人です。」
...うん?なんか流れが変だぞ?
俺はいつ、目の前の火の玉に名前を名乗ったのか...
「あのー」
『あぁ、名前ね!私はレイズ!!』
「いや、そうじゃなくて...あの、レイズさん。なんで俺の名前知ってるんすか?ここはドコなんすか? 俺はあの時、修行の最中で...!」
段々、あの時の恐怖が足元から這い上がってくる。
もしかしなくても俺は死んだのか......
『ハイ!気持ちはわかるけど一旦落ち着こー!』
レイズさんの体からパンパンと手を打つ音が聞こえる。
『まずは順を追って説明するよ?いい?リート君?』
レイズさんが俺の目の前に留まりながら返事を待たずに説明を始める。
『キミが今考えてる"死んだはず"って疑問は大体正解。正確にはキミが"死んだ"ってことが確定する寸前に、私はギリギリでキミが生きていた世界からキミの存在を引っこ抜いて
うん?......ちょっとよくわからない。
「あのー、ココっていうのはどこなんすかね?」
『うん、いい質問。ココはね[観測者の部屋]。数多存在する色んな世界の動向を同時進行で運用管理するのが私の仕事で、ここはその執務室。』
「なんか、わかったような...わからんような。要はレイズさんは神様なんすか?」
『ニュアンスとしては近いけど、別に私は思い通りにならないからって世界を滅ぼしたりはしないよー。なるべく長く世界を存続させて、なるべく長く人々の営みを眺めていたいだけの趣味人でーす。』
「はぁ...それでなんで俺みたいな人間を助けてくれたんすかね?たまたま?ぐうぜん?」
『んーとね、一つ目の理由なんだけど、私はちょくちょく今回みたいに、キミの世界で死に瀕している人をピックアップして二度目の人生どーですかー、ってオススメする仕事も副業でやっててー。』
「なんか、大変そうっすね。」
『そうなのー。みんな中々長続きしなくて、辞めちゃったり、また死んじゃったりしてさー。そんな難しい仕事頼んで無いんだけどなー。別に魔王を倒せーだの、世界を救えーだのじゃないのにねー。』
「へー、それってどんな仕事なんすか?」
『あー、ソレ聞いてくれちゃう?!待ってました!あのねー、転移先の世界でキミに
...うん?俺が?子供を?作る?
「...なんで?」
思わずタメ口になってしまう。いかんいかん。相手は神様だった。
『すごーく長い時間存続する世界って、進化や文明の成長曲線が段々緩やかになっていって、最後には衰退して行き詰まっちゃうの。そこで、リート君達のような違う世界の人達をピックアップして、別の世界の遺伝子と掛け合わせることで、何百何千何万年後に訪れる世界の終焉を回避させる。......って、感じなんだけど...わかんないよね?』
自信無さげに体を縮こまらせるレイズさん。
「...難しいコトはよくわかんないっすケド、それって時間制限とかも無いんすか?いついつまでに子供作れー、みたいな。」
『ないよー。最終的に子供作ってくれれば問題なし!別の世界で二度目の人生を謳歌して、可愛い彼女見つけて、頑張って子作りに励んで、ゆったりとしたスローライフを満喫してください!』
「ちなみに、今から元の世界に戻るって言ったら俺は...」
『今度こそ、グシャリだね。』
死にかける寸前の俺を助けてくれた命の恩人の頼みを無下にするような人間にはなりたくない。
「...そうっすよね。うん。選択の余地は無しだし。わかりました。...レイズさんのご希望になるべく添えるよう頑張ります。」
『えっ、いいの?!ホントにホント?!もう一つのキミが選ばれた理由とかは興味ナシ?』
「ホントにホントっす。...あとなんか話長くなりそうだし。」
『アハハハハッ!いいね。リート君!キミを選んで正解だ!』
やたら上機嫌になったレイズさんはクルクル俺の周りをを旋回し始める。レイズさんが通った光跡に浮かび上がってきた幾つもの青白く光るパネル。
『私からキミへのプレゼント!どれか一つ好きな
スキル......RPGでよくあるアレか...うーん。なんか凄そうなのがいっぱいあるけど...
なんかどれもフェアじゃない気がする...ピンとこない。
そんなたくさんのチートスキル群の中、ひっそりと最下段に配置されたスキル名。
[異世界言語 EX]
...もしかしたらこれから行く世界は日本語が通じないんじゃなかろうか?俺の
「レイズさん...俺、これにします。」
[異世界言語 EX]のパネルを指差しながら、レイズさんに希望を伝える。
『フムフム、キミのコトだから
「いや、そんなん選んじゃったら今まで頑張って身体鍛えて修行してたのがアホらしくなっちゃうじゃないすか。せっかく身体鍛えてたんだから、このまま行きたいです俺は。」
『うんうん。わかったよー。んじゃ、それでオーケー?後から変更は効かないからねー。』
うん。これでいい。これが一番しっくりくる気がする。
『最後にリート君の
目の前に新たなパネルが浮かぶ。
「
即決。何より響きが素晴らしい。
『そうくると思ったよー!』
レイズさんが嬉しそうに上下に跳ねる。
『よーし、コレで大体オーケーかな。...へ、へくちっ。』
くしゃみっぽい声を上げて体を揺らすレイズさん。
「だいじょうぶっすか?...風邪?」
『ダイジョブダイジョブ。あと、コレ選別ね。』
ポンっという間の抜けた音と一緒に、俺の手にはコンビニ袋がぶら下がっていた。結構重い。
『魚肉ソーセージあげるー。好きでしょ、魚肉ソーセージ。お金をあげるのは規約違反になっちゃうから、そこら辺は現物支給で。』
「スンマセン。何から何まで...魚肉ソーセージも美味しく頂きます。本当にありがとうございました。」
『いいってことよ!コレも何かのご縁です。ちょくちょくキミの動向もチェックしとくから心配しないでおいてねー。世界移動の時、ちょっと体がギューってなるけど、すぐ収まるから我慢してねー。』
そう残してコンソールっぽい光の板に向き直るレイズさん。
『それじゃ快適な
再び俺の身体が闇に包まれる。少し重苦しい感じもするけど、そこまで不快なものでもない。
......とぷりとぷり......とぷりとぷり
一定のリズムで身体を揺らす闇の波に身を任せているうちに、俺の意識は心地よい眠りの中へとおちていった。
・
・
・
『んー、今度の新人クンは思った通り面白い子だったなー!今回はいい仕事をしてくれる気がする!』
レイズは大きく伸びをするようにその身を縦に伸ばし、コンソールを後にする。
そのまま放置されたコンソール。
そこに表示されている宇良島李依人の転移データ。そこに先ほどの彼の希望とは異なるデータが入力されていることを、彼もレイズもこの時点では気付いてはいなかった。
→
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