ヘイブン世界のギルバート

@Sakura-shougen

第1話 異端児ギルバート

 パラレルワールド・アルカンディア風雲録の外伝を始めました。

 シリーズ物でエドガルドの子孫が登場します。

 毎日一話を目標にして行きたいと存じます。

 お楽しみいただければ幸いです。


   by Sakura-shougen


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 ギルバート・ゲイル・ファルスレットは、21歳。

 祖母方の血を引く者としてはある意味で変わり者である。

 性格は温厚、頭脳も明晰、かつハンサムであり、身体能力も極めて高い。


 非の打ちどころの無い好青年だが、唯一の難点は、一族が受け継いできた能力の発現が未だに無いことであろう。

 父母も兄弟姉妹も相応の能力を持っているにもかかわらず、ギルバートだけは何もできない。

 テレパシー、テレキネシス、テレポーテーション、エンボス、パイロキネシスなどの能力は無論のこと、精霊使いでもない。


 曽祖父であるエドガルドと大伯母の一人であるダイアナの二人だけには、ギルバートのオーラがかろうじて見えるらしいが、他の一族の者にはギルバートのオーラすらも見えない。

 生命あるものには必ずオーラがあり、相応の能力を持っている者ならば例え普通の人でもオーラを見てとることができるものだが、ギルバートの場合は一定以上の能力を持った者でなければそのオーラを見ることができないのである。


 それどころか、ギルバートの周囲10メレムの範囲に近づくと、エドガルドとダイアナ以外は全く超能力が使えないようになる。

 ギルバートが意図しているものではないのだが、ギルバートの近傍では、エドガルドやダイアナにしてもその能力が明らかに減退することが判明している。

 ギルバートが極々普通の人間として暮らすならば、それでも困らぬはずであった。


 ギルバートの祖父はバリンジャー・ゲイル・ファルスレット、祖母はエリザベス・バクーラ・ファルスレットであり、この二人はモレンデス世界でも高名な科学者であり、ZETEC社をエリザベスの姉弟らと立ち上げた起業家でもある。

 父ゴードン・ゲイル・ファルスレットは、モレンデス世界では先進的な大企業として知られるZETEC社の重役であり、その妻フレデリカ・セーガ・ファルスレットがギルバートの母であるが、フレデリカは元々モレンデス世界に属してはいなかった。

ゴードンが異世界キャレットで見出した娘である。


 フレデリカとゴードンは、キャレットで出会い、恋に落ち、結ばれたのである。

 フレデリカは、異世界の垣根を超えてゴードンの元へ嫁いできた。

 尤もフレデリカの実家があるキャレットの世界にも二人は足がかりを残しており、時折、家族ぐるみでキャレット世界に赴いているが、生憎とギルバートはキャレット世界に連れて行ってもらったことは一度も無い。


 ギルバートを連れて行こうとしても、異世界の門が開けないのであり、仮に開いたにしても一緒に行く者がテレポートできないのである。

 このため、物心付いた時から、御里帰りの際は、ギルバートはいつもお留守番である。


 幼少の頃は、その都度、エリザベスお婆様やダイアナ大伯母様のところに厄介になっていた。

 兄のロドニー26歳は、異世界からお嫁さんを連れて戻り、ZETEC社の幹部候補として前途洋々でもある。


 姉ハンナ24歳は、逆に異世界で伴侶を見つけ、そこが第二の故郷になったのである。

 妹ジャネットは19歳、大学2年生であり、大学を卒業したならば異世界への旅立ちを考えているようだ。


 更にもう一人、弟で末っ子のマークは16歳でハイスクールの3年生になっているが、まだしばらくは両親の元に居ることになるだろう。

 ギルバートはボルデニアン大学の大学院生であり、この春には修了する見込みである。


 ギルバートは、19歳で大学を卒業し、大学院在学中に8つの分野で博士号を取得している。

 父や兄からはその能力を高く買われてZETEC社への就職を盛んに勧められているのだが、ギルバートは何とはなしに気乗りがしなかった。


 ギルバートは、一大決心をして大伯母のダイアナに相談することにした。

 大伯母のダイアナは、既に若がえり措置を受けており、傍目にはギルバートと同じ年頃に見えるが、実際には60代も半ばのはずである。


 祖父バリンジャーの支援を受けながら開発した若返り装置の開発者がダイアナであるが、自らは60歳間近まで若がえり措置を受けなかった。

 夫であるチャールズ大伯父がZETEC社を退職し、隠居生活を始めたのを契機に夫婦揃って若がえり措置を受けたのである。


 その際に惑星ボルデニアンを離れ、モレンデス近傍のベルバライズ星系に移り住んだ。

 今まで60歳であった者が急に20代前半の若者になったならば周囲の者が驚いてしまう。


 顔がわからなければいいのだが、生憎と若かりし頃の顔を覚えている人がいれば、不審に思われるのは必定である。

 だから二人とも少し名前や経歴を変えて別の星へ移り住んだのである。

 ギルバートの祖母方の一族なら誰もがしていることであり、特段の不思議はない。

 少し違うのは若返ってから異世界へ移住するのではなくこれまでと同じ世界を選んだことであろう。


 ZETEC社の星間通信網はモレンデス世界にあまねく普及しており、ギルバートのいるボルデニアンからベルバライズまで200光年以上の距離があるにもかかわらず、即時通話が可能である。

 ギルバートの掛けたネット通話に出たのはチャールズ大叔父であったが、すぐにダイアナ大伯母に代わってくれた。


 「 あら、ギルバート、久しぶりね。

   バリンジャーやエリザベスから貴方の近況は聞いているわよ。

   何でもZETECへの就職にまだ乗り気じゃないということだったけれど・・。

   もうそろそろ、大学院も終わりでしょう?」


 「 ええ、在学期限は数週残っていますが、もう修了は決まっています。

   博士課程に進む必要もありません。」

 「 そうよねぇ。

   博士課程にも進まない内に一人で8つも博士号を取ったのはボルデニアンで

  は、貴方一人と聞いているわ。

   で、これからどうするの?」


 「 ええ、そのことでダイアナ大伯母さんにご相談をと思いまして・・・。」

 「 あら、それは大変。

   貴方の将来を私が決めるようなことになってもいいのかしら?」


 「 はい、多分、頼めるとすれば大伯母さんか、エディぐらいですから・・。」

 「 ふーん、・・。

   私か、エディと言うと・・・。

   共通しているのは貴方のそばで力が使えること。

   どこか異世界にでも行きたくなったのかな?」


 「 ええ、まぁ・・・。

   どこでもいいのですけれど、モレンデス以外の世界で、僕も一度は経験を積ん

  でみたいなと思いまして。

   駄目でしょうか?」

 「 そうよねぇ。

   貴方も本来なら自分の力で行きたいのでしょうけれど、・・・。

   いいわよ。

   そんなことができるのは若いうちだけだから、連れて行ってあげる。

   どんなところに行きたいの?」


 「 どんなところと言われても全く当てはありません。

   逆にどんな世界があるのか知りたいのですが・・・。」


 ダイアナは微笑んだ。

 「 私も別に忙しい身ではないけれど、一つ一つ探索に付き合うのも面倒ね。

   貴方が異世界に行ったビジョンを頼りに送り込むしかないわね。

   うーん、・・・。

   どうやら貴方はヘイブンという世界に行くことになりそうよ。

   因みに今そちらではアパートを借りているのでしょう?

   長期不在にするということを、家族を含めて周囲にはきちんと告げておきなさ

  い。

   そうして二日後には貴方のアパートに行くから旅に出る準備をしておきなさい

  ね。


   持って行く物は、護身に役立つ物と下着に若干の携帯食料ぐらいかな。

   嗜好品があればそれも・・・。

   尤もあんまり欲張らないことね。

   精々片手で持てるバッグ程度に収めた方がいいわよ。

   それと電気が無い世界だから電子機器類も諦めた方がいい。

   向うで困らないだけのお金と当座の衣装は私の方で用意してあげる。

   後は、貴方の裁量次第ね。

   一つ困るのは、言葉かなぁ。

   貴方がテレパスならば何も問題ないのだけれど、まぁ、向うに行って自分で言

  葉を覚えるしかないわね。

   他に何か聞いておきたいことはある?」


 ダイアナ大伯母は、一族の中でも稀な予知能力を持っており、しかも極めて確率の高い予知をするので有名である。

 その大伯母が言うギルバートが異世界へ行ったビジョンと言うのなら、ギルバートはもうその世界に行ったも同然である。


 ギルバートは期待に大きく胸を膨らませた。

 「 いいえ、特には・・・。」

 「 向うの風習や習慣を聞かないの?

   なんなら少し調べておくけれど・・・。」


 「 言葉も判らないのに習慣だけを知っていても仕方ありません。

   それに、その話を始めたら二日や三日では済まないのではないのですか。」


 ダイアナはころころと笑った。

 実際笑っている素振りはギルバートと同年代の娘と何ら変わりがない。


 「 そうね、テレパスならほとんど一瞬で伝えられるけれど、もし全ての風習や習

  慣を詳しく貴方に教えるとしたなら多分1年あっても終わるかどうか。

   でも、一つだけ教えておきましょう。

   ヘイブンはある意味で古の魔法使いの国よ。

   単なるごまかしのマジックではなく本当の魔法使いが存在する世界。

   というより魔法が使える世界と言った方が良いのかも・・・。

   相応に科学も遅れた世界だけれど、モレンデス世界の古代に比べると一部の分

  野では進んでいる面もあるわ。

   そのバランスの危うさが難しいところなのだけれど・・・。

   まぁ、後は自分で実地に勉強なさい。

   貴方ならそこでも生きて行けるはずよ。」


 こうして、ギルバートは一度も出掛けたことのない異世界への旅に初めて出かけることになったのである。

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