第16話 胎動
「はあ…まったく、ひどい目に遭った…。たくっ、あんの餓鬼ぃ…今度会ったら覚えていろよ…。」
まだ、身体が痛む。
「ああ、ったく…。」
こうなったら、飲みなおしだ!っと、ばかりに男はアパートのドアを力強く開け、あの女への当てつけとばかりに閉める。
さきほど、コンビニで買った煙草はもう一本目が尽きかけていた。
「まったく…なんでこんな目に…。」
「そうね…確かに今日は、災難ね。せっかく空き部屋を見つけたと思ったのに持ち主が帰って来るなんて…。」
「…だっ、誰だ!」
部屋には、胸が広く開かれた服装の妖艶な女性がそこには居た。
顔には、濃いめの化粧をし、紅い唇で、腕と首には金色のブレスレットと、首飾りをしていた。
所々に酒瓶と缶酎ハイが転がったゴミ屋敷には不釣り合いな格好をしていた。
ここが、都市部の路地裏であれば何かと勘繰ることができたのだろう。
それほど、分かり易いほど悪趣味に思えるほどのケバイ服装をしていた。
「まったく…不躾な人ですね…さて、そろそろここもおさらばしないといけませんね。」
「オリヴィア?」
「ええ、それじゃ行きましょうか?」
「了解。」
「さっきから、何なんだ君たちは!」
「すいませんね、あなたには死んでもらわなければなりません。」
「はっ?…ったく、女ごときがぁああ!」
男は、床に転がっていたビール瓶を手に取り女に殴りかかった。
「Fire《燃えろ》!」
「なっ…っ。」
女が唱えると同時に男が燃え上がった。
「あぐっ…ぁ…。」
「はあ…オリヴィア?」
「ふふっ、何かしら?」
「いや…何でもないよ。」
「そう…ならいいのだけれど♪それにしても、失礼な男ね。男尊女卑にもほどがあるわ。」
「そうじゃなくて、殺すときは声を出させないようにするのが決まりだろ?」
「…そうね。」
「まったく…。」
同じく部屋に居た紳士服を纏った20歳ぐらいの青年は、燃えている男の声帯に杭を投げた。
徐々に身体が丸くなっていく。
もう既に彼は亡くなっていた。
「…さて、それじゃあ、ここにあるウィスキーを貰ってっと…それじゃあ、行きましょうか?」
「ああ…それと忘れ物を置いていかないとね。」
そう言うと、男は懐からサイレンサー付きの自動拳銃を取り出し、男に向けて一発撃った。
「…下手な偽装工作ね。」
「まあ、どうせすぐにバレるけどみんなもうシルバーバレットには興味がないからね。」
「…そうね、それじゃあ行きましょうか?」
「ああ、もう行こう。」
「さようなら、名も知らない人…。」
「「Fire!《燃えろ》」」
その日、アパートで火事があった。
そして、わずか二時間ばかりで火は鎮火し、部屋の中から遺体が発見された。
遺体からは、銀で出来た弾丸が摘出され、件のシルバーバレットに関係する事件と見なされたが、司法解剖の結果から遺体から発見された弾丸は死亡してから撃たれた物と判明した。
遺体は、
48歳、男性。
妻とは、別居中だった。
そして、この事件は例のごとく軽く受け止められメディアに注目されることはなかった。
「ここですね。」
「ああ、ここだな…。」
「これはかなり激しく燃えていますね。」
「そうだな…。」
午前八時頃 アパート前
2人の男は、火災現場を訪れていた。
「…特に事件性もなさそうですけどね。あとは、消防に任せておけばいいんじゃないでしょうか?」
「…。」
「あの、
「…変な燃え方だな。」
「えっ…いや…そんなことはないかと思いますよ?」
「いや、俺にはあの一室だけに火がまるで閉じこもっていたように思える。」
「はあ…でも、私達は消防とは、そんなに関わりがありませんし、思い過ごしなんじゃ無いでしょうか?」
「…そうか…似ているのか。」
「あの…どうしましたか?」
「いや、何でもないさ…。」
「そうですか?それじゃあ、そろそろ戻りましょうか。一応、遺体の方は司法解剖されるそうです。…この
「…時代のせいか…ああっ、思い出した。」
「どうされましたか?」
長谷は、部下の
そして、確かな確信とともにこれから先の未来に不安を感じた。
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