奇妙な水面
「ん? 何だ、今の音は?」
庭の方から耳を劈くような音が聞こえ、俺は目が覚めた。時計を確認すると、時刻は深夜2時過ぎだった。
俺はベッドから降りると、寝惚け眼を擦りながら、リビングに向かう。リビングの窓から庭に出た俺は眠気が一気に吹き飛んだ。
「何だよ、この穴は?」
庭の中心に直径1mほどの穴が空いていたのだ。それにしても、あれだけ大きな音が響いたというのに、近隣住民が1人も外に出てこないのはどうしたわけか。
奇妙に思いながらも、俺は恐る恐る穴を覗き込んだ。穴の底には水が溜まっていた。
穴の底をじっと見ていると、水面に波紋が広がった。その直後、なぜか水面に目出し帽を被った男と思しき人物が映り込んだ。
「は? 何だ、これは?」
水面は目出し帽の男がどこかの家にピッキングして入り込む様子を映している。家の内装には見覚えがあった。
「これって俺の家じゃないか」
水面に映ったのは、どう見ても俺の家だった。しかし、なぜ水面に俺の家が映ったのかが分からなかった。
目出し帽の男が部屋を漁る様子が水面に映し出される。目出し帽の男は何かに気付いたように後ろを振り返った。水面に映し出されたのは俺の姿だった。
「え? 俺だと?」
目出し帽の男は懐からナイフを取り出した。どことなく様子がおかしい俺を、目出し帽の男はナイフで刺した。そこで水面の映像は途切れた。
「いったい何だったんだ、今のは?」
俺がポツリと呟いた時、カチャリ、と玄関の開く音が聞こえた。先ほど見た映像が頭に思い浮かぶ。
まさかと思いながらも、俺はゆっくりと家の中に戻った。寝室から何かを漁るような音が聞こえてくる。
俺は意を決して寝室に足を踏み入れた。それとほぼ同時に目出し帽の男が後ろを振り返った。つい先ほど穴の底の水面で見た目出し帽の男とよく似ていた。訳が分からなかった。
目出し帽の男は懐からナイフを取り出すと、こちらに向かってきたが、俺は動けなかった。
お腹をナイフで刺されて俺は倒れ込んだ。薄れゆく意識の中で、目出し帽の男が足早に逃げていくのが見えた。
あの水面は数分先の未来を映していたとでもいうのだろうか?
何も分からないまま、俺の意識は途絶えた。
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