愛する姉さん

「僕が食べさせてあげるよ」

 僕はそう言うと、箸でご飯を掴み、姉さんの口に入れた。すぐに姉さんの口元からご飯が零れ落ちてしまう。姉さんは無表情で僕をじっと見つめていた。

「ダメじゃないか。いつもちゃんと噛むように言ってるだろ、姉さん」

 僕は叱りつけたが、姉さんは何も答えなかった。ご飯を食べさせるのは諦めて姉さんの体を眺めることにした。姉さんは以前よりも肌が真っ白だった。前はもう少し肌が黒かった。

「そうだ! 僕と一緒に風呂に入ろうよ。姉弟だし、別にいいだろ?」

 相変わらず姉さんは何も答えなかったが、気にせずに、片手で抱えた。片手で抱えられるほどに姉さんは軽かった。洗面所に行くと、姉さんの服を脱がせた。

 僕も服を脱ぐと、姉さんを抱えて風呂に入った。先に姉さんの体を洗い、湯船に浸からせた。ゆっくりと体を洗った後、僕も湯船に浸かった。

「やっぱりお風呂は気持ちいいね」

 僕は満面の笑みで姉さんを見つめた。姉さんは無表情で湯船に浸かっている。

 一方的に姉さんに話しかけていると、風呂場の扉が開いた。姉さんとの会話を中断し、扉に視線を移した。妹が寂し気な表情で僕のことを見ていた。

「お兄ちゃん、いったい何をしてるの?」

「何って姉さんと風呂に入ってるだけだよ」

「お姉ちゃんは

 妹はギロリと姉さんを睨みつけると、片手で持ち上げ、タイルに叩きつけた。

「姉さんに何てことするんだ! 大丈夫かい、姉さん?」

「何が姉さんよ! お兄ちゃんが日焼けする前のお姉ちゃんの写真を使って3Dプリンターで制作したじゃないの!」

「違う! 姉さんは生きているんだ!」

「ただのフィギュアをお姉ちゃんと思いこむのはもうやめてよ!」

 妹は泣き崩れて両手で顔を覆った。しばらく妹を凝視した後、僕は姉さんに視線を向けた。姉さんの顔は潰れていた。だが、血はまったく流れていなかった。ただのフィギュアだと認識せざるを得なかった。

「……そろそろ風呂から上がろうか、

 僕は泣き崩れている"姉さん"に視線を向けた。"姉さん"は驚いたように僕を見ている。

「"姉さん"ってば何を驚いているんだい?」

「……ううん、何でもない」

 タイルに転がるフィギュアをしばらく見つめた後、どこか諦めたように"姉さん"は立ち上がった。

 僕は新しい"姉さん"の手を握ると、風呂場から出た。

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