おふくろの味
「母さん、湯加減はどうだい? もう少し熱くした方がいいかな?」
僕は湯加減を調整しながら、母さんに声をかけた。しかし、返事はなかった。それも当然だ。すでに母さんは死んでいるのだから。
「とりあえず50℃くらいに設定しておくね」
僕は給湯器を操作し、温度を50℃に設定した。一息つくと、湯船に視線を向けた。母さんの腕は湯船の外側に垂れ下がり、手首からは血が流れている。母さんは手首を切って自殺したのだ。遺書によると、子育てに疲れたようだった。
僕は母さんの体に触れてみた。思っていた以上に、体は熱くなっていた。湯船の中には母さんのエキスがたっぷりと流れているはずだ。
お玉でお湯を掬い、冷ましながら、ゆっくりと飲んだ。お湯は塩辛かった。これは母さんが流した汗の味かもしれない。僕は夢中で母さんが浸かっているお湯を飲み続けた。
「美味しいよ、母さん」
僕はうっとりとした表情で母さんを見つめた。
――これぞ、本当のおふくろの味ってね。
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