私と彼氏と姉
「聞いてよ、
私は彼氏の
「何、どうしたの?
「あのね。私、最近誰かの視線を感じるの。つけられてるのかな。怖くて恐ろしくて睡眠時間がたったの十二時間しか取れないんだから」
「それは寝すぎじゃないかな。ってか怖がってなくね?」
影利は呆れた表情で言った。
「む、そんなことないよ。ちったぁ、彼女である私のことを心配しなさいよ!」
と、指を鼻先に突きつける。
「そういや今日何曜日だっけ?」
「え? 今それどうでもよくない?」
「重要だよ。今晩、面白い番組あるかもしれないし。番組表で確か……」
「ああん!」
私は思いっきり睨みつける。
「おい、てめえ、私がどうなってもいいっていうのか? ごらぁ!」
「……おおぅ、ごめん」
「分かりゃいいんだよ、分かりゃ。で、話戻すけどどうすればいいと思う?」
私は身体を前に出す。
「とりあえず様子を見て、何かあったら警察に通報するってのはどうかな?」
「何かあってからじゃ遅いと思う」
「それもそうか。じゃ、俺が四六時中一緒にいるってはどう?」
頭の中でその提案を吟味する。
「四六時中か。ちときついな」
「……人が親身になって考えてあげてるのに、その言い草はないんじゃないかな」
「あ、ごめん。怒った? まぁ、彼氏の言うことは優先しないとね。その提案採用で」
「何か、釈然としないけどまぁいいか」
☆☆
という訳で私と彼は四六時中一緒に、つまり同棲することになった。同棲はまだ早いと思うけど、身を守るためと割り切っておくことにする。
同棲を始めてから数週間が経った。
「何かすげえ視線を感じるよ」
影利が疲れたように言う。
「あれ、見られてるのは私なのに影利も視線を感じるんだ」
「うん。どうやら、俺と別の両方が見られてるみたいだ」
「どういうこと?」
「さあね」
その時、チャイムが鳴った。
「誰だろう? ちょっと出て来る」
私は玄関に行き、ドアスコープをのぞく。その瞬間、私は緊張する。ゆっくりとドアを開ける。
「この時間帯だとこんにちはかな? 別」
「
そこにいたのは私のお姉ちゃんだった。
有お姉ちゃんはどかどかと家の中へ入っていく。
「あ、有」
影利が驚いたように有お姉ちゃんを見る。
「かっちゃん」
有お姉ちゃんが影利をあだ名であるかっちゃんと呼んだ。
私は有お姉ちゃんに対して罪悪感を持っている。有お姉ちゃんの彼氏だった影利に所謂一目ぼれをし、横取りしたから。
「有お姉ちゃん、今日はどうしたの?」
「別に」
「別にって用はないの?」
「ほう~。別はあれか。用がなかったら来るなって言いたいのか」
「ちゃうねん。そうやないねん。ただせんべいが食べたいだけやねん」
私は必死に喋る。
「急にどうした? せんべいが好きなんは分かるけど、今言うことちゃうやろとお姉ちゃんは思うねんな。私、言うてること間違ってる?」
「いえ、おっしゃるとおりです」
テンパッちまった。
「夜遅くまでぱっとやろうぜ!」
有お姉ちゃんがウキウキしながら言った。
☆☆
それから私たちは夜遅くまで遊び、有お姉ちゃんと一緒に風呂に入った。正直な感想を言わせて貰うとめっちゃ恥ずかしかってんな、である。風呂から上がると影利が鼻血出してて、変な妄想してたやろと有お姉ちゃんと豪快に笑った。うわ、中年のおっさんだ、と影利が不本意なことを言ったので一発ぶん殴ってやった。有お姉ちゃんと一緒に。無論、九割愛情で一割憎悪なのでご安心を。誰に言ってんだろう、私。
あ、そうだ。有おねえちゃんにも相談しよう。
「有お姉ちゃん。ちょっといい?」
「何?」
私は影利に話したことを有お姉ちゃんにも話した。
「あ~、ごめん。それ私だわ」
『ホワイ?』
有お姉ちゃんは驚くべきことを言った。
「ド、ドウイウコトデンネン」
「落ち着け別。片言になってから」
「う、うん。チュ」
私は自分を落ち着かすために、とりあえず有お姉ちゃんにキスをした。
「んで、どういうことかというとな」
「キスに対してのコメントがない」
影利が驚いたように呟く。
「別めっちゃ可愛いから毎日見ときたいねんな。見てても飽きへん。涎垂らしながら眺めてた」
「俺を見ていたのは何で」
「それは襲わへんから。別めっちゃ可愛いのに何で襲わへんねんってな感じでな。襲えって念を送ってた」
「そうだったんだ」
怖がって損した。いや、ある意味怖いかもしれないな。でも、有お姉ちゃんでよかったな。だって、世界で一番大好きな人だから。
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