ある夏のある風景である

「む! 蚊か?」

 目の前の男はそう言って、手に持っていた箸を動かした。……捕らえるのに失敗していた。

「く! ちょこまか動きよってからに! とりゃ!」

 箸を懸命に動かしている。

 なぜ、箸で捕らえることに拘っているのだろうか。普通に手で捕らえればいいのに。まあ、そうされると私は困るわけだが。

「この俺の『錬刃血狼れんじんちろう』をかわすとはやるな」

 え? 箸に名前つけてんの? ちょっ、きもいんですけど。

「ふう~。はぁ~!」

 手がしなるように動いて、

「ふはは! 見たか」

 私は捕らえられてしまった。

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