第16話 Way to a go
その後私たちは、秋葉原をめいいっぱい楽しんだ。
私が私になる前は一人で毎回秋葉原に来ていた。
今日はみんなと遊べて時間もあっという間に過ぎていった。
「そろそろ時間か」
「うん、楽しかったね!」
「そうですわね」
「うん、楽しかった」
みんなも楽しかったのだろう。
みんな顔に出ている。
だけど時刻はすでに夕方に近い。
だからもう帰らないといけない。
そして駅の近くまで来た時。
私は動いた。
「みんな、今日はありがとう。これはお礼だわ」
私は一人一人に一冊ずつ本を差し出した。
「これは…」
「来月発売の声優さえできればいい三巻。しかも本人のサイン付き…」
そう、私がみんなにあげたのは、私が小説、イラスト全てを担当した本、声優さえできればいい。
この本は去年の今頃に発売して不定期で二巻まで出している。
それにもかかわらず、累計売上では、海外も合わせてすでに五百万部を突破した。
何故なら、この本はライトノベルというジャンルにもかかわらず、ライトノベルとは違う。
ほかのライトノベルと圧倒的に違うのは誰しもが共感できる現実味を帯びた作品ということ。
そのほかにも理由はさまざまだが、一番の理由はそこだろう。
そして一年かからず名作となった。
「みなさん、今日は楽しかったわ。ありがとう。最後にもう一つ。私の新曲を聴いてくれないかしら?」
「そんなんでいいのなら…」
「むしろ嬉しいです!」
「そうですわね。生で赤宮 カノンを聴けるのはあまりないですもの」
「じゃあ、いきます。聞いてください。Way to a go」
マスクと眼鏡をとって。
そして私は歌い始める。
カノンの歌を目の前で聞いている賢太郎や結花奈たちは、すぐにカノンの声に引き込まれていった。
次元が違う。
その言葉通り、最初彼女の歌を聴いていたのは私たちだけだったのに、彼女の近くを通りかかる人全員が彼女を声を聴こうと彼女の周りへ寄ってくる。
そして、サビに入るころにはすでに何百人もの人が彼女の歌を立ち止まって聴いていた。
それでも平然に彼女は歌い続ける。
そして歌は二番に入った。
この騒ぎに気づいたのか、どんどん彼女の声を聴きに来る人は増えていく。
そして歌はエンディングを迎えた。
彼女の声が止まると同時に周りから大きな拍手が送られた。
「カノンちゃん!!サインくださーい!!」
その声を聞いた周りの人たちは正体がカノンだということを知って彼女に群がり始める。
そこで私たちも我に返り、
「カノンさん、こっち!!」
私たちはカノンさんの手を引いてその場から早急に避難した。
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