3つ目の「わたしきれい?」

「ねえ、わたしきれい?」

 大きなマスクをした女が訊く。


「ん? 突然、見ず知らずの人から『きれい』かと、意味不明なことを訊ねられても、わたしは困る」


「ねえ、わたしきれい?」

 マスクをした女が、もう一度訊く。


「あなたが『きれい』か『きれいでない』かは扠置さておき、初対面の人にモノを訊ねる時には、それ相応の訊き方というものがあるだろう」


「ねえ、わたしきれい?」

 マスクをした女が、さらにもう一度訊く。


「人と話をするときには、相手の目を見て話しなさい! ――そうは教わらなかったかね? 最近の若者ときたら……、本当に! 一体どういう教育をされて来たんだ」


 マスクをした女は「これでも――」と言い、マスクを取って顔を見せた。


「いくらマスクを取って全開アピールしたところで、礼儀も知らない礼節もわきまえない人の、質問には応えられないね。あなたが『きれい』か「きれいじゃない』か――なんて、この際どうでもいい! わたしが今言っていることにくらべると、まったもっ瑣末さまつなことでしかないからね。 ――いいかい? わたしが言いたいのは、あなたが人として……、人としてだよ――人として最も大切なことを忘れてはならないということだよ」



「そ、そう言われてもぉ……、

 わ、わたし……、


 わたし……、

〟じゃ――ないんですけどぉ……」



     〈完〉


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