憧れのえっちな漫画家さんは同級生のギャルでした

薄味メロン@実力主義に~3巻発売中

第1話 アシスタントのバイト

 18歳の誕生日を迎えたその日。


【 漫画家への近道 】

【 エロ漫画のアシスタント募集 】


 そんなアルバイトの募集要項に惹かれた俺──森戸もりと 直木なおきは、今日からお世話になる職場の玄関先で、呆然と立ち尽くしていた。


 職場とは言っても漫画家さんのご自宅だから、普通のアパート。


 目の前にはパジャマ姿の女子高生がいて、涙目でどこかに電話をしている。



「男が来るなんてあたし聞いてないんですけど!」



 どこかで行き違いがあったらしく、彼女は酷く混乱しているように見える。


 と言うか、東堂とうどう 亜由美あゆみさんだよな?


 同級生の。


「しかも、クラスメイトっておかしくない!?」


 あー、やっぱり東堂さんなんだ。


 クラスでは前後の席で座って授業を受けてるから、当たってる自信はあった。


 でもさ。ここはエッチな漫画家さんの仕事場なわけで……。


 俺をここに派遣してくれた編集さんも、


『先生ってひとり暮らしなのよ。ごはんの準備も頼むわね』


 って言ってたし。


【東堂さんはエッチな漫画家でした!】


 そう言うことなんだろうけど……



「さすがに冗談だよな?」



 なんて声が、思わず俺の口から漏れ出る。


 だってさ。聞いてたペンネームは、『おっきなイチモツランド』だぜ?


 現役のJKが付けていい名前じゃないだろ。


 そう思っていると、東堂さんは更に声を震わせていた。


「あたしが男と2人で漫画描くとか無理っしょ!」


 うん。俺もそう思う。


 3ヶ月前に出た先生のデビュー作は『幼馴染の喉を突く。奥底まで。グリグリと』。


 お胸が大きい子を縛って動けなくして、そのおくちの中に……、って感じの漫画だ。


 ここに来る前に読ませて貰ったけど、やべーほど特殊な欲望が詰まった、すばらしい作品でした。


 少なくとも、学校で一二を争うような美人が描いていい内容じゃない。


「あたしが成人向け漫画を描いてるって噂が広まったら、学校に行けなくなるじゃないですか!」


 うん。それも全面的に同意だな。



『東堂さんって、おっきなイチモツランドって名前でエロ本描いてるんだって!』


『マジかよ! あの東堂さんが!?』



 なんてヒソヒソ言われたら、本気で泣くよな。


 その後の展開としては、


『なあ、試しに買って見ねぇ?』


『そうだな! お前、いまいくら持ってる?』


 間違いなくそうなる。


 大流行間違いなしだ。


「このままじゃ、あたし──」


 暗い顔をしていた東堂さんの目が大きく開いて、俺の顔を見る。


 大慌てで俺に背中を向けて、スマホを口元に近付けた。


「本望でしょって、たしかに森戸の事は……」


 チラリと振り向いて、慌てて視線を逸らす。


「相談はしましたけど。相手も間違ってないですけど……」


 むぅ……、と可愛らしい声が漏れ聞こえていた。


 あいた方の手が、腰まである長い髪をくるくると弄んでいる。


 可愛らしい子猫のパジャマ姿なのも合わさって、すげー無防備に見える。


 なんかこう、すごく可愛くね?


「2人きり、チャンス……。わっ、わかりました。漫画を頑張ります! 漫画をですからね!」


 そう思っている間に話し合いが終わったらしい。


 ふぅ……、と息を吐いた東堂さんは、スマホを握り締めながら振り向いた。


「お茶を入れるから話を聞いて。それでいい?」


「あっ、うん、はい。おじゃまします」


「──でもその前に!」


 ハッと顔を上げた東堂さんが、表情を引き締めてドアの奥に目を向ける。


 人差し指で髪の先をいじりながら、視線をさまよわせた。


「ここから先は森戸の意思で入って。なにが起きても自己責任」


「……え?」


 なぜに?


 すげー怖いんだけど?


「来たら後悔するかも」


「……」


 いや、ここって東堂さんの自宅なんだよな!?


 後悔する要素なんて、どこにもないと思うんだが!?


(あたしが我慢できなくなって手を出しても、自己責任だから)


「ん? なにか言いました?」


 なにかぼそぼそと小声で言ってた気がするけど、よく聞こえなかった。


「なっ、なんにも言ってないわよ! あんたの気のせいなんだから!」


 ずいぶんと慌てているように見えるとけど、本人が言うのならそうなんだろう。


 憧れの漫画家さんの作業場がこの先にある。


 さすがにこのまま帰るのはもったいないよな。


「わかりました。なにが起きても自己責任。それで大丈夫です」


「ん。りょーかい」


 東堂さんは俺の顔を見返して、屈託のない笑顔を見せてくれた。


 1歩2歩と近付いて、人差し指で俺の額を押す。


「でも、敬語はやめて。なんとなくウザいから」


「……わかった。これでいい?」


 そう問いかけると、東堂さんは大きく頷いて頭を撫でてくれた。


 同級生にそんなことをされるなんて恥ずかしいが、悪い気はしない。


「ほら、あがってあがって」


「うん。お邪魔します」


 あとは靴を脱いで部屋の中に入るだけなんだけど、その前に1つだけ、どうしても聞かなきゃいけない事がある。


 俺は大きく息を吸い込んで、東堂さんの目を正面から見詰めた。



「おっきなイチモツランド先生に質問があります。……エッチな漫画を描くお仕事は、楽しいですか?」



 一瞬だけ驚いた顔をした東堂さんは、俺の顔を見て、少しだけ視線をそらす。



「……うん。すっごく楽しいよ」



 彼女は恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、本当に楽しそうに笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る