五分間の命

ふじうり

五分間の命

 題名 五分間の命


 この世界はある日を境に地獄と化した。

 それは、ゾンビの出現。

 最初に外からその光景を見た時は、特撮とかだと思っていた。けど違った。

 この光景に危機感を感じた両親たちと一緒に私は逃げた。でも安全な場所なんてなくて、別行動をすることになった。

 目の前で人が死んでいく中、私は逃げることしかできなかった。

 それからの記憶はあいまいだが気づいたら船で離島に運ばれ三年後。


 それでも自衛隊の人達が対処してくれているおかげで被害は少数で抑えられている。

「このように離島が安全だと確認され、占拠した。我々は人類の絶滅を免れたのだ。あの日から三年が経過した今でもゾンビ化の原因は不明で、離島にもゾンビは出現している中自衛隊の活躍により被害は最小限に抑えられています……」


「毎年恒例だよな。さすがに飽きてこないか?小日向(こひな)」

「まあ仕方ないんじゃない。自衛隊に入りたいっていう人を集めないといけないんだと思うし」

「そっか」

 今日の予定は自衛隊の講演会があり、これは毎年のように行われていた。

 そして必要じゃないと談義を教室で交わしていた人、智(とも)弘(ひろ)君は私が好きな人である。智弘君は見た目で言えば、モテないほうだと思う。けど私が惚れたのは中身。私が離島についたときこのまま死にたいと思ってた。でもそんな私を救ってくれたのが智弘だ。今でも屋上から飛び降りようとする直前に言ってくれた言葉を覚えている。

「そういえばさ、今日の放課後って暇か?」

「うん。暇だよ」

 少し恥ずかしそうに頬を赤らめていう智弘君に即答した。

 私は少し意地悪なのかもしれない。そばにいる時間が長いからなのか智弘君の思考が読めてしまって、ついつい恥ずかしい顔が見られるように誘導してしまう。

 そして、今回は待ちに待った告白だと思う。救われた日から告白をしようとしても自信がなくって言わせるためにたくさんの努力をしてきた。私は今努力すれば報われると実感した。

「じゃあ屋上で待っててくれないか」

「いいよ。でも今言えないことなの?」

「そんなの分かってんだろ。意地悪だな」

「だって楽しいんだもん」


 放課後になり私は屋上の扉の前に立っていた。

「こんなに緊張するなんて。心は素直ね。ふぅ~」

 深呼吸をして扉を開けた。

「よう、小日向」

「話ってどうしたの?」

「実はな……俺……お前のことが!」

『グォー!』

「この声って」

「ああ、あいつらだな。しかも近い」

 告白の真最中にゾンビの声が聞こえ私は緊張なんて吹っ飛び恐怖心が込み上げてきて、その場にうずくまった。智弘君は私がうずくまっている間、護身用のハンドガンを構え私のそばにいてくれた。

「お前もそんなことするんだな」

「あ、当たり前でしょ。女の子なんだから」

 恐怖心にかられながらも私は智弘君の顔を見ると、安心させるためなのか笑っていた。

「そうだな。こんな可愛い女の子なんて滅多にお目にかかれないな」

「今はそんなこと言ってる場合じゃ!」

 智弘君は話している途中なのにも関わらずキスをしてきた。

「いきなりごめんな。でもこれが最後の日になりそうでな」

『グォー』

 次の瞬間屋上のドアが壊され、一体のゾンビが屋上から入ってきた。その奥にも何体かのゾンビのうめき声が聞こえる。この状況じゃ協力して殺さないと……でも体が思うように。

「無理しなくていいぞ。ここは男子の見せ場だからな。女子は大人しく黙ってみてろよ」

 そして、智弘君はゾンビに向けて発砲した。

「こんくらいでいいのか?」

「何もできなくてごめんね」

 ゾンビはうつぶせになって動かなくなった。

 私がお礼をいうと血が顔についている中、気にせず笑顔でガッツポーズをしてきた。

 でもそれは倒した気でいただけだった。

『グォー』

 とガッツポーズをしている智弘君に飛びかかろうとしていた。

 助けなきゃ。そう思った私は銃を取り出そうと気持ちでは思っていたが、体が勝手に動き智弘君をゾンビがいない方向へ突き飛ばした。

「何して!」

「きゃっ!」

「よくも小日向を!」

 突き飛ばした後は予想していた通りゾンビにかみつかれた。

 そして、何発もの銃声が鳴り響いた。

「大丈夫か!返事しろ」

「……」

「死ぬな!今ここで死なれたら、告白ができないじゃないかよ」

「まだ生きているよ。でもあと五分でゾンビ化しちゃうんだけどね」

 目を開けると智弘君が泣きながら膝枕をしてくれていた。離れようとしても体が硬直して動かなかった。

 この世界のゾンビ化にはありがたいことに部位によっては感染時間が分かっており、私の場合はあと五分。

「痛くないか?」

 智弘君はゾンビ化すると知っていても、私を得意の笑顔で心配してくれた。

「痛くて泣きそうだよ。それなのに私よりも先に智弘君が泣くなんてずるいよ」

「なんで泣いてんだろうな」

 噛みつかれたときは痛くて泣きそうだった。でも泣くことになった原因は、智弘君にあった。もうこれからは一緒に話したり、帰ったりできなくなるって思うと次第に涙が出ていた。 たぶん同じことを思ったのかな?もしそう思ってくれたなら心置きなくいけそう。

「告白はしないの?」

「最後まで意地悪なんだな」

「女の子は最後まで自分のキャラを貫き通したいものなんですよ」

「そうかよ。……小日向。好きだ」

「私もよ」

 それからは世界で一番長い数分間を送れたと思う。意識が薄れていく中、智弘君が私を好きになってくれた理由を聞けて心置きなくいけそう。

 言葉ではもう言えないけど、智弘君のおかげでいろんな体験をすることができたよ。本当にありがとう。

 そして、次会えた時は……私から勇気を出して言うね。

『好き』って。

                                     終わり


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五分間の命 ふじうり @huziuri214

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