第3話 悪意なき捕食

「何言ってるんですか、高校そっちじゃありませんよ?」



「???」




 ミツルは意味が分からず立ち止まった。そして仮説をたてた。このJKは宇宙人だ。宇宙人で、一般人を色気で保健室に誘導し、油断したところをキャトルミューティレーションする気だ。宇宙銀河団の速贄はやにえにされてしまう。いかんいかん。




「やい宇宙人!俺をかっさらおうとしても無駄だぞ!俺はそんなに甘くない。とっとと太陽系外縁天体に帰れ!」




 ミツルは取り乱しながらそれっぽいことを言い放った。するとシズクは笑いながら言い返す。




「ぷっ、なんですかそれ?エリートジョークですか?ほら、早くしないと赴任早々学校遅れちゃいますよ、松山先生。」



「松山、先生・・・?」




 ミツルは見知らぬ人間の名前で呼ばれた。考えられることは一つしかない。やはり宇宙人で間違いはないだろう。地球に来て間もないので、適当に地球人の名前を調べて出てきた苗字を適当に言っているだけだ。まずい、シャバどころか、地球圏からも放り出されちまう!




「2分後に来るバスに乗り遅れたら、もう当分来ないから本当に遅刻しちゃいますよ!ほら、案内しますから!」

 シズクはそう言って、ミツルの腕を引っ張る。完全に相手のペースに呑まれている。いかん、学校に連れていかれる。キャトられる・・・

 警察と宇宙人、この二大勢力から逃れなければならないという運命に、ミツルは従うしかなかった。





2分後




「ギリギリ間に合いましたねー、よかったぁ。あ、定期とか持ってます?」




 バスに乗ることができたシズクは、予定とは違うバスに乗ってしまったミツルに問いかける。




「い、いや、持ってないよ。」



「じゃあ、この回数券使ってください。はい、どうぞ」



「お、おう…」




 ミツルは冷静になり考えた。たしかにこの保健委員長は突拍子もないことを言ってくる宇宙人のような奴だが、現実的に考えて宇宙人がJKの姿をしているわけがないし、宇宙人が保健委員長なわけがないし、宇宙人が手当てをしてくれるわけがない。あらぬ疑いをしてしまった。ごめんな、シズクと心の中で謝る。




「え、謝らないでくださいよ。余り物ですから気にしないでください。」




 しまった、うっかり心の声を口にしていたか。




「あっ、うっ、い、いやありがとう・・・」




 動揺を隠せないまま礼を言った。




「ふふ、やっぱり面白いですね。」




 やめろ、そんな純粋な笑顔でこっちを見るな。汚れを知らなさそうな顔でこっちをジロジロ見るな保健委員長。こっちが悲しくってくる。



 っていうかこのJK顔近ぇよ!いかんいかん、頑張れ俺の理性。このままでは、ただでさえ人殺しという罪を犯しているのに、わいせつ罪でも追われることになってしまう。くれぐれも手はおひざ。オン ザ ニーニー だ!




「あの・・・」




 シズクは恐る恐るミツルの顔に手を伸ばす。




「カレーパン、ついてますよ?」




 ミツルの頬にカレーパンがついていた。いや、つくわけねぇだろ。

 シズクは頬についたカレーパンを取り、



「いただきますね。」



 食べた。JK保健委員長が、自分の頬についていたカレーパンを食べた。え、なにその展開、なに「いただきますね」って、え、萌えるんですけど・・・。



 シズクの捕食を目撃し、ミツルは理性うんぬんを通り越していつの間にか、鼻血を出して気絶していた。




 そして、彼が次に目を覚ますのは数十分後、保健室の中である。

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