村人Aは姫様の護衛に付きます

高校二年生の9月


私は中学高校合わせて初めて、「家に泊まりに来ない?」と友人に誘われました。

その子は中学の時こそ犬猿の仲だったものの、私が高校デビューに失敗したのを見て、昼休みによくお昼に誘ってくれるなど優しい気遣いを見せてくれるまで仲良くなっていました。


お泊りに誘われ、舞い上がっていた私は、次の日の部活の道具と、着替えをもって夜8時に家を出ました。


秋に差し掛かり、雨上がりの後だったこともあり、外は肌寒かったのをよく覚えています。


その子の家にたどりつくと、外で待っていてくれたようで、すぐ私のもとへやってきました。


そして私は一瞬で嫌な予感を察知しました。

よく笑う子ではありますが、この腹の立つ笑い方は、何か後ろめたいことがある時の笑いです。ド天然で有名だったこともあり、また何かやらかしたのではないかと不安になりました。


「どうしたの」


「いやーそれがさ、家の鍵がないんだよね」


「!?」


話を聞くと、親が出張中に黙って私を家に入れようとしていたところ、二つある鍵のうち、一つが母親のもとに、そしてもう一つを彼氏の家に出かけた姉が持って行ったらしいのです。

姉はどうやら母が出張に行ったことを知らないようでした。


「とりあえずお姉さんに連絡を…」


「スマホの充電切れた…電話番号も知らない」


「うわお」


本当は、私が「じゃあ私の家においでよ」と言ってあげられればよかったのですが、生憎私の家には単身赴任をしている父が休暇を取って家に帰ってきている日でした。


父は高校生の私からしても、厳しく怖い人だったので、とてもとても言い出せる状況ではありません。


「ま、一日くらい外で寝ても大丈夫でしょ!」


そういったのはその子でした。

正直、私もそれでいいかなとは思いました。

近くにはスーパーがあり、食事は何とかなり、その子の家の横は大きな公園があり、更にその子の家は大きな庭と策に囲まれ、外からは私たちの姿は見えないようになっていました。


暇だったら公園で遊び、最悪家の下の階段に腰を掛け仮眠をとる。


朝までもてば、早くに学校へ行けばいい。


…しかし私には一つ不安がありました。


当然ながら、不審者の存在です。


仮にもここは都会です。いつどこに不審者が出歩いているかわかりません。

そして、何より、その子、私の友人はモデル級に可愛いのです。


ド天然の変人だということを除けば、その子は間違いなく学年で一番きれいな顔をしていました。

もしそんな気がなくても、真夜中にその子が寝ているところ見つけたら、変な気を起こしたくなると、不審者側の気持ちを理解できるほどです。


私は、例え私が死のうと、この子を守らなければならない。

そんな使命感に襲われました。


流石、どこでも寝られると自負していたこともあり、その子は階段に座り込むとものの三十分で寝てしまいました。

初め、寒いと言っていたので、私は部活で着る予定だったジャージの上着を貸し、それにくるまっています。

一方私はというと、ガンギマリに開いた目を夜の公園に向けながら、ぽつりぽつりと通りかかる人影をじっと追っていました。

そもそも、不審者以前に、この寒さと、耳元で永遠とぐるぐるしている蚊の存在で、眠気が来ることありません。


私もいよいよ我慢できなくなり、監視を止め、着ていたパーカーの袖抜き、服の中に入れ、少しチャックを下ろして頭ごと腕と同じように服の中に入れました。

外から見たらさぞ滑稽なことでしょう。


しかし、蚊と寒さがどこにも行かない以上、こうするしかないのです。


蚊が止まらないよう、時々狂ったように全身を振り回し、後ろの姫が生きているか確認する。

そんなことを8時間繰り返しました。


元気そうに体を伸ばす姫に、徹夜で、羽音に呪われゲッソリとした私。


私たちは馬鹿野郎だなと、二人で別々の部活に向かいながら笑いあった時間だけ、その日の疲れを忘れ、「ちょっと青春っぽいな」などと愉快なことを考えることができました。





そのあとの部活動中、初めて、立ちながら睡眠に入り、倒れるという、一番マンガのようなシーンを体験しました。

色んな人に心配され、とても「野宿してたせいで寝不足なんです」とは言えないと後ろめたさに苛まれながら、体調不良扱いで部活を途中で切り上げました。


あー馬鹿だなーと思いながら帰りのバスに乗り、例によって爆睡。

自分の降りる駅を見逃すなど、その日は絵にかいたような災難な日となりました(こういう時に自業自得と使います)


単純に、危ないので、キャンプ地以外での野宿は止めてくださいね。

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