第106話 最終話 決着

       最終話 決着



 やった!

 粘った甲斐があった!

 やはり連中はここを覗き見ていた!


 そして、俺以外全員ログアウトさせたのなら、少なくとも、ログインしている人のIDを乗っ取るという、最悪の事態は起こりえない。

 まあ、俺の安全に関しては、何の進展も無いのだが。


「ふん、何か嬉しそうだな。遂に観念したか? ん? それは何だ? え? いつからそこに?」


 奴は、俺の足元を剣で指し示す。


「まあ、なんだ。お前があまりにも強いんで、俺一人でそんなお前に付き合うには、それなりの準備が必要ってことだな」


 俺は、迷わず、足元に落ちていた武器や防具を交換し、アイテムフォルダーの中身も入れ替える!


伊弉冉いざなみの羽衣:物理防御+50 魔法防御+250

伊弉諾いざなぎの鎧:物理防御+250 魔法防御+50

アマテラスの宝冠:魔法防御+100 素早さ+100 特殊効果:状態異常無効

不動王の盾:防御+250 魔法防御+150 素早さ+150

与一の弓改:攻撃力+200 命中+100 特殊効果:貫通

圧切長谷部へしきりはせべ:攻撃力+200 命中+50 特殊効果:武術系リキャストタイム -5秒

空海の錫杖:攻撃力+50 魔力+200 特殊効果:魔法系リキャストタイム -5秒



 ふむ、どれも凄い!

 おそらく、このゲーム内で得られるアイテムの最高峰だろう。

 また、攻撃力300の武器がここにないのは、貫通の特殊効果のほうが、この阿修羅神には有効ということだな。


 取り敢えずの装備は、物理防御特化の伊弉諾の鎧とアマテラスの宝冠に、不動王の盾と圧切長谷部改にする。


「ふん! ちょっと俺様が気を許した隙にこそこそと! だが、いくら最高の装備を揃えたところで、この俺様に勝てるものか! 何しろ、俺様のHPは20万! お前の18倍くらいだぞ? それに俺様は、魔法を唱えなくても回復が可能だ。負ける要素が無い!」

「それはどうかな? やってみなければ分からんぞ? お前は覚えていないかもしれないが、このゲームの仕様は激甘だしな」


 このゲームにおいては、プレーヤーに立ち向かって来るのは必ず敵。そして、敵は倒されるために存在するのだ。もっとも、この敵は3人がかりって設定のようだったが。

 そして、今まではジリ貧確定だったが、この最強装備があればどうだろう?

 何よりもこの阿修羅神、あれを見た限りじゃ穴だらけだろ!


「それと、お前も少しは冷静に考えてくれ。今、NGMLから、俺以外の全てのプレーヤーはログアウトさせたと報告があった。今や、この世界は俺とお前だけだ。そこで俺達二人が争う理由が何処にある? 俺もお前も、後はNGMLに任せて、元の身体に戻ろう!」


 こんな説得、無駄な気はするが、俺もよくよく考えたら、こいつを倒したところで何の利益も無い。


「ふん、やはり、さっきのははったりだったみたいだな。そして、俺とお前以外が居ないからといって、それがどうしたというのだ? 俺様は、お前だけが居ればいい! そして、俺様と同じ存在になれば、お前も外の世界に未練は無くなるだろう! なので、これが俺様の慈悲だ! 死ね!」


 ぶはっ!

 やはりですか。


 しかし、こいつ……。

 何故、そこまで俺に拘る?

 こんなむさいアバの男より、美人アバの奴が掃いて捨てる程居たというのに。


「仕方無い。やるか」

「やっと覚悟を決めたようだな。抵抗するなよ? しても無意味なのだからな!」


 奴はそう言うが否や、一気に間合いを詰め、六本の剣を振りかぶる!


 さて、どう出て来る?


「真正阿修羅六臂剣!」


 ふむ、また連続で来るかと思いきや、今回は単発だ。


 俺は盾を翳し、同時に、まだ残っていたスキルポイントで、咄嗟に『クリティカルシールド』を取る!

 これは、相手の物理攻撃を完全に盾で受けた場合、喰らったダメージの2割を相手に返すという、このゲームでは珍しいパッシブスキルだ。


「ん? お前、今、何をした? あ~、あのスキルか。全く無駄なあがきを!」


 やった!

 奴のHPゲージは減ったようには見えないが、この反応なら、極まったと見るべきだろう。


 だが、俺のHPも一気に減る!

 とはいえ、完全物理防御体制なので、3000程か? まだぎりぎりグリーンゾーンだ!


「ふん、流石に堅いな。だが、これでどうだ! 天地創造ビッグバン!」


 今度は咄嗟に装備を、魔法防御特化にチェンジする!


「これで終わりだと思うなよ? 休む暇なく攻め続ければ、俺様の勝ちは揺るがないからな!」


 うん、それも想定済みだ!

 即座に物理防御特化仕様にし、更に称号を、回避率25%アップのチキンオブチキンにチェンジする!


「フェイント!」


 奴の剣が俺に降って来るが、あっさりと空振りする!


 やはりな。

 この、怒った顔の時は只でさえ命中率は半減し、俺は基礎値は低いものの、防具と称号の効果でかなり回避率が上がっているのだ。

 更に保険で『フェイント』まで使っているので、そうそう当たるまい。

 ちなみに、『フェイント』はリキャストタイムが5秒なので、5秒短縮効果のある『圧切長谷部』装備の今なら使い放題だ!


 だが、奴は懲りずに剣を振り回して来る!


「フェイント! フェイント! フェイント!」

「な?! くそ! な、何故?!」


 最後の空振りで、奴は大きく体勢を崩した!


 チャンスだ!

 俺は思いっきりバックステップし、武器を与一の弓に変更する!


「メテオアロー! ダブルアタック!」


 矢は奴の頭上で巨大な隕石へと変化し、そのままぶち当たる!

 更に、俺の身体が一瞬真っ赤に光る!


 よし!

 これも成功だ!

 奴のHPゲージが、僅かだが、はっきりと減った!


 そう、矢に限って言えば、滞空時間があるので、自分にもダブルアタックが成功するのだ!

 もっともこれは、メイガスにしか出来ない芸当だとは思うが。


「な?! そんな馬鹿な!」

「こいつは、お前が死んだ時のPVPで使う予定だったんだ! なのに、あっさり死にやがって!」


 そして、今度は俺から奴に肉迫し、装備を剣に替える!

 薙ぐ!

 薙ぐ!

 斬る!

 突く!


更に、剣が当たる瞬間だけ、称号を『チキンオブチキン』から『水龍を屈服させし者』に変更する!


「な、生意気な! そんなに死に急ぎたいか?!」


 当然奴も反撃してくるが、かろうじて一発当たったのみだ!

 なので、俺のHPは、まだ6000以上ある。


 今までの結果から、武器と称号の変更さえ間に合えば、こいつのスキル攻撃でのダメージは、物理も魔法も、それぞれ3000程。

 また、先程のダブルアタックの時にも、当然と装備を弓から杖に変更しているので、奴のリキャストタイムより、俺の方が短いはず!

 つまり、次の奴のスキル攻撃を喰らった時、充分回復魔法が間に合う!


 そして、奴が完全に20秒の間隔でスキル攻撃を行使し、且つ、その間に通常攻撃を混ぜたとしても、今のように、装備と称号をこまめに替えれば、20秒間での総合ダメージは6~9000程度だろう。

 25秒に一回回復魔法を使える俺は、そうそうレッドゾーンには入らないはずだ。


 もっとも、それを律儀に繰り返された場合、もうダブルアタックは使えないが、いざとなればまだアマテラスの涙が4つもある!


「どうかな? 俺の計算だと、この調子で削っていけば、先にHPが尽きるのは、お前のほうだと思うぞ?」


 そう答えながらも、俺は奴に向かって攻撃を止めない!

 ほんの僅かずつだが、奴のHPゲージが減っていくのが分る!


「ほほ~う、お前にしては頑張ったと言えよう。だが、これで終わりだ! 真正阿修羅六臂剣! 『エクストラヒール!』ディメンジョンイーター!」


 ふむ、あえてタイミングを合わせ、更に魔法攻撃を変更してきたか。

 6本の剣が俺に突き刺さった後、周りの空間が一度漆黒になり、更に背景の星々が歪む!


 だが、結果は一緒だ。

 やはりこいつのダメージも3000程度と。


「じゃあ、こっちの番だな。メテオアロー!」


 更にそのまま連射する!

 撃つ!

 撃つ!

 撃つ!

 撃つ!


「ぐっ! す、少しは俺様にも……」

「生憎、こっちは命懸けなんだ。手加減なんかできるかよ!」


 そして、これは少し予想外だ。

 奴は必至に振り翳した剣を振り下ろそうとしているのだが、俺の矢が当たった瞬間、その動きはリセットされている!


 僅かずつだが確実に、奴のHPゲージが減っていく!

 遂に、奴のHPゲージがイエローだ!


「な?! ば、馬鹿な! だが、ここでお前を絶望させてやる! それ、回復モード!」


 奴の顔がぐりんと周り、泣き顔になった!


「うん、俺はそいつを待っていたんだよ!」


 そう、さっきの情報からは、この泣き顔の時は、こいつは攻撃できない。

 そして、HPが回復すると言っても1秒に1%。つまり2000だ。

 対して、今のこの俺の連射速度は、1秒間に3~4発程度だと思う。

 だが、防御力を無視してダメージを与えられるので、大して攻撃力がない俺でも、一発につき1000くらいは与えられているはずだ。


 つまり、奴の回復スピードよりも、ダメージ量の方が上回る!


 俺は連射の手を緩めない!


 うん、明らかにさっきよりも減り方が遅くなったが、それでも着実に減っている!


「え? え? そ、そんな事が?」


 ふむ、こいつはサーバーと一体化しても変わらないようだ。

 というか、自分の思い込みを否定したくないだけなのかもしれないな。

 結果、考えるという行為そのものをしていない。


「あるんだよ! 言っただろ。ここは激甘だって。だから考え直せ! このままじゃお前、また負けるぞ? 今のお前が死んだらどうなるんだろうな?」


 これは俺も考えたことが無かったが、どうなるんだろ?

 再び、完全幽霊になってしまうのか?


「いや、俺様に負け等ありえない! そう、こんなのチートだ! そうに決まっている! お前、NGMLに、何か手助けされているだろ!」

「ああ、思いっきり協力して貰っているぞ。だから俺はまだ生きている! 連中には連中の目的があって、それは、俺を生き返らせる事だからな! 対して、今のお前は単なるバグって認識かもな。確かに、真の幽霊としてなら価値はあるのだろうが、それも、ある程度言葉が通じればの話だ! 人の話に耳を貸さないお前に価値があるのか?」

「そ、そんな事ありえない! 俺様は存在しているだけで価値があるのだ! 俺様は特別なんだ! 俺様は認められたはずなんだ! 俺…、僕は…、僕は…」


 ん?

 これは?


 阿修羅ライトは微動だにしなくなった!


 またあの現象が起こるのか?!

 と、いう事は、比良坂がログインしているのか?

 だが、このNPCにログインできるとは思えない。

 では?


 そこで、いきなり頭に直接声が響く!


(こんな身体要らない! そうだ! シンさん! その身体がいいよ! チート仕様なんでしょ?! 僕にも使わせてよ!)


 な?!

 こ、こいつ!

 チッ! 喋り過ぎた!

 これはヤバい!



 意識が薄れる!

 俺の頭の中に、光の洪水が流れ始めた!



 ~~~~~~~~~~~終~~~~~~~~~~~~~

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