第100話 幻の街
幻の街
「先ずは、その転移装置に乗ってみよう。今のところ、襲ってくる様子は無さそうだし」
ライトは少し口を動かし、切なそうな顔をしてから、頷いた。
確かに、これはきついな。俺も、会話機能を封印なんて事されたら、泣きたくなるだろう。
だが待てよ?
幽霊状態のライトには、コールもメールも出来なかった。
うん、ダメ元だ。
俺は、コールと念じ、ステータス画面を見る。
お、やっぱりだ!
そこには、ライトの名前も表示されていた。
なるほど、おそらくだが、今のライトは、ギルドVRファントムの入会者なので、可能になったのだろう。以前試した時は、まだ入会していなかったからな。
NGMLが施したのは、メール機能の封印と、友人登録の削除、そしてこいつの居たギルド、VR真理会の抹消だけと見た。
なら、問題ない。
(ライト、聞こえるか?)
(あ、シンさん! 助かったよ。うん、とにかく色々調べてみよう。あいつらに見られているのが気になるけど、まだ戦闘にはならないようだし)
(だな。俺も、ファントムカースを封じられているから、戦闘はしたくない。増してや、今は見られている。で、ベトレーとグリモアってのは、ライトの元仲間でいいよね?)
(うん、そうだね。今考えてみると、あの人達は、僕の情報目当てだけだった気がするけどね)
まあ、そんなところかもな~。
勿論、最初は、あのライトのID三段重ね状態に惹かれたのは、間違いない。
また、ライトが管理側と繋がってからは、即座に三種の神器クエストをコンプし、それこそ神様扱いになっただろう。
だが、その情報を得て、おまけにライトの三段重ね状態が解消されたものだから、もう用済みと。
それでも、あのベトレーってのは、最後までライトに付き添っていたのだから、律儀なものだ。
それ故に、ベトレーからすれば、今のライトはVR真理会を解体させた裏切り者、くらいの感情を持っていてもおかしくはない。
でなければ、隠れてつけてくるなんてことはしない。今のライトに隠密玉の効果があったしても、NPCがIDをばらしたので、ここで声をかけてくるはずだ。
周りを見回してみるが、やはり何の反応も無い…、って、訳でもないか。
転移装置を挟んで俺達の正面に立っていたNPCのうち、ジャージ姿の奴が、俺とライトのコピーの後ろに回り込んだ!
ふむ、大体理解できてきたな。
おそらく、NPCは姿形だけでなく、行動までコピーすると見ていいだろう。
試しに、俺が一歩前に出ると、俺のコピーも、同時に一歩踏み出した。
更に、ジャージ姿だったNPCの装備が変わる!
ふむ、一人は大剣装備の、ナイト。前衛だな。
もう一人は、杖装備の黒ローブ。ほぼライトと一緒だ。高レベルウィザードの定番装備だな。
しかし、そいつらが見えたのは一瞬だった!
「「「「ディサピア!」」」」
この掛け声と共に、俺達のコピーの後ろに居たNPCが消えた!
振り返ってみたが、誰も見えない。
ふむ、やはりか。
まあ、あいつらはいい。今の所は偵察に徹しているようで、危害を加えるつもりは無さそうだ。それに、透明状態では攻撃は不可能だしな。あいつらは、装備を変える為だけに、一度魔法を解除したっぽい。
俺はそのまま転移装置に乗ってみる。
正面からは俺のコピーも歩み寄って来て、中心でぶつかりそうになった。
しかし、やはり攻撃してくる素振りは見られない。
なので、俺はステータス画面を確認してみる。
ふむ、NPCの言った通り、この転移装置は映像だけのようだ。
普通なら転移先とか表示されるのに、何も表示されない。
また、アクセサリーも確認してみるが、そもそも表示自体がされない。
更に色々試してみる。
武器は持ち替え可能だが、アイテムボックスまでは使えないようだ。
なら、ここは街中では無いと考えていいだろう。
そしてそれは、ここは攻撃が可能なエリアであることを意味する。
「じゃあ、今日はここまでだ。引き返そう」
振り返ると、ライトも俺同様に、転移装置に乗って確かめているようだ。
俺の目の前では、コピーライトが少し上を向いた後、大きく頷いた。
念の為に、武器屋と奥の扉も確認してみるが、これも幻というか、ただの映像だけのようだ。建物はそのまま突き抜けてしまい、奥の扉は、触れる事は出来るのだが、押しても引いてもびくともしない。
そして、入って来た扉まで引き返し、開けようとした時に、背後から声がする!
「ここを出たければ、一旦ログアウトして下さ~い♡」
げっ! こっちもびくともしない!
振り返ると、奥の扉のところで、俺のコピーが大声を出している!
しかし、これは不味いな。
俺は緊急転移の石をアイテムフォルダーから取り出し、振り翳す!
ぐはっ! 何も起こらない!
どうやら、中途半端に街設定されているようだ。
更に声が続く!
「もうちょっと頑張ってくれよ~。ってか、ライト様~、教えてくださ~い!」
「あはははは、うん、それが一番早い! イカサマライト、勿体ぶらずにさっさと教えろよ! どうせ知ってるんだろ!」
なるほど。
こいつらの、今のライトに対する認識は理解できた。
振り返ると、ライトは何とも悲しそうな表情だ。
ま、自業自得とは言え、仕方あるまい。
「いや、ライトもここは初めてなんで、知らないってさ! それに、三種の神器、八尺瓊勾玉と、八岐大蛇に関しては、俺が教えたからな。八咫鏡については、ライトの自力じゃないのか? おかげで俺はヒントを貰えてクリアできたんだけど」
まあ、これくらいの嘘はいいだろう。
「へ~、そいつは初耳だ! でも、イカサマ野郎同士でお似合いだな。シン! お前もおかしすぎるんだよ! そのレベルで、神器クエストをコンプできた事がその証拠だ! 運営側に繋がっていなけりゃ不可能だ! そしてあのPVP!」
「そうだ! やっぱりこのゲームはおかしい! 今度、運営側を問い詰めてやる!」
あ~、やっぱそうなる訳ですか。
否定できないのが辛いところだが、そもそもの発端は、NGMLの想定外な、バグみたいなものなのであったのは間違いない。まあ、俺も図に乗って、あの中で最も難易度が高いと思われる、八尺瓊勾玉をコンプしてしまったのがいけないのだが。
「まあ、好きにしてくれ。俺達が不正をしてるって証拠があればの話だが」
「へっ! 強がっても、それ以外、考えられないんだよ! ま、まあ、証拠は無いけどな」
連中はこれで黙った。
おそらく、あいつらもコールで、二人で相談しているのだろう。
しかし、この面倒な事態、これ、どちらかが消えているはずなのでは?
あのPVPの時は、ベトレーが問答無用に消されてたぞ?
俺は姉貴にコールしてみる。
(姉貴、悪い。ここから何処でもいい、移動させてくれ)
ん? 繋がらない?!
新庄にも試してみるが、こっちもだ!
ステータス画面で確認すると、新庄の表示は消えている!
(おい、姉貴! 寝てる場合じゃない! さっさと起きろ!)
やはり無反応。
チッ! 離席してるのか?
ライトは不安そうに、俺の側に寄ってきて、虚空を仰いでいる。
ふむ、こいつもコールしていると見ていいだろう。
(ライト、済まん! 強制転移の石も使えないし、今、NGMLには繋がらないようだ)
(うん、僕も確認してみたけど、誰にもコールできなかったよ。一応、メールだけはしておいたけど)
(う~ん、多分、あのNPCを倒せばいいと思うのだけど、もし俺のHPをレッドゾーンまで削られたら最期、それこそこいつらには、証拠を与えてしまう!)
(それは最悪だね。そして、ここは僕の出番だね!)
ライトはコールでそう言い残し、俺ににっこりとほほ笑んでから、この街の中心、転移装置に向かって走って行く!
当然、コピーライトの方も、反対側から駆け出した!
お、これは感謝だ!
俺の代わりに、実験台になってくれるつもりだろう。
現在、俺のHPは、絶対にレッドゾーン以下には減らない入らない仕様だ。まだ試した事はないが、絶対にそれを見られる訳にはいかない!
今までなら、もしそうなった場合、ファントムカースが発動し、最後に通った転移装置に強制転移させられるはずだったが、ここではそれも封印されている。
なのでこの状況、もし俺一人だったなら、不味いなんてもんじゃない!
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