第99話 奇妙な案内バニーちゃん

         奇妙な案内バニーちゃん



 扉を開けると、一気に景色が変わった。


 ふむ、これは街だな。

 中心に転移装置らしき、青く光るサークルがあり、その周囲に、いくつかの小屋が配置されている。良く見ると、HPとかの表示が出ているので、あそこで回復もできると。武器と防具の表示がある小屋には早速入ってみたいな。何か特別な武器とかあるかもしれない。


 更に奥の方まで目をやると、やはり扉があった。

 なるほど。ここを中継地点にして、先に進むには、あの扉を潜れということだろう。

 おそらく、あの転移装置に乗れば、新規に登録できて、ここに直接来られるはずだ。


 ただ、普通の転移装置とは、一つだけ、明らかに違う点があった。

 そう、転移装置の横に、二人の案内バニーが立っていて、こちらに向かって手を振っているのだ!


 普通、この規模の街なら一人で充分だろう。実際、鳴門なら一人しかいない。

 おまけに、向こうから手を振るなんてことはあり得ない。


 横を見ると、ライトもきょろきょろと辺りを見回していたが、中心の案内バニー達で視点が止まったようだ。


「ライト、これは如何にも怪しいよな~」

「そうだね。手を振る案内バニーなんて、初めてだよ」

「だな。取り敢えず、あの奥の扉は次の機会で、今はあの転移装置だけ調べてみよう。丁度、あの案内バニー、あの感じなら、何か話が聞けそうだ」

「うん、それがいいね。僕ももう…、い、いや、眠くなんてないけどね!」


 うん、ライトも今日は疲れていない訳がない。

 こいつの場合、今までの言動からは、俺に無理に付き合ってくれている感じだ。いい加減解放してやらないと。



 俺達は、案内バニーに向かって歩を進める。


 街の中なので、戦闘にはならないはずだが、あの状態は何とも奇妙だ。

 何らかの謎解きくらいはあるかもしれない。


「ん? シンさん、何か後ろで音がしなかった?」


 え?!

 ライトが振り返ったので、俺も慌てて振り返るが、誰もいない。


 だが、そこで今俺達が潜ってきた扉が、音を立てて閉じる!

 あの扉は、俺達が入った後も、すぐに自動的に閉じた。

 つまり、俺達の後から誰かが来たのは間違いない!


「うん、確かに誰かが入ってきたね。そしてこれは…? あ~、あれか」

「なるほど、ディサピア、透明化の魔法か。かなり用心深い人のようだな」


 だが、俺もチート全開の時は隠密玉を使ったので、責める気はないが、これは流石に用心しすぎでは?


「いや、シンさん、あれは用心深いとかじゃないよ。僕達の後をつけてきていたと考えた方がいいね」

「ん? ライト、それに何の意味があるんだ? このダンジョンは、三種の神器クエストをクリアして、且つ、あの鮫を友達にしなきゃ、そもそも入れない。だけど、そんな人なら、扉に名前を残したり、とにかく、一番乗りの権利を狙うんじゃないのか? 俺達を先行させる理由がないのでは?」


 うん、俺はこれ以上扉に名前を残す気はないし、今回は、あの案内バニー達に話を聞いて、あの転移装置に乗ってみるだけだ。なので、先に行かせてやろう。


「い、いや、それはそうなんだけど、あいつの目的は多分……」


ライトが何か言いかけたが、俺は大声で叫ぶ。


「お~い、こっちは只の偵察なんで、良ければお先にどうぞ~!」


 しかし返事はない。

 ディサピアの魔法を唱えても、確か、会話は可能だと聞いたが?


 すると、ライトが今度は小声で俺に耳打ちをしてきた。


(あれはシンさん、僕達を偵察に使うつもりなんだよ。僕達がやることを見て、自分達がやる時の参考にするつもりなんだ。もっとも、単純にPKしたいとかの奴も居るだろうけど)


 あ~、そういう事か。あまりいい気分はしないが、それなら納得だ。

 そして、流石は元情報ギルド。俺はそんな事、考えた事も無かった。


「あ~、俺達は、今日はここまでなんで、これ以上は何もありませんよ~」


 再び大声を出してみるが、やはり何の返事も無い。


「う~ん、じゃあ、ライト、放っておこう。とにかくあのバニーに話を聞いて、あの転移装置を登録して、今日はそれで終わりだ。もし何かあるなら、帰ってから、皆で考えた方がいいしな」

「うん、ここじゃPKの心配も無さそうだし、登録できなかったら、ここで落ちればいいね」


 あ~、こういう時は、普通の奴が羨ましい。

 俺にはログアウトが不可能だからだ。

 まあ、俺は緊急転移の石で鳴門に戻ればいいか。

 もっとも、街中では無効だが、一旦外に出れば問題ない。

 アイテムフォルダーには、必ず一個常備してあるしな。


「とにかく、あいつらから話を聞こう。って、あれ?」

「そうだね。ん? 増えてる?」


 俺達が再び案内バニーに向くと、二人増えて、4人で手を振っていた。


 俺達が近寄ると、驚いたことに、向こうから声をかけてきやがった!

 手を振っていたバニーがこちらを向いて、順番に口を開く。


「シンさん、初めまして。私はかんなぎA」

「ライトニングサークルさん、初めまして。私は巫B」

「ベトレーさん、初めまして。私は巫C」

「グリモアさん、初めまして。私は巫D」

「「「「ようこそ、葛城かづらぎへ!」」」」


 ふむ、最後に全員ではもって、自己紹介終わりと。

 そして、これでおおよその状況は理解できたな。


 俺達を出汁に偵察していたのは、ベトレーとグリモア。

 NPCにはお見通しって訳か。

 で、こいつらは、この街に入って来た奴、一人一人に対応して出現したと見るべきだろう。見えない二人も、実はすぐ側に居るのかもしれない。

 ローズの盾スキルがあれば、位置くらいは分かるのだろうが、流石にそこまで取り進むスキルポイントは無さそうだ。


 しかし、グリモアって奴は聞いた事ないが、ベトレーってのは、聞いた事があるな。どこでだっけ?


 横を見ると、ライトが何やら口をぱくぱくさせている。

 あ~、これは分かる。NGMLによる、会話封印機能だろう。

 おそらくだが、近くに部外者が居る場合、発動すると見た。


 そして、このライトの反応で繋がった!

 そう、ベトレーってのは、あの、俺とライトとのPVP時、ライトに付き添っていた奴だ! VR真理会、ライトの元仲間だ!


 だいたい、このダンジョンに来られる奴は、まだ限られている。

 俺の知る限りで可能性があるのは、エンドレスナイトかプラウに所属している人、ないしは、元VR真理会の連中だけだ!


 俺のIDを呼んだNPCが更に続ける。


「先ず、初めに言っておきますね~。ここは虚構の街。今見えている景色は幻で~す。そして、ここではアクセサリー機能が全て封印されていま~す」

「ふむ、じゃあ、貴女達も幻なのか?」

「それには答えられませ~ん。ですが、この幻を現実にする方法がありま~す」

「あ~、なんかもう分かった。要は一人につき一体、今なら4人倒せってことだろ?」

「それも答えられませ~ん。では、頑張って下さいね~♡」


 チッ!

 こいつはやっぱり戦闘になる!


 NPC達が一瞬消え、転移装置の向かい側に出現した!

おまけに装備が変わっている!

 ってか、これ、俺達のコピーだろ!


 一人は、弓装備に黒のローブ姿に、銀髪の普通のアバ。これは間違いなく俺だ!

 もう一人は、ライトと瓜二つ!

 あとの二人は、例の初期アバ&ジャージ姿。

ふむ、あいつら、徹底してるな。偵察時もデモ隊仕様と。もうIDばれてるんだから、無意味なのに。


 おまけに、よく見るとIDまで一緒になっている!

ID:シン Lv84 神の試練に耐えし者

ID:ライトニングサークル Lv82 水龍を屈服させし者

ID:ベトレー Lv99 水龍を屈服させし者

ID:グリモア Lv99 水龍を屈服させし者

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