第88話 鳴門の渦潮

        鳴門の渦潮



「この街で、新たにできるようになったクエストはありますか?」


 俺達は鳴門に飛び、早速案内バニーを捕まえる。


「ええ、ありますね。ですが、詳細は教えられません。」


 ぶはっ!

 流石に現状最高難度のクエストの上に位置するだけある。

 簡単には教えてくれないと。


「ほな、場所だけでも教えてくれへんかな~?」


 お、サモンが食い下がった。


「ここまで辿り着けた方なら分かるでしょう。頑張ってくださいね~♡」


 チッ! 使えねぇ~。

 俺はこれじゃ埒が明かないと思い、歩き出そうとすると、サモンがなおも食い下がる。


「しゃ~ないな~。でも、大体怪しいところは分かるわ。あの大渦のところちゃいまっか~?」

「………。」

「おっしゃ! おうとったみたいや! ほな行こか~。」


 ぶっ!

 そういう聞き方もあったとは!

 サモンがにやりと俺達を見回した。


 案内バニーは設定上、絶対に嘘は言わない。そして、聞かれた事には必ず答える。答えられない時は、素直に答えられないと言う。なので、違ったら違うと言うはずだ。

 もっとも、この聞き方は、ある程度予想がついていたから可能だった訳だが。


「しかし、サモンさん、大渦があるなんて、良く知っていたな~。確かに鳴門の渦潮は有名だけど、そこまで忠実に再現されていたとはな~。」

「そうっすね~。あたいも知らなかったっす。で、それ、何処なんすか?」


 俺達は歩きながら、サモンに聞く。

 サモンは上機嫌で答えてくれる。


「まあ、わいもこの街だけは、なんやおかしいと思うとったからな~。なんで、結構歩き回ってみたことがあるんや。あの時はなんも見つからへんかったけどな。大渦はこの道を真っ直ぐに行ったところの行き止まりから見える。当然海の中やから、直接は行かれへんはずや。とにかく前まで行って、どないなってるかだけだけ確認しとこか。」

「そうですわね。今は、カオリンちゃんも、タカピさんも居ないですし、勝手にやる訳には参りませんわ。」


 ふむ、確かにそうだ。タカピさんからは許可を得られているが、俺達だけでクリアしようものなら、カオリンが怒らない訳が無い。


「ところで、サモンさん、済まないけど、パーティーリーダーはサモンさんに頼むよ。俺はその、『ファントムカース』を着けていないと、イカサマ状態なんで。」

「あ~、わいらだけなんやから、そないな事気にせえへんでもえのに。ほんまシンさんは律儀やな~。でも、そう言う事なら、しゃあないか。ほな、組み直すわな。」

「うん、ありがとう。」


 俺は、アクセサリーの、『真・八咫の鏡』から、『ファントムカース』に付け直す。そして、サモンのパーティーに参加申請を送ると、すぐに承認された。


 厳密に言うと、俺のギルド、『VRファントム』に所属する以上、このアクセサリーの装備は必須なのだが、今回ばかりは仕方なかろう。

 ふむ、ギルド規定も変更しておくか? もう、メンバーの募集はしていないから、問題無いだろう。全員、俺の秘密も知っているし。



 門を出て、暫く道なりに歩いていると、海を一望できる崖の上に出た。

 眼下には、写真とかで見た事のある、あの鳴門の渦潮が3つ。それぞれ直径10m程の大きさで渦巻いている。


「これが大渦か~。うん、これは明らかに怪しいな。こんな辺境の、更にこんな場所に態々あそこまでするとはね。しかし、サモンさん、これじゃ近寄れそうにないな。」

「せやな~。せやけどこれは正解や! あの渦の中心、なんか円盤みたいなんが浮いとる! 前にはあんなん無かったわ!」

「う~ん、あたいには見えないっすよ? あたい、目も悪くなったんすかね?」

「え? 俺にも見えないぞ? あ、そう言う事か!」


 そう、俺の目には、ただの荒れ狂う大渦にしか見えない。

 多分、サモンの言う円盤とやらは、全ての三種の神器を装備している奴にしか見えないのだろう。

 俺がアクセサリーを付け替えると、見えた!


 渦の中心に、直径50cm程の、白く輝く円盤が浮いている!


「うん、あるな。そして、これは、全ての三種の神器を装備している人にしか見えないようだ。ローズ、これを着けて見てくれ。」


 俺は不思議そうな顔をしているローズに、『真・八咫の鏡』を渡す。

 クリスさんも装備し直しているようだ。

 流石だな。多分、サモンチームとクリスさんチームに分かれてコンプしたのだろう。どっちが勝ったかは非常に興味があるので、後で聞いてみよう。


「あ! 見えたっす! 流石はシンさんっす!」

「確かにありますわね。意味は私でも分かりますわ。あそこにそれぞれ、神器を置けということですわ!」

「うん、俺もそう思う。しかし、問題はどうやって、あそこに行くかだ。」


 皆で辺りを見回すが、船のようなものは無い。

 水の上を歩けるスキルとかも聞いた事が無い。


「う~ん、わいも思いつかへんな~。まあ、あそこでビンゴなんは間違いないやろ。ほんで、そろそろ、カオリンちゃんとタカピさんも来るんちゃうか? 一旦戻ってから皆で考えたら、何とかなるやろ。それに、わいも腹減ったし一旦落ちるわ。」

「そうだな。じゃあ、一度帰るか。」


 サモンとクリスさんは、ここで消えた。

 ふむ、まだ7時過ぎだ。彼らも8時頃には帰って来るだろう。


 俺とローズもギルドルームに戻る。



 戻ると、既にライトが待っていた!

 これは想定外だが、丁度いい。ここでローズに謝罪させるべきだろう。

 後はローズ次第だ。


「シ、シンさん、ロ、ローズバトラーさん、お帰りなさい。そ、それで……」


 ライトがソファーから腰を上げ、近寄って来る。


「なんで、あんたがここに居るっすか? あんたはVRファントムのメンバーじゃないっすよね。」


 ぐはっ!

 予期していたことだが、ローズは辛辣だ。

 ここにライトが居るのは俺にとって不思議では無い。大方、松井が勝手に転送したのだろう。


 しかし、これでは先が思いやられる。

 俺の中では、ライトのメンバー入りは確定しているからだ。


「そ、その、ローズバトラーさんが怒っているのは当然です。ぼ、僕が全て悪かったです。本当に申し訳ありませんでした! ごめんなさい!」


 ライトは、深々と頭を下げた。鼻が膝にくっつきそうだ!

 ふむ、このゲームのアバターの柔軟性はかなりだな。って、今は関係ないか。


 そして、ローズもこれには面食らったようだ。

 そう、これは以前のライトには考えられない行動だ!


「え? あ、そ、そこまで素直に謝られると、ちょっと、拍子抜けするっす! それで、これで許さないとかだと、あたいが悪者みたいじゃないっすか! い、いいっす! 受け入れるっす! その代わり、あそこで見た物は全部忘れて貰うっす!」


 ほっ。

 やはり誠意ある謝罪ならば、ローズも受け入れると。

 しかし、本当にこれでいいのだろうか?

 明らかにこの性格は別人だ。しかし、今までの会話の内容からは、こいつがライト本人であるのは間違い無い。

 生き返れた時に、何か不都合が出なければいいのだが。


「あ、ありがとうございます! 当然忘れます! じゃ、じゃあ、僕はここに居ていいんですね?」

「やっぱり、ちょっと気持ち悪いっすね。でも、カオリンからも話は聞いているっす。後はサモンとクリスさん次第っす。それに、シンさんがいいならあたいに異存は無いっすね。あたいの事も、ローズと呼んでくれていいっす。じゃ、じゃあ、宜しくっす。」

「こ、こちらこそ!」


 ローズが手をおそるおそる差し出すと、ライトはすぐに両手でそれを握った。

 流石に他意は無いのはローズも分かっているはずなのだが、慌てて手を引っ込める。

 まあ、異性だし、これは仕方なかろう。

 ライトも残念そうに目を伏せるが、理解して割り切ったようだ。


「それでシンさん、あの後はどうなったんだい?」


 うん、ローズとはこれでいいだろう。


「うん、少し進展があったよ。ライトも一緒に考えて欲しい。先ずは座ってくれ。」


 俺が腰を下ろすと、ローズは当然のように俺の隣に腰掛ける。

 ライトは俺達の正面に座った。

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