第69話 メイガス解除
メイガス解除
「只今。あら、いい雰囲気じゃない。あたしも混ぜてよ。」
カオリンが入って来た。
ふむ、もう4時か。
「カオリン、お帰り。じゃあ、ローズ、ご褒美とやらはカオリンから貰ってくれ。」
「カオリン、お帰りっす。そ、その、私にそんな趣味はありません! 確かにカオリンは好きですけど。」
ローズは顔を真っ赤にする。
カオリンは何の事か分からずに首を傾げている。
カオリンの授業が始まったので、俺もタブレットを取り出し、真剣に聞く。
なんか、今日の授業は気合が入って居る感じだ。
「今日はここまで! じゃあ、明日は大和政権の統一ね。二人共、しっかり復習しておくように!」
「はいっす!」
「うん、今日の授業は分かり易かったと思う。お疲れ様。」
カオリンは、終わるとすぐに俺の隣に腰掛ける。
そして、手を握って来た。
「そ、その、あたしの授業、ちゃんと聞いてくれて嬉しかったわ。」
「ま、まあ、俺は歴史とかは苦手だったから、カオリンの授業はとても勉強になったよ。」
肩を寄せられて、俺も少しどぎまぎしてしまう。
「そ、それで、あたしももう迷わないわ。ええ、見られているのは分かっているわ。そ、それで、あたしはもうシンの女…よね。」
「あ、ああ。その、俺の物って気はしないけど、カオリンは大好きだ。」
「な、なら、こういう時、あたしが何をして欲しいか、わ、分かるわよね。」
カオリンは、そのまま俺にしなだれかかる。
うん、もう桧山さんの事なんか知ったこっちゃない。
俺はカオリンを抱き寄せて、唇を奪う!
ローズも顔を寄せて来たので、そっちもだ!
う~ん、桧山さん、キレてなければいいのだが。
カオリンはそれで満足したのか、ご飯を食べると言って消えて行った。
カオリンが落ちると、入れ替わりにブルが来た。
「やっほ~! シン兄、ローズちゃん。」
彼女は、可愛らしい猫人族のアバに変わっていた。胸が膨らんでいるから、女型だろう。まつ毛も若干長い気がする。
最初、一瞬誰か分からなかったが、挨拶されて納得だ。
うん、これはいいな。
「ブルちゃん、今晩はっす。アバ変えたっすね。」
「ブル、今晩は。今日もありがとう。うん、そのアバ、似合っていると思うよ。」
「うん、ありがとう。あのアイテムで性別も変えたよ~。後、シン兄にお礼を言われる必要は無いって! それで、今から実験がてらに狩りをしたいんだけど、付き合ってくれるかな?」
「勿論だ。で、何処がいい?」
「う~ん、色々やってみたいけど、ダメージキャンセルとか、支援魔法を試せるところがいいかな? ローズちゃん、知ってる?」
「じゃあ、あそこっすね!」
俺とローズは、顔を見合わせてから頷く。
俺達は早速『箱根の街』に飛ぶ。
そう、支援と言えば金太郎クエストだ。
ブルには、あの巨熊相手にタイマンするローズをアシストして貰おう。
それに、コンプできればクエスト報奨もかなりいいしな。
「ふむ、じゃあ、今回はメイガス外しのBAを装備してきたんだ。」
「そだね~。だから、うまく解除出来ていれば、ダメージキャンセルとかは、今まで通りには行かないと思うんだ~。」
「まあ、試しながら行こう。前回、このクエストは俺とローズだけで達成できた。だから、今日の俺は只の付き添いだな。取り敢えず、ブルはローズのバフ係でいいかな?」
「は~い! じゃあ、ローズちゃん、宜しくね~!」
「はいっす! 任せろっす! って、早速雑魚が来たっす!」
ふむ、大狸2匹と大狐1匹の混合部隊か。
狸は魔法を使って来るから、丁度いいかもな。
ローズが群れに駆け込んで行く!
「ポンポコ~『マジックキャンセル!』ポンッ!」
大狸が呪文を唱えた瞬間、そこにブルがマジックキャンセルを唱える!
大狸の身体が青く光った!
お、成功だ!
まあ、この呪文は詠唱時間が長いので、慣れれば誰でも成功するだろう。
ちなみに、この呪文、少し特殊な呪文で、自身を3mくらいのドラゴンに変身させる。そうなると、ブレスを吐いて来るので少々厄介だ。だが、耐久力自体は変わらないので、的がでかくなると考えれば大差ないか? 本物のドラゴンと違って空も飛べないし。
「トリプルガードダウン!」
これは俺の呪文だ。流石に見ているだけはちと退屈だしな。
デバフくらいは参加させて貰おう。
「シンさん、どうもっす! ブルちゃん、スキル行くっす! ローリング『ダブルアタック!』アクシズ!」
ふむ、これも成功だ!
ローズの身体が一瞬赤く光り、両腕の斧を回転させながら、群れに突っ込んで行く!
俺のデバフで防御力を落としていたから、この範囲攻撃一発で瞬殺だ!
「うん! ローズちゃんのは合わせ易いね~。次、シン兄に合わせてみよっか?」
「う~ん、多分、俺に合わせるのは難しいと思うぞ? でも、試してみるか。」
次の群れは大狐6匹だった。狐は素早いから、範囲攻撃一発じゃ厳しいか?
「じゃあ、あたいが引き付けるっす! 挑発! ガードアップ!」
魔物の群れは、一斉にローズ目掛けて群がって行く!
「ブル、行くぞ! 無慈悲『ダブルアタック!』なる槍雨!」
タイミング的には充分間に合っていたはずなのに、俺の身体は光らなかった。
まあ、この結果は見えていたのだが。
俺の場合、魔法の詠唱時間がほぼゼロなので、口では唱えているが、実際には唱え終わる前に発動している。ダブルアタックは、詠唱中に合わせなければならないので、俺に合わせるのは、同じメイガスでも無理だと思う。
「シン兄! もう一回!」
「よし! 無『ダブルアタック!』慈悲なる槍雨!」
やはり俺の身体は光らない。
さっきよりも完璧なタイミングだったはずだ!
しかし、この攻撃で魔物の群れを一掃できた。
全ての魔物が光の輪を残して消えて行く。
「う~ん、やっぱり無理なんだ~。タイミングはあれでいいはずなのに~!」
「あはは。多分、俺も以前のブルに合わせるのは無理だっただろうな。ましてや、今はメイガスじゃないんだし。」
「そだね~。じゃあ、どんどん行ってみよ~! ローズちゃん、宜しく~!」
「了解っす!」
クエストの扉まで、ローズを先頭にして、どんどん進む。
ふむ、いくらローズの攻撃が合わせ易いと言っても、4回に1度は失敗するようだ。
そして、ダメージキャンセルに至っては、もっと顕著だった。概ね、1/2ってところか?
以前は9割以上の成功率だったはずなので、雲泥の差だ。
また、ブルの弓の速度も以前とは段違いに遅い。ブルも少し勝手が違って辛そうだ。
そんなこんなで、気が付いたら扉の前だ。
「よし、じゃあ、打ち合わせだ。以前は二人でコンプだったけど、多分、コンプ条件は、一人がタイマンして、後の奴は攻撃には参加しないってところだろう。」
「そうっすね。あたいも、流石に回復とかの支援が無いと厳しいっすから。」
「じゃあ、回復は俺がやるから、ローズは前回同様攻撃に集中でいいだろう。それで、ダブルアタックとダメージキャンセルは、ブルに任せる。これでいいかな?」
「うん、それでいいと思う! じゃあ、入るよ~!」
結果としては、ブルはバッファーとしてはかなり優秀だと思う。慣れてきたのもあってか、ダブルアタックに関しては、ほぼ全てローズに合わせていた。
もっとも、ローズもリキャストタイム無しの『天叢雲剣』のおかげで、全てがスキル攻撃だったから合わせ易い。通常攻撃を混ぜれば、もっと成功率は下がっただろう。
そして、ダメージキャンセルは、そこまでは行かない。だが、それでもスキル攻撃に関しては2/3くらい。まあ、こいつのスキル攻撃は読み易いからな。また、通常攻撃も半分くらい成功させていた。
新庄に言わせれば、これでもありえない数字なのかもしれないな。
俺達は、無事クエストをコンプして、箱根の街の温泉に浸かりながら、話をする。
「う~ん、やはりこの温泉はいいな~。それで、ブル、今回はこれでいいのか?」
「うん、今、新庄さんからコールが入ったよ~。これでいいみたい。明らかにメイガスじゃないのに、驚異的な成功率だって、驚かれたけど。」
「あたいもびっくりっす! エンドレスナイトにも、ブルちゃん以上のバッファーは居ないっすね。当然、シンさんもっすけど。」
「まあ、俺の場合は、生き返れた時、どうなるかは分からないかな。でも、ひょっとしたら、メイガスになれるのは、脳波のパターンだけじゃなく、そういう、タイミングを合わせるのが得意な人なのしれないな。ブルはどう思う?」
「う~ん、良く分らないけど、僕の反射神経は人並みだと思うよ~。」
ふむ、それは俺も同じだ。人より反応速度が速いと思った事は無い。
「それでシン兄、ありがとう! これで普通に遊べるよ! 確かにちょっと残念だけどね。でも、これが普通の人の感覚なんだ~。うん、今までのが楽すぎたね。僕はこっちの方が面白いと思う!」
本当にいい
「それで、IDはどうするんだ? 性別は変えたみたいだけど。」
「うん、これなら変える必要はないね! もう普通の人だもの!」
「じゃあ、代りと言っては何だけど、これが今回のお礼だ。」
俺は『金時の鉞』をブルに渡す。
「うわ~、最高威力じゃん! あのクエスト、こんなの貰えるんだ! ありがとう! でも、これはQさんにあげようかな? 僕はやっぱりバッファーが合っているみたいだし。」
「うん、好きにしてくれればいいよ。何なら弓もあげるけど? 今回はブルのクエストだから、ある意味当然の権利だしね。」
「いや、これだけで充分だよ~。じゃあ、一旦落ちるね~。まだ少しあるみたいだから。」
「ああ、お疲れ様。そしてありがとう。」
「ブルちゃん、お疲れ様っす! どうもっす!」
ブルが消えると、ローズは俺の膝の上に滑り込んで来た。
「ちょ、ちょっと恥ずかしいですけど、こういうの、憧れだったんです。」
「そ、そうか。だけど、この体勢、何か妙な気分になるぞ。まあ、防具越しだし、問題ないか?」
しかし、俺は後ろからローズを存分に抱きしめてやる。
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