第60話 続々・八岐大蛇クエスト
続々・八岐大蛇クエスト
俺達は全員でギルドルームに戻り、今回の結果を吟味する。
時間もまだ9時半くらいなので、後数回くらいなら挑戦できるだろう。
「あの感じやと、カオリンちゃんのやり方で完璧なはずやのに、何でコンプやないんや?」
「そうですわ! あの展開は、私も初めてですわ!」
う~ん、こういう知識が全く無い俺には、訳が分からない。
「でも、あのくらいの事は、皆、やっているんじゃないかしら? あの展開は、ほぼ神話通りと言っていいわ。あたしも、あれ以上の事は知らないわよ。」
「そうですね~。僕の記憶でも、まだ足りないものがあるとは思えませんよ。」
ふむ、神話通りの展開なら、皆も試していると考えるべきだろう。
それでもまだ誰もコンプできていないのだ。
つまり、皆、揃ってまだ見落としがあると。
しかし、推奨レベルが、99で2パーティーだ。挑戦できる奴は、それ程多くは無いのも確かだろう。
だが、あのクエスト、推奨レベルの割には、やり方さえ分かってしまえば、クリアだけなら、かなり簡単に出来てしまった気がする。
今回も、俺抜きで充分にやれたはずだ。
ん? 簡単? 人数が少なくても可能?
あ~っ!
なるほど、なんだそういう事なのか! 確かにそれは盲点だ!
うん、そう考えれば、あの大蛇の言った事、全てがヒントだった訳だ!
「ところで、皆、今思いついたんだけど、あのクエスト、簡単過ぎだと思わないか? 俺は、サモンさんとかローズクラスなら、『一人で』クリアできそうだと思うのだけどな~。」
「え? ちょっと待って、シン! それって…。あ~っ! そういう事ね!」
「そら、確かにわい一人でもって…、あ~っ! 何やそういう事やったんかいな! そら盲点やったわ!」
「あ~っ! シン君、確かにそれは気付きませんでしたよ! しかし、これで全て繋がりましたよ!」
「あ~っ! シンさん、流石ですわ! 敵の攻撃も、しっかり削った後、一匹ずつやっつければ問題ありませんわ!」
「へ? あたい、まだ何のことかさっぱりっす。」
皆、『あ~っ!』を連発する。
そしてローズ、俺は哀しいぞ。
「ローズ、あの大蛇が、最初に何を言ったか、覚えていないか?」
「へ? へ? 確か、酒が好きだから嬉しいって。後、姫を寄こせってくらいっすかね?」
「いや、その前だよ。あいつ、『卑しくも徒党を組んで』って言ってたぞ。話を聞く限りでは、素戔嗚は、この国を作った神様の直系にして、正真正銘の神様だ。」
「あ~っ! そういう事っすね! 神様なら、一人でかかって来いって事っすね! そう言えば死に際に、寄って集ってとか愚痴ってたっす!」
ようやく、最後の『あ~っ!』が出た。
要はこのクエスト、最初の10分で、しっかりあのボスのHPを削れるかどうかだけが問題なのだ。
それが可能な奴なら、起きた後でも、逃げ回りながらなら何とか対処できるだろう。
しかし、作った奴、意地が悪いな。推奨レベルの12人ってのに完全に騙された。
ただ、カオリンの予備知識とかも揃って、初めて可能となる。姫を味方につけておかなければ、ブレスの一斉攻撃を喰らうからだ。
「うん、皆、納得してくれたね。それで、誰が行く? はっきり言って、サモンさんとローズなら楽勝。クリスさんも、MP補充アイテムが数個あればできるはずだ。カオリンとタカピさんでも、『パワーブースト』さえ取ってから行けば、可能だと思う。丁度あの称号、『災厄を屠りし者:物理攻撃30%↑ 魔力30%↑ 命中30%↑』も手に入った事だし。俺も、さっき得たスキルポイントで、それなりの攻撃スキルを取れば可能だろう。」
「そんなもん、最初に気付いたシンさんが行くのが当然や。オーナーでもあるしな。武器かてええの貸すで? せや! さっきので『草薙の剣』が、かぶってんねん。そこのギルドショップに行けば、何にでも交換できるわ。」
サモンはそう言って、テーブルに草薙の剣を置いた。
「う~ん、それなんだけど、俺はあの扉に名前を残したくは無いかな。流石にこれ以上目立つのはちと。ただ、武器に関しては嬉しいな。後で皆で考えよう。」
「あたしも、できればシンが最初にやるべきだと思うけど、それなら仕方無いわね。じゃあ、皆、公平にじゃんけんよ!」
「これは負けられませんね~。僕だって、一度くらいはあの扉の一番上に名前を載せてみたいものですよ。」
「あたいもっす! しかも、今回は単独で載るっす!」
「あらあら、それなら私もですわ。じゃんけんなら、サモンちゃんには負けませんわ。」
ふむ、サモンは、じゃんけんは弱いと。
しかし、ここまで盛り上げておいて、これで違ってましたってなると、かなりヤバいのでは?
それこそあの大蛇じゃないが、『寄って集って凹られ』そうだ。
「「「「「じゃ~んけ~ん、ポン!」」」」」
ふむ、カオリン、何気にじゃんけん強いな。
そして、サモンの弱さは納得だ。
「じゃあ、シン、悪いわね。でも安心して! ちゃんとVRファントムの名前も残るはずよ!」
「う~、何でや~? 何でいつも勝たれへんのや~?」
「これは意外でしたね~。サモン君の交渉能力からすると、こういう勝負事は得意と見ていたのですが。しかし、あれなら誰でも勝てますね~。」
「サモンは、耳で分るっす! パーの時、上にピンと立つっす! グーなら逆っす。」
「あ、ローズちゃん、それを教えてしまってはいけませんわ!」
「え! そやったんか! せやけど、わい、自分で意識して耳の向き変えられへんで?」
ふむ、兎アバ、そんな余計な効果もあったとは。少し驚きだな。
「じゃあ、『パワーブースト』も取ったし、MP回復アイテムもあるし、サモンに武器も借りたし、これで万全ね! じゃあ、皆、悪いわね。ちゃちゃっと片づけてくるわ。」
「あ~、それでカオリン…」
「アホ! シンさん、そこは黙っとき!」
「そうっす! カオリンにはいい薬っす!」
俺達は現在、八岐大蛇クエストの扉の前に居る。
今回も幸い待ちは無く、すぐに挑戦可能だ。真ん中の球は白く光っている。
扉にもまだ名前は表示されていない。
ちなみに、カオリンがサモンから借りた武器は、『天の羽々斬剣』。多分だが、これでないと、大蛇の尻尾からアイテムは出ない。そして、前回のクエスト中に減った攻撃力は、クリアしたら元に戻っていたそうだ。
もっともアイテムに関しては、今までの話から、そこで取らなくても、クリアさえしてしまえば報酬アイテムとして貰えるのだろうが。しかし、どうせ貰えるのなら、早いに越した事は無いだろう。
「何をこそこそ言っているのか知らないけど、ここにあたしのIDが載るのね。じゃあ、行ってくるわ!」
カオリンは意気揚々と、扉の窪みと球、同時に触れた。
待つこと数分。
ふむ、やはりか。しかも思ったよりも早かったな。
扉の球が青く点滅した!
これは、現在中で挑戦していた人が失敗したということを示している。
中で何があったかは、誰にでも想像できる。
例によって、削り過ぎて起こしてしまい、総攻撃を浴びて瞬殺されたのだろう。
「カオリン、相変わらずですね~。そして、二番手は僕ですか。では、皆さん、すみませんね~。あ、サモン君、この『天の羽々斬剣』、遠慮なくお借りしますね。」
「あらあら、タカピさんでは、カオリンちゃんのような期待はできませんわね。行ってらっしゃいですわ。」
「せやな。これはわいももう諦めたわ。あ、武器は気にせんといて下さい。」
「仕方無いっすね。でも、サモンのIDが載るよりは遥かにマシっす!」
ふむ、今回は大丈夫なようだ。
15分くらい待つと、球が激しく赤く点滅した!
そして、扉に文字が刻まれた!
『初めてこのクエストを完全攻略した者の栄誉を称える。 ID:タカピ 所属:VRファントム』
後ろを見ると、タカピさんが転移装置から現れ、こっちに駆けて来る!
「タカピさん、おめでとう!」
「タカピさん、おめっとさんや!」
「タカピさん、おめでとうございますわ!」
「タカピさん、おめでとうっす!」
「皆さん、ありがとう! これも皆のおかげですね! それで、早速ですが、この称号と貰えたアイテムなのですが、ここでは何ですかね?」
しかし、皆は待ちきれないようで、タカピさんを取り囲む。
すると、タカピさんは、周りに声が漏れないように、小声で話す。
「この称号、『水龍を屈服させし者』の効果は、物理攻撃、魔力、命中50%↑ です。そして、尻尾から出たのは予想通り、『
やはりか!
そして、仕組みを理解して、且つ、最初に尻尾を攻撃さえすれば、このクエスト、本当に楽勝だろう。
そこでカオリンがようやく戻って来た。
「じ、実はタカピさんに譲ってあげたかっただけなのよ! 決して図に乗り過ぎて、削り過ぎた訳じゃないのよ!」
「うん、俺もそうだと思ったよ。カオリンは優しいよな~。」
「せやな~。まあ、色んな意味でカオリンちゃんらしいわな~。」
「あらあら、それではそういう事にしておきますわね。」
「おやおや、そうだったのですか。それは感謝ですね~。おかげで、僕も初めて扉の一番上に名前を載せられましたよ。」
「それで、カオリン、アイテムは貰えたっすか?」
あ、ローズ、鋭いな。
そう、最初に尻尾を攻撃して、そこから出た『天叢雲剣』さえ取れれば、このクエスト、半分は達成したと考えていい。
「それが、失敗したら、装備していたのに消えているのよ。ケチよね。あ、それとサモン、ごめんなさい! この武器、攻撃力が元に戻らないの。多分、クリアしないとダメみたいだわ。」
カオリンはそう言って、『天の羽々斬剣』をサモンに返す。
「なるほど、クリアせえへんと攻撃力は元に戻らへんと。ようできとる。ほな、次はローズちゃんや。ローズちゃんも持っとると思うけど、こっちでやってみてくれへんか? 攻撃力が元に戻ればラッキーやしな。」
「了解っす! じゃあ、行って来るっす!」
ローズが扉に消えると、後ろから6人の集団が来た。
ふむ、ここに挑戦しに来たのだろう。
全員レベルは99。
そして、先頭の一人が俺達に声をかけて来た。
「今晩は。貴方達も、今から挑戦ですか? おや、既に一組入っているのか。でも、ここはすぐに済むから、それ程時間はかからないか。じゃあ、待たせて貰いますね。」
その6人のパーティーは、そう言って俺達の後ろに並んだ。
あ、これは迷惑になるかもしれない。
俺達は一人15分としても、後4人、1時間くらいは待たせることになる。
俺がサモンを見ると、彼もすぐに察してくれたようだ。
「今晩は。せやな~。わいら、ちょっと時間がかかると思うんで、先譲りますわ。」
「え? いいんですか? あ、そう言えばまだ5人しか居ないようですね。なるほど、まだ一人揃っていないんですね。じゃあ、今入って居る組が終わるまでに揃わなければ、先に行かせて貰いますね。」
「そんな感じですわ。遠慮のうどうぞですわ。」
すると、後ろで一人が大声を上げた!
「おい! 誰かコンプした奴が出たぞ! ID:タカピ…? え? 一人でコンプしたのか? そして、VRファントム? あ~! そのタカピさん! そして、シンさん! サモンナイトさんとクリスタルメアさんまで! VRファントム勢揃いじゃないですか! ならば、今、中に居るのはローズバトラーさんですね!」
げ! どうやらばれたようだ。
そして、俺達は既にかなり有名人のようだ。
更に、最初に話しかけてきた奴が続ける。
「なるほど! 時間がかかるって意味が納得できましたよ! ここはどうでしょう? 僕達は貴方達の後でいい。その代わりと言っては何ですが、ヒントだけでも教えて下さい。勿論、無理にとは言いません。僕達は後から来たのですから。」
お、この言い方なら問題は無いだろう。
どっかのアホとはえらい違いだ。
もっとも、これが普通なんだろうが。
「せやな~、でも、ヒントって言われても、そこに貼り出してあるさかいな~。ほんで、このクエストの神話をよう理解したら、誰でも分かると思いますわ。」
「どうもありがとうございます! 一人でコンプできたのが最大のヒントと! うん、神話の事は僕達も調べてあります! じゃあ、皆、一度戻って作戦会議だ!」
「「「「「はい!」」」」」
そのパーティーは、全員転移装置に走って行った。
しかし、このクエスト、サモンの言う通り、扉にヒントを貼り出しているようなものだから、これはすぐに広まるな。
「へ~、サモン、神話を理解すればいいのね~。」
「カ、カオリンちゃん、それは言いっこなしや! せやけど、そない言うカオリンちゃんかて、シンさんがおらへんかったら気付かへんかったやんか。」
「いや、完全に理解していても、コンプできなかった奴も居るぞ?」
「え? シン! 裏切ったわね! コンプ出来なくて悪かったわね! そもそも、レッドゾーン寸前で止めるなんて、あたしの性に合わないわ!」
「「は~ぁ。」」
タカピさんとクリスさんが溜息をついた。
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