第58話 八岐大蛇クエスト
「流石は脳筋ギルドね! それくらい、ちゃんと調べてから行きなさい!」
現在、カオリンが一人立ち上がって、サモンとローズを前に説教をかましている。
俺もさっぱり分からないので、いつ俺にその矛先が向くかと、生きた心地がしない。
ちなみに、既に死んでるだろ! って突っ込みは無しだ。
カオリンの説教は尚も続く。
「ここのクエストは、歴史や昔話が下地になっているのが多いのよ!」
「せやけど、カオリンちゃん、あの姫さん、わいらが助けたるって言うたら、すぐにどっか行ってもたで? 触る暇なんてあらへんかったわ。それに、下手に触って、セクハラでも取られたら、わややで!」
「そうっす! カオリンも実際に見れば分かるっす!」
お、なんか抵抗しているようだ。
しかし、知識という武装を纏ったカオリンには無意味だな。
「本当にお馬鹿ね! 素戔嗚は、その話を聞いて姫に求婚するのよ! そして、結婚してくれるなら、助けるっていう条件を出すの!」
何と! そういう話だったのか!
しかし、素戔嗚、助けてやるから結婚しろって、なんかしょぼい奴だな。
ん? それとも逆かな? 妻になるのだから、助けるのは当たり前となるのか?
う~ん、今一分らんな。
俺が一人で悩んでいると、遂に二人が逆切れしたようだ。
「ほな、カオリンちゃん、そこまで言うなら、今から行ってみようやないか! 流石に4人じゃクリアは無理やろけど、入るだけなら出来るで。」
「そうっす! そこまで偉そうに言うなら、やってみて欲しいっす!」
「ええ、行ってあげるわよ! シン! あなたも付き合いなさい!」
何でこうなる?
カオリンは、俺達三人を付き従え、『出雲の国』に飛ぶ。
ちなみに今回は、パーティーリーダーをカオリンにして組み直している。
ここも、『日向の国』同様、高床式の建物が並ぶ、かなり未開のイメージだ。
しかし、ここはこの時間、結構人が多い。ここでのクエストやイベントが結構あるからだ。
そして、転移装置を出た目の前には巨大な建造物、出雲大社がそびえている。
「あの建物っす!」
ローズが一軒の高床式の建物を指さす。
カオリンは、無言でそこに突き進む。
俺達も、無言でついて行く。
建物の扉は、例のクエストやイベントにある扉と同じで、真ん中に真っ白い球が光っていた。
幸い、今は挑戦可能のようだ。
扉を開けて、中に入ると、3人のNPCが立っていた。
真ん中に居るのが、かの、『奇稲田姫くしいなだひめ』だろう。
髪を耳のところで束ねた、いかにも古風ないで立ちの美女だ。
ふむ、素戔嗚とやらが惚れたのにも納得だ。
ちなみに、その両脇には、その両親だろうか? 少し年を取った感じの男女だ。これも髪を耳のところで束ねて、この時代の老夫婦といったイメージである。
早速、その姫が話しかけてきた。
「これはこれは、素戔嗚尊すさのおのみこと様とお見受けします。私はこの村の長の娘、『奇稲田姫』と申します。このような場所に来て頂き、恐縮でございます。何卒、私共の願いを聞いて下さいませ。」
そう言うなり、3人は、床に跪き、頭を下げた。
そして、横の男が更に続ける。
「実は、ここには『八岐大蛇やまたのおろち』という、災厄が毎年来るのです! そして、若い娘を差し出さなければ、この村を襲うと脅してきます。私共の娘は、既に7人も食べられてしまいました。そして、今年は遂にこの末娘の番なのでございます。どうか、『八岐大蛇』を討伐して、娘を助けては頂けないでしょうか?」
ふむ、確かにサモン達の言っていた通りだ。
俺達はカオリンを見る。
「ええ、助けてあげてもいいけど、条件があるわ。その奇稲田姫があたしと結婚してくれるなら構わないわよ。」
ぶっ!
女同志でも可能なのだろうか?
俺は、サモンと顔を見合わせ、笑いを堪える。隣を見ると、ローズも必死に堪えているようだ。
あ、ばれた。
思いっきりカオリンに睨まれてしまった。
「勿論構いません! あの蛇に渡すくらいなら、喜んで娘を差し上げます! しかも、お相手は素戔嗚尊様、何の不満がありましょうか!」
ぬお? 女同士でも可能と。
結構適当だな。
すると、姫が顔を上げて、立ち上がった。
「素戔嗚尊様! 勿体無いお言葉にございます! 八岐大蛇めは、この私を狙っております! どうか! どうか! お助け下さいませ!」
姫はそう言うなり、カオリンに抱き着いて来た!
更に姫は、カオリンに触れるなりその姿を消し、床に一本の櫛が残された。
なんと、正しく彼女の言った通りだ!
「それでは素戔嗚尊様、既に八岐大蛇めを油断させるべく、酒を用意しております。奴はうわばみと呼ばれる程の酒好き。10分程しか持たないでしょうが、酔って寝たところが好機かと。何卒、娘と共にあの災厄を葬って下さいませ!」
そして、部屋の奥に扉が出現し、老夫婦が消えた。
カオリンは床の櫛を拾って、頭に刺し、俺達に振り返る。
ふむ、これがカオリンのどや顔と。
「どう? ざっと、こんなものね。」
「す、凄いっす! この展開は初めてっす!」
「カオリンちゃん、流石やな~。うん、美人で頭もええ! 才色兼備とは、カオリンちゃんのことやろな。」
「そう? もっと褒めていいわよ~。」
カオリン……、相変わらずちょろいな。
扉をくぐると、視界が一変する。
木々に囲まれた、円形の広場の中心のようだ。
そして、俺達の周りを囲むように、8個の酒樽が並べられている。
蓋は既に開いていて、なんともいい香が立ち込めている。
俺とカオリンが周りを見渡していると、地響きがする。
音の方向を見ると、数十メートルはあろうかという8本の頭を持った、大蛇がやって来た!
「「「「「「「「ほほ~う。そなた、素戔嗚か。高天原たかあまはらを追放され、卑しくも徒党を組んだようじゃの。じゃが、殊勝な心掛けじゃ。儂が酒を好きなのを知っておるとは。しかし、これで誤魔化されはせんぞ! さあ、姫を差し出すが良かろう。さもなければ、この辺り一帯を洪水にしてくれようぞ! しかし、せっかくの酒じゃ。先ずはこれを味わってやろうかの。」」」」」」」」
大蛇は、8本の頭で同時にそう言うが早いか、俺達の頭上に覆いかぶさり、そこから頭を、それぞれ酒樽へと突っ込んだ!
そして、すぐに動かなくなった。
「はや! もう寝たのか?!」
「せや! ほんで今から10分やけど、どないする? わいとローズちゃんやったら、レッドゾーン寸前にするまで、一本につき、一人1分かからんけど?」
「え? 結構HP低いんだな。」
「まあ、全部合わせたら、あの玉祖命くらいにはなるかもな。」
「なら丁度いいわ! あたし、確かめたいことがあるから、サモンとローズちゃんは、先に削ってて頂戴! それで、シンはあたしについて来て!」
「お、おう。パワーブースト!」
「は、はいっす。あたいもパワーブースト!」
サモンとローズはカオリンに気圧されたのか、素直に返事をして、それぞれ頭に攻撃をしていく。
俺も、何か分らんが、黙ってカオリンについていく。
「やっぱりね! 思った通りだわ!」
俺達は、広場から少し離れて、寝ている大蛇の尻尾の先の部分を目の前にしている。
ふむ、何やら不自然に膨れているな。
「日本書紀では、この尻尾の中に草薙の剣が入って居るの。天叢雲剣とも言うけど。」
「なるほど! 攻撃するなら、胴体じゃなく、この尻尾という訳か!」
「多分そうだと思うわ。でも、どうせなら、頭を全部削ってからにしてみない?」
「ふむ、それが良さそうだな。上手くすれば、瞬殺できるかも!」
「ええ! じゃあ、早速戻って、削るのを手伝うわよ!」
俺達が広場に戻ると、既に4つの頭がレッドゾーン寸前まで削られていた。
流石はこの二人だ。
「で、どないやった?」
「うん、胴体じゃなく、尻尾が如何にも怪しいって感じだったよ。」
「そうね。でも、攻撃するのは最後よ! 後の4つも削るわよ!」
「おっしゃ! 任せとき! ほな、パワーブースト! 二刀六臂十二連!」
「了解っす! パワーブースト! 斧鉞コンボ!」
「じゃあ、俺はカオリンを支援するよ。」
「シン、行くわよ! 阿修羅『ダブルアタック』六臂剣!」
三人のスキルによる攻撃、一撃で、それぞれの頭のHPゲージが、1/6くらい減る!
ふむ、確かにこの調子なら、一人1分かからないな。もっとも、カオリンには俺のサポートがあるからだろうが。
「カオリン! そのまま連続攻撃だ! パワーブースト!」
「ええ!」
相変わらずカオリンの連続攻撃は凄まじい! 相手が動かないこともあるが、みるみるゲージが減って行く!
俺がカオリンに三回目のダブルアタックをかけ終わった後、それは起こった!
「こっちはそろそろ終わりっす! シンさん、最後の奴をサモンと二人で削るっす。」
「おっしゃ! ローズちゃん、こっちもや!」
「うん、そっちは任せるよ…、って、カオリン! 削りすぎだ!」
しまった! ローズ達に気を取られた隙に、カオリンの目の前の頭のHPゲージが赤くなりやがった!
う~ん、注意はしていたつもりだったのだが。
「あ、ごめんなさい!」
八本の首が、一斉に酒樽から頭を持ち上げた!
そしてカオリンを見て叫ぶ!
「「「「「「「なんじゃ~? せっかくいい気分じゃったのに! 貴様ら何をしておる! そうじゃ! 姫はどこじゃ? ふむ、そこか!」」」」」」」
「ヤバい! 全員、手近かな奴から片づけろ! オールパワーブースト! オールガードアップ! オールマジックバリア!」
全員、無言で頷き、そのまま攻撃を続ける!
サモンとローズの話だと、総攻撃されるまで6秒!
流石に八本全部の攻撃は無効化できないだろうが、3~4本はこのまま殺せそうだ!
俺も、魔法を唱えながら、必死に矢を放つ!
「こいつは仕留めたわ! 来るで! 城塞!」
「了解っす! こっちもっす! 城塞!」
「こっちもよ! って、何で残った首、全部あたしに来るのよ!?」
なんと、残った5本の首全てが、カオリンに向かって大口を開けて殺到した!
「「「「「姫じゃ! 姫を食わせるのじゃ!」」」」」
「ダメージキャンセル!」
俺は迷わず、残った全ての首とカオリンを選択した!
二つの大口がカオリンに噛みつくが、彼女の身体が青く光る!
しかし、次の瞬間! 更に3本の首がカオリンに噛みつく!
カオリンは、光の輪を残して消えてしまった。
そして、目の前に巨大なロゴが流れる。
『八岐大蛇クエスト、FAILED』
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