第57話 見当違いの面々

         見当違いの面々



 皆でギルドルームに帰り、俺は報酬アイテムを確認する。

 ふむ、あんな出鱈目なクエスト?なのに、きっちり入っていた。

 おまけに、初めて見るアイテムまである。


「皆、お疲れ様。そして、ありがとう。それで、この『真・八尺瓊勾玉』は、ローズにだ。だから、ブルはそのまま着けていればいいな。それで、このアイテムは、多分ブルにだろう。恐らく新規に追加された消費アイテムっぽい。こんな効果は初めて見たよ。」


 俺は、ローズに勾玉を渡し、そのアイテムをテーブルに置く。


「うん、シン兄、ありがとう! 頑張った甲斐があったよ~! それで、どんなアイテムなのかな?」


 ブルは手を伸ばし、確認する。

 このアイテムは、多分、松井の指示だろう。


「へ~、僕も初めて見たよ。うん『神の悪戯 効果:性別変更』、正に僕が欲しかったアイテムだよ~。」

「せやな。性別変更は、今まで出来へんかったからな。せやけど、元々、登録の際、逆の性別が選べるんやから、自由に変えれても問題はないわな。ってか、はよ変えて欲しいわ! 中身を知っとるわいからしたら、そのギャップはきつい!」

「そうね。それでブルちゃんは早速、女性にするの?」

「うん、後で変更するよ! 僕もカオリン姉みたいなアバにしたい!」

「お、ブルちゃんはええ趣味しとるな。せや、普通のアバが一番なんや!」

「サモン、何かそのいい方だと、あたいのアバがダメみたいな言い方っすね!」

「え? ローズちゃんはそれでええやんか。シンさんも気に入ってるみたいやし。」


 ぶはっ!

 やはりばれていたか。

 ローズは顔を真っ赤にする。


「じゃあ、今回はこれでいいようですね。僕はここで一旦落ちますね。色々と確認したい事が出来ましたよ。」

「あ、僕も一旦落ちるね~! なんか、まだあるみたいだ。」

「うん、ブルもタカピさんもありがとう。」


 ブルとタカピさんが消えた。



「それで、サモンさんもありがとう。今回の件に関しては、大体気付いてはいると思うけど、詳細は言えない。なので、本当に済まない! ただ、全部解決した時には、必ず説明するから今は勘弁して欲しい!」


 俺は立ちあがって頭を下げた。

 これは、初めてサモンに会った時から、ずっと負い目に感じていた事だ。

 サモンも、俺の正体に関しては、薄々気付いているはずだが、あえて何も聞かないでくれている。今回の件に関してもそうだ。

 ここまで巻き込んでおいて今更と言われそうだが、今の俺には、頭を下げるくらいしか出来ない。


「あ~、それは言いっこなしや。わいもシンさんに関しては、色々と想像は出来る。せやけど、それはシンさんが胸張って言える時に言えばええねん。ほんで、わいは、単純にここにおるのがおもろいねん。カオリンちゃんも、ローズちゃんも、わいとはちょっと違うようやけど、似たようなもんやろ?」

「そうね。だから、シンが頭を下げる必要はないわ。あたしも好きでここに居るんだから。」

「そうっす! サモンごときに気を遣う必要は無いっす!」

「分かった! じゃあ、今からどうする? まだ時間も8時だ。一狩り行けるけど?」


 すると、サモンが手を挙げた。


「ん? サモンさん、改まって何だろ?」

「いや、前から言っとった奴やけど、皆の知恵が借りたいねん。例の神器クエスト『八岐大蛇』や。ほんまやったら、今すぐにでも行きたいねんけど、クリスもタカピさんもおらへんから、今日は無理や。ほんで、それやったら、今のうちに作戦を練っておきたいねん。わいも色々考えてんけど、ちょっと行き詰まってんねん。」

「うん、それはいいな。ローズとカオリンはどうだ?」

「ええ、面白そうね! あたしも今日はもう充分に暴れたから、狩はもういいわ。じゃあ、サモン、ローズちゃん、詳しく教えて。」

「はいっす! 今までの経緯はこうっす!」



 サモンとローズの話によると、『八岐大蛇討伐』クエストは、『出雲の国』の街中で行われるクエストらしい。街のある建物に入ると、そこから開始されると。

 それで、その建物に入ると、最初に、『奇稲田姫くしいなだひめ』というNPCが出て来る。そして、「八本の頭を持つ大蛇が出てきて、姉妹が毎年一人ずつ食べられてしまった。今年は自分の番なので、助けて欲しい。」と頼んでくるようだ。


「そこまでは日本書紀と同じね。続けて。」


 ふむ、流石はカオリン。俺にはさっぱりだ。


 その依頼を引き受けると、そのNPCは去って行き、更に扉が出現するので、そこを潜ると、場面が変わって、8個の大きな酒樽が置かれた広場のような場所に出る。

 そこで待っていると、その、『八岐大蛇』がやって来るらしい。


「そっからは簡単やねん。そのボスは酒樽に首突っ込んで、寝てしまうんや。ほんで、8本の頭それぞれにHPゲージがついとって、一つでもレッドゾーンになったら起き出して反撃してきおる。せやから、今までは、全部の頭をレッドゾーン寸前まで削ってから、瞬殺させるんが鉄板戦法や。そないして、その頭全部殺したらクリアや。勿論、時間制限はあるで。出てきてから、10分経過でも起きてきおる。」

「なるほど。8体のボス、全てを相手にするのは確かに大変そうだよな~。それで、削れる時に削っておくのも当たり前だよな~。それで、サモンさんの考えはどうなの?」

「わいの考えは、胴体や。今までは皆、頭ばっかし狙うとってん。この前、八本頭の付け根、胴体を攻撃してみたら、一発で起きおった! まあ、その後は分かるやろ。せやな、攻撃方法は、全体攻撃のブレスと頭単体での噛み付きだけやけど、8本全部で一斉に来られたら、どないもならん。瞬殺されたわ。」


 う~ん、確かに通常の手段では無理そうだ。それで俺のダメージキャンセルと言う訳か。しかし、そのやり方だと、普通の人には無理だろう。


「じゃあ、サモン、回復役にあの、『真・八尺瓊勾玉』を装備させたらどうなの? リキャストタイム無しなら回復も間に合いそうだわ。」

「いや、それでも間に合わへんねん。ちなみに、ブレスでの全体攻撃は一人3000程度。噛み付きやと、城塞かけた盾役でも5000くらいや。噛み付きの場合は、半径3m以内の奴をランダムに狙う。対象がおらんかったら、自動的にブレスや。」


 ふむ、8本全部が、同時にブレスを吐けば、それだけで24000喰らう。

 確かに、瞬殺されたのにも納得だ。


「ふむ、なら、12人で行って、それぞれの頭に一人ずつ盾役を張り付かせれば、一回の攻撃は、一人5000で済むのでは? 余った4人に、回復魔法と、胴体の攻撃を担当させれば、何とかなりそうだ。」

「お、シンさん、それやとギリギリ行けそうそうや! 盾役かて、回復できる奴は多いしな。なるほど。それが正解なんかもしれん! せやけど、わいはここの面子だけでやってみたいわ~。」


 う~ん、サモンの気持ちは嬉しいし、分らなくもないが、流石にそれは贅沢なのかもしれない。

 ちなみに、現在のHPは、サモンとローズが18000程。クリスさんが約15000。俺とカオリンとタカピさんは、8000~9000くらいだ。HP増加アクセサリーを着けて、やっと10000以上といったところか。

 サモンとローズが、それぞれ頭に張り付いてくれたとしても、6本のブレス攻撃だけで18000喰らうから、物理的に不可能である。


 しかし、もし俺がその攻撃を無効化できれば、話は違う。

 ふむ、8本の頭と6人か。

 今日は、敵のみ20体、マジックキャンセルだけだったから、何とかなったが、敵と味方、全員を同時選択はやったことがない。全くの未知の領域だ。


「ところでローズちゃん、HPをレッドゾーン寸前まで削った時は、どうやって倒したの? 今の話だと、起こした瞬間に全滅よ?」

「あ、カオリン、それは起こしてから、攻撃まで時間がかかるっす。多分1ターン分、6秒だと思うっす。その間に全員で攻撃を喰らわせたっす。それに、全部倒しきれなくても、半分も狩れれば、瞬殺はされないっすから。」


 ふむ、確かにそれは気付かなかったが、今の説明で納得だ。

 レッドゾーンまで削っておけば、レベル99のアタッカーならば、6秒もあれば充分だろう。


「じゃあ、最初はそれでやってみたらどうだろう? 実際に行けば、またカオリンやタカピさんが、いい案を出してくれるかもしれない。」

「確かにあたしも、実際に見てみないと、何とも言えないわね。ところで、『奇稲田姫くしいなだひめ』って、ちゃんと櫛になった? 諸説あるけど、素戔嗚尊すさのおが、姫に触れたら櫛になったので、それを頭に刺して退治しに行くらしいんだけど。」


「へ? 何すか? それ?」

「へ? 何や? それ?」


 サモンとローズが見事にはもった!

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