第55話 神器クエスト再び

          神器クエスト再び



 カオリンの授業が終わり、ご飯を食べると彼女が落ちると、入れ替わりにブルがやって来た。


「シン兄、ローズちゃん、やっほ~! 今日はNGMLからログインだよ~!」

「ブルちゃん、今晩はっす!」

「ブル今晩は。もう6時か。それで、早速データ取りに協力してくれている訳か。ありがとう。そうだ、ブルのパーティー、せっかく勝ち上がっていたのに、何か変な事になってしまった。本当に済まない。」


 ブルは俺達の向かいのソファーに腰掛ける。


「う~ん、自分では意識していなかったんだけど、なんか他人からすると、凄いみたいだね~。そして、シンさんが謝る必要は無いかな~。僕も、Qさんから少し注意はされていたんだ。あまり目立つなって。だからあの作戦も、僕を目立たなくする為っていうのがあったんだ。」

「そうだったんすか。でも、あの矢の連射速度だけでバレバレっす。完全にアーチャーのデメリットが無くなっていたっす。」

「だが、ローズ、俺も自分でやってみて分かったけど、あれは俺達には当たり前にできてしまう事なんだよ。意識してゆっくり射るようにしないと、誤魔化しようが無いな。」

「そだね~。だから、出場辞退に関しては仕方無いよ~。Qさんも、最初から僕抜きで登録すべきだったって言ってたよ~。うん、済んだ事はもういいや。それで、今からデータを取って欲しいって、松井さんから頼まれたんだけど。」


 いい娘だな。あのプラウのメンバーが、彼女を必死に守ろうとする理由が分かる気がする。

 ただ、このアバターとのギャップは勘弁して欲しい。おっさん顔でその口調。おまけに中身がJCだと思うと、どうも変な感じだ。


「分かった。それで、具体的には何をしてくれって?」

「そだね~。まずは何でもいいから戦闘しろって。できれば、敵が沢山居るようなのがいいって。」

「敵が山ほど居るところなら、心当たりはあるけど、この3人じゃ無理かな? ちょっと待って。サモンさんにも声をかけてみるよ。」

「あ、あの神器クエストっすね! あそこなら、ダメージキャンセルとかも試せるし、丁度いいっすね!」



 俺がサモンにコールすると、すぐに来てくれた。残念ながら、クリスさんはリアルで用があるようで、ログインしていないそうだ。

 サモンとブルで簡単に自己紹介を済ませる。


「へ~、この人があのエンドレスナイトのラスボスか~。噂には聞いているよ~。え~っと、セクハラ兎だっけ?」


 ふむ、サモンの悪名はかなり広まっているようだ。

 サモンがあんな作戦を喰らったのにも納得だ。


「ブルちゃん、ラスボスはないやろ~。わい、そこまで阿漕な事してへんで~。あかん、ブルちゃんにはどうも調子狂うわ。そのアバで、中身が15歳の女の子ってありえへんやろ!」


 うん、それは全く同感だ。


「う~ん。最初に、冗談で男性登録しちゃったからね~。だから、見た目のギャップは諦めて欲しいかな~。そろそろIDごと変えるつもりだし~。」

「ま、まあええわ。ほんで、あの八尺瓊勾玉クエストやな? そか、ブルちゃんにも教えてあげたいってところやな。せやな~、4人じゃきつそうやし、できれば後の事もあるしな。せやから、カオリンちゃんとタカピさんもってとこやけど。」

「あ~っはっはっは~っ! それなら問題無いですね~! 僕もブル君の戦闘は実際に見てみたいと思っていたので、丁度良かったですよ! それにサモン君、MP回復アイテムも必要なのでは?」


 ぶはっ!

 ふむ、タカピさんもNGMLからダイブしていると見た。

 しかし、神出鬼没キャラは姉貴で間に合っているぞ。


「シン! あたしを除け者にはさせないわよ! 何かメールが入ってきたわ!」


 カオリン! お前もか!

 メールの正体はNGMLと見て間違いないだろう。

 そして、どうでもいいが、まだ口元が動いてるぞ。ちゃんと呑み込んでからダイブしろ!


「うっわ~、ここは相変わらずやな~。ほんで、ブルちゃんはあそこ初めてか?」

「うん、まだだよ~。Qさんとも、そろそろ神器クエストやろうかって言っていたんだけどね~。」

「了解や。ほな、ブルちゃんの装備はそのままでええか。シンさんと、タカピさん、カオリンちゃんは以前の装備でええやろ。後、ローズちゃん、悪いけどブルちゃんにあれ頼むわ。今回、全体魔法使えるのはわいだけなんで。」

「了解っす! ブルちゃん、はいっす!」


 ローズは、あの『真・八尺瓊勾玉』をブルに手渡す。

 ブルは嬉しそうに早速装備した。


「ローズちゃん、ありがとう! うわ! これ、噂には聞いていたけど、凄い効果だね~。僕らバッファーには、正に宝だね!」


 ふむ、やはりブルは、元々はバッファーだったか。矢のスキルは、バッファーを極めてから取ったと見ていいだろう。


「ほな、行こか~。ブルちゃんのスキルとか、道々教えて貰いながら作戦立てるわ。」



 ギルドホールに出ると、懸念していたあの連中は居なかった。

 この、人が多い時間帯こそ狙い目なはずなので、これは少々意外だ。


「今はおらへんか。わいも見たけど、なんや、変なのが湧いて来て、ブルちゃんもシンさんも迷惑な話やな~。」

「そうなんだよ~。おかげでQさん達にも迷惑かけちゃったみたいだし。僕が望んで得た能力じゃないのにね。まあ、あって困るものじゃないし、それを利用して遊んでいるのは認めるけどね~。」

「そうだな。しかし、ブルの能力はそのうち無くなるだろう。そうなれば、皆と普通に遊べるはずだよ。」

「え? シンさん、それ、どういう…、あ~、ええわ。聞かへんかった事にしとくわ。」


 しまった! 

 今の発言は色々と不味い。

 何も知らない人になら、根掘り葉掘り聞かれるはずだ。そして、勘のいい奴なら、何故ブルだけ?ってなるはずだ。

 流してくれたサモンには感謝だな。まあ、彼もかなりの部分には気付いているようだが。今回のクエストに関しても、意味を理解していそうだ。ブルが俺と同じメイガスなのは知っているのだから。本来ならば、コンプの仕方を俺がブルに教えて、後はプラウの人達でやるべきだろう。


「うん、サモンさん、ありがとう。ところで、門までの間はいつも通りでいいかな?」

「せやな。わいもブルちゃんの力は確かめたいところや。雑魚相手は、わいとローズちゃんで盾になるさかい、後はシンさんとブルちゃんだけで頼むわ。シンさんも矢の練習になってええやろ。」

「分かった。皆、何か悪いな。」

「シン、気にする必要は無いわ。ブルちゃんも存分に暴れてね!」

「そうっす! あたいもそれがいいと思うっす!」

「そうです。ブル君、僕達相手に出し惜しみする必要は無いですからね。」

「うん、了解だよ~! シン兄、僕とどっちが沢山狩れるか競争だよ!」



 クエストの門までの雑魚相手には、何の問題も無かった。

 ローズとサモンが交代で敵に『挑発』をかけ、おびき寄せたところに、二人で矢の雨を降らせる!

 5匹くらいなら、全体攻撃スキルを使うまでもなく、10秒かからない。

 当然、仕留めた数ではブルには勝てなかったが。



「よっしゃ! こっからやな! 今回は力押しで行くで~! カオリンちゃん、タカピさん、お待たせや!って、さっきの矢鬼は二人に任せたか。ほな、ローズちゃんが『城塞』と『挑発』かけて突っ込むから、皆、思いっきり暴れるで~!」

「了解っす! ますは城塞!」


 現在、俺達はあの、鬼が階段に鮨詰めになっているところの手前に居る。

 前回はクリスさんの範囲魔法で瞬殺させたが、流石はサモン、ちゃんと分ってくれている。


「15秒経ったっす! じゃあ、行くっす! 挑発! ガードアップ!」

「じゃあ、これはわいの役目やな。面倒や。オールパワーブースト!」


 ローズが階段に突っ込む!

 鬼達が、先を争うようにローズを目指して降りて来た!


 ふむ、あれでよくこけないな。

 将棋倒しになってくれれば楽できそうなのに。


 更に、ローズの両脇から、カオリンとタカピさんも突っ込む!

 そして、サモンは、今回はローズの回復役と援護に回ってくれるようで、俺とブル同様、残ってくれた。ヤバそうなら、範囲魔法を使うつもりでもあるのだろう。


「いっくよ~! 無慈悲なる槍雨!」

「ここはあたしの新スキルの出番ね! 喰らいなさい! 灰塵舞滅殺斬!」

「僕もお披露目ですね~! 円撃無双突き!」

「う~ん、俺もブルの奴が欲しいな。これ終わったら取れるかな? 乱れ撃ち!」


 この4連撃で、5段目くらいまでの奴のHPゲージが纏めて1/3くらいに減る!


「ええ感じや。遠慮のう止め刺していってや~。おっと不味いわ。グランドヒール!」


 サモンがローズを回復する。

 そして、ここから、サモン以外の全員での連続攻撃が始まる!


「10匹目! 貰ったよ~っ!」

「爽快ですね~! 僕だって5匹目ですよ!」

「ブルちゃん! それはあたしが狙ってたのに~っ!」

「カオリンは、もっと回りをよく見るっす! あたいも6匹目頂きっす! おっと切れたっす! 城塞! ガードアップ!」


 既におかわりの鬼が降りて来ているが、皆、この狂宴に魅入られ、手当たり次第に敵を屠る!

 俺も容赦なく矢を射続ける!


 結局、一分もかからずに、この階層は全滅させた。


「ほな次や。今回のおかめ天女は魔法ばっかやけど、さっきと同じでええやろ。ただ、最初に行くのはローズちゃんだけで頼むわ。流石にこの数のダメージキャンセルは無理やろ。あいつらに魔法を撃ち終わらせたところで、全員突撃や。」

「どうだろ? こいつらは殆ど、スキルじゃなく普通の魔法だ。俺とブルで、少し試させてくれないか?」

「お、そいつはおもろそうやな。ほな、ダブルメイガス、観させて貰おか。」

「じゃあ、ローズは前回と同じで頼む。そして、俺は右半分、ブルは左半分、5段目までを、纏めてマジックキャンセルだ。タイミングは俺に合わせてくれ。前回の戦闘で大体掴めているから。カオリンとタカピさんは、それを見てからで。」

「うん、出来そうだね! やってみるよ!」

「了解っす! じゃあ、まずは城塞!」

「もはや、普通の戦闘じゃないわね。でも、シンとブルちゃんならやれそうね。」

「ブル君、その調子でどんどんやって下さいよ~!」

「ほな、皆頑張ってや~。わいは今回も支援と回復や。取り敢えずはサブスティトゥー! サブ………!」


 サモンが身代わりの魔法を5連続でかける。ローズが喰らったダメージを、自分でいくらか肩代わりするつもりだろう。


「じゃあ、行くっす! 挑発! マジックバリア!」


 前回同様、ローズが突っ込む!

 その瞬間、おかめ天女から、一斉に魔法が放たれる!


「ボルケイノ!」

「アイスランス!」

「ウィンドカッター!」

「コズミックバースト!」

「メガ粒〇砲、撃て~っ!」

「バーニングフォール!」

「「マジックキャンセル!!」」


 どうだ? 流石に纏めて20体は初体験だ!

 そして、敵の使う魔法の種類も、全体魔法から、単体魔法に変わっている。これは『挑発』の効果とみていいだろう。

 なるほど、それでサモンは失敗した時に備えて、身代わりの魔法を唱えていたのか。

 攻撃力の劣る範囲魔法なら耐えられるが、単体魔法では流石にローズが耐えられないと。


 5段目までの敵、ほぼ全てが一瞬青く光った!

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