第54話 メイガス排除運動

           メイガス排除運動



 ギルドルームに戻る為に、ギルドホールに入ると、さっきの連中?がまだ頑張っていた。全員同じアバで尚且つIDも分からないので、同一人物かどうかは判別できない。まあ、交代でやっているのかもしれないか。しかし、そんなことやるくらいなら、狩りにでも行けばいいのにと思う。俺と違って、時間に制限があるのだから。

 もっとも、俺の場合はいつ消えるかも分からないので、俺の方こそ、今できる事をしておけと言われそうだが。


 ちなみに、俺は絡まれる可能性が高いので、用心して隠密玉を使用している。

 全く、何も悪い事をしていないのに、何でこんな面倒をしないといけないんだか。


「首謀者の見当はつくっす。でも、何であんなのに集まるんすかね~? 三段重ねっすよ? 後ろめたさ爆発してる奴っすよ?」

「う~ん、奴が特別な存在だからかもな。三段重ねのIDの奴なんて、そうそう居ないだろう。しかも一目で分るし。」

「それなら、シンさんの事知ったら、あの人達寄ってきそうっすね~。何しろ、多分この世に一人しか居ない、喋れる幽霊っすからね~。」

「ぶはっ! 勘弁してくれ。あいつらに慕われても、全く嬉しく無いぞ。ってか、ローズもそうなのか?」

「わ、私はシンさんが好きなだけなんです~っ! あんなのと一緒にしないで下さい!」


 ローズはそう言って、俺の腕に手を廻す。

 俺は少し恥ずかしくなって、転移装置に急いだ。



 ギルドルームに戻ると、ローズが今回のクエストの概要を改めて教えてくれる。

 実は、あの鬼に喰われてからは、時間制限があったようだ。

 一分以内に、ある程度のダメージを与えないと、そこで失敗のようで、街まで戻されるらしい。ふむ、消化されるってか?

 俺の連射速度と、武器の威力があったから、問題は無かったようだが。


「で、俺が川を下っていた間、ローズは何を?」

「それは、あたいも戦闘っす。あの屋敷に居た女NPCと、姫筆頭の地位を賭けて、バトルロイヤルしてたっす。勝ち残らないと、そこで終わりっす。」


 う~む、一寸法師ってそんな話だったのか?

 なんか壮絶だな。

 結果的には、それなりに練習にもなったし、ローズの衣装も見られたし、上々だろう。



 そろそろカオリンが来る時間なので、ローズは昨日の復習をしておくと言って、タブレットを取り出した。

 俺の場合は必要無いのだが、その真面目さに圧倒され、付き合おうとすると、コールが入った。

 ふむ、桧山さんからか。

 俺はローズの邪魔にならないように、部屋の隅に行き、小声で話す。


「シンさん、今日は。今、いいですか?」

「はい、構いません。ブルから何か分かったんですか?!」

「あ、すみません。そっちの話では無いんです。ブルーベリーさんは今晩来られる予定なので、それからですね。いえ、素戔嗚チャンネルなんですが、酷い事になっています!」

「え? また俺の悪口ですか? で、また奴ですか?」

「ちょっと違うんです。個人のIDを特定するような書き込みでは無いのですが、メイガスと呼ばれる人は、不正改造をしているはずだから、取り締まるべきだとのスレが立って、それに賛同する人でお祭りになっているんです! 管理側にも、そういった内容のメールが何通も来ています。」


 ぐはっ!

 それって、俺とブルの事になるな。

 俺は、存在そのものが微妙なので別として、ブルは管理側から不正では無いと認められているのに、チート扱いは可哀想だ。


「それで、ブルは大丈夫ですか? 特定されたりしていませんよね?」

「それは分からないのですが、彼女のチーム、プラウのリーダーのQジロさんから、先程大会を辞退するとメールを頂きました。」


 う~ん、確かにこのままブルを衆目に晒せば、どうなるかは火を見るより明らかだ。俺達の場合、特に意識せずにやっているものだから、それを制御するのが難しい。それに、わざとダメージキャンセルを失敗させたり、矢をゆっくり撃つくらいなら、そもそも試合なんて出ないほうがいい。

 Qジロさんの判断は間違っていないだろう。


「しかし、それは気の毒ですね。ブルは何も悪い事はしていないのに。」

「そうなんですよ。それで、もし、このままブルーベリーさんが、居心地が悪いと協力してくれなくなったら、大問題です!」


 う~む、彼女は、今晩NGMLに来てくれると約束してくれたから、大丈夫だとは思う。それでも、ここではもう遊ばないとか言われたら、かなり気が重い。

 このPVPの大会で、彼女を炙り出した、そもそもの原因は俺なのだから。

 そして、本当に臍を曲げられでもしたら、桧山さんの言う通り、協力そのものが危うい。


「スレッドそのものは、ただの意見なんで、削除とか出来ないんですよね?」

「はい、そんな事したら、逆に炎上しそうです。うちに来たメールにも、まだ返信出来ずに無視している形なんで、それにも批判がされています。」

「俺達からすれば、ユニークスキルみたいなもんなのですが、原因が分かっていないんじゃ、説明のしようもないか。ん? 待てよ?」

「え! シンさん、また何か妙案が閃いたんですね! そうですよね!」


 ぶっ!

 確かに、セクハラぺナをいじったり、エロ目的で、サモンと一緒に水着を導入させる案を捻り出したりしたが、妙案と呼ばれる程の物だろうか?

 ってか、サモンの企画書、採用されたのかな?


「いや、ちょっと思ったんですが、不正ではないのに、こういった現象が起こっているのが問題なんです。ぶっちゃけバグに近い。そして、解決方法はまだ見つかっていない。なので、それを素直に公表しちゃえばどうですか?」

「あ~、なるほど! って、よく考えたらダメですね。バグがある危険なゲームであると言っているようなものです! そうなれば……」

「はい、そうですね。俺が馬鹿でした。そうなれば、このゲームそのものが問題視され、俺の研究は続けられなくなると。しかし、管理側の見解も出さないと、収まりそうにありませんね。あ、ちょっと待って下さい。カオリンが来た! カオリンなら、それこそ妙案を捻り出すかもしれない! ファントムカースは彼女の案です!」

「は、はい! お願いします!」



「シン、ローズちゃん、今日は。あ、ローズちゃん、復習してるんだ! シンも見習いなさい!」

「カオリン今日はっす! 当然っす! 馬鹿嫁は要らないってお義姉様に言われてるっす!」

「ぶっ! 何故そうなる? そもそもデータ人間の俺に、復習なぞ必要無い!」

「シン、あなた、だんだん自分の異常性を隠さなくなってきたわね。まあいいわ。今日は大学も早く終わったし、早速始めるわよ!」


 ふむ、そう言えばまだ3時半だ。

 きっと、授業が終わって、寄り道もせずに家に帰り、すぐにログインしてくれたのだろう。本当に感謝だ。


「うん、時間が早いなら丁度いい。実は……。」


 俺はさっきの桧山さんの話を打ち明ける。


「確かにその感じだと、シンとブルちゃんにとっては不味いわね。」

「全部あのお馬鹿のせいっす! あんなのアク禁っす!」

「で、何かいい案は無いかな?」

「そうね~。『調べてみたけど不正は無かった。メイガスに関しては、目下確認中。』では? 言い方を変えてみただけだけど、これは事実よね。」

「まあ、そんなところだよな~。うん、カオリン、ありがとう。実際、メイガスに関しては、ブルの研究結果次第だしな。そして、その原因さえわかれば、当然メイガスじゃ無くすることもできるだろう。そうなれば、俺もブルも皆と同じ条件で遊べるようになるはずだし。とにかく、NGMLに、一刻も早く原因を究明して貰うしかなさそうだ。」


 すると、桧山さんからまたコールが入る。

 ふむ、全部聞いていたな。


「本当に済みません! 今は人手が足りないからって、全部私に丸投げされている状態なんです! はい、今はそれしか無さそうですね。ありがとうございました!」


 俺は、カオリンにそのまま伝える。


「桧山さんも大変ね~。でも、NGMLの人にはいい刺激じゃないかしら? 早くシンを生き返らせないと! ってなるのは間違いないわ!」

「まあ、そうなるのかな? 俺としては、何か迷惑かけまくりで非常に肩身が狭いんだけど。」

「それこそ、シンさんが気にする必要はないっす! でも、そこがシンさんのいいところなんですけど…。」


 ローズはそう言って俺にしなだれかかる。


「あ? あれ? あたいも桧山さんからコールっす! 何すかね?」


 ん? 桧山さんからローズにってのは、あまり無いパターンだな。


「げ! 『あまりいちゃいちゃするな! 目の毒だ!』って、キレられてしまったっす! あたいは悪くないっす! 嫌なら見なければいいっす!」

「い~え! あたしもそう思うわ! シン! ローズちゃん! あたしも居るんだから少しは控えなさい! そ、それでシン、あ、後で話があるのだけど?」


 ぶはっ! やはり桧山さんには、うざかったようだ。


「わ、分かった。済まん。それで話ってのは?」

「え、えっと、二人っきりの時にでいいかしら?」

「うん、構わないけど、実質、俺と二人っきりになるのは不可能では? 今みたいに、ずっと見張られている訳で。」

「そ、そうなのよね。じゃあ、また今度でいいわ。それより、授業を始めるわよ!」


 ふむ、何の話かは分からないが、あまり急いでいるようでもなさそうだし、いいか?

 ローズは何やら少し微笑んでから、タブレットを取り出す。

 俺も取り出したところで、モニターの画面が変わった。

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