第48話 メイガス確定

        メイガス確定



 そうこうするうちに、ペナルティーの20分が経過したのか、サモンが戻って来た。


「あ、あれは不可抗力や! シンさんかて、あれは引っかかるはずや!」

「シンさんは、あんな手には引っかからないです!」


 ローズよ、お前は俺を買い被り過ぎだ。

 俺も、多分大丈夫だとは思うが、相手によっては、自信は持て無いぞ。

 特にローズにされたら、絶対にヤバい。

 あ、でも、ローズならぺナは取られないか?


「シンがあの女に引っかかるかどうかは分からないけど、少なくとも、タカピさんは大丈夫だったわよね~。」

「まあ、僕は仕事柄、女性の身体は見慣れていますから。」

「と、とにかくあれは反則や! せや、シンさん、あのメイガスの件はどないなった?」


 サモンは必死に話題を変えるが、カオリンとローズの醒めた目は、依然としてサモンに突き刺さっている。


「うん、それなんだが、間違いなくあのパーティーには居るんだけど、まだ、誰なのかが確定しないんだよ。」

「そうなのだ。それで、次の試合で、サモンさん達にも協力して貰おうと思っていたので、とても残念なのだ。」


 サモンは、ばつが悪いと見えて、クリスさんの陰に隠れやがった。

 しかし、バットマンさん、容赦無いな。

 サモンに恨みでもあるのか?

 まあ、お互い、いざ取引の交渉となれば、鬼になるのだろうから、あってもおかしくはないか。


 そこに、直接頭に声が響く!


「今、ログの確認が取れました! メイガスは春日…、いえ、ブルーベリーさんです!」


 新庄の声だ!

 そう言えば忘れていた。NGMLも本気で探していたのだった。


「分かりました! そういやブルーベリーさん、試合前に何か言っていましたしね。」


 うん、全て納得が行った。

 後衛のアーチャーならば、全体が良く見えるし、彼はガードのQジロさんの後ろに居た。バッファーならば当然の位置だ。


「ただ、一度しか唱えていないので、私もまだ確証が持てません。彼女に連絡を取るのは、次の試合が終わってからでいいでしょう。」

「了解です。では、俺もこれからプラウの試合を見ますので、そちらも宜しくお願いします。」


 俺がコールを切ると、何やら皆の視線が俺に集まっている。

 ローズ、カオリン、タカピさんに至っては、食い入るように俺を見ている。


 この三人は、俺とNGMLの目的を知っているので当然か。

 今、俺が管理側と連絡を取っていたのは、ばれていると見ていいはずだ。

 サモンとクリスさんは、俺が何故メイガスを探しているのか知らないはずなのだが、俺が特殊だと言う事は知っているので、何となく察しているのだろう。


「あ、ごめん。ちょっと野暮用で。後、次のプラウの試合、皆はどうする? 俺はこのまま観るけど?」

「当然一緒に観るっす!」

「あたしを除け者にするつもり? 観るに決まっているじゃない!」

「僕も、シン君以外のメイガスには、興味がありますね~。」

「ほな、わいらも付き合うわ。クリスも構へんやろ?」

「そうですわね。仲間なのですから、当然ですわ。」


 俺としては複雑な心境だ。

 特にサモンとクリスさんには、これ以上巻き込みたくないという気持ちもあるし、協力してくれて嬉しいという気持ちもある。



 そこで、会場にアナウンスが流れた。


『次の試合はパーティー戦、レベル80台です。出場予定のチーム、『プラウ』と、『インビンシブル』の方は、会場前にお急ぎ下さい。』


 ふむ、会話に夢中で、今やっていた試合は全く観ていなかったな。

 まあ、今の俺には、プラウ以外の試合はもうどうでもいいのだが。


 試合開始までの間、俺とバットマンさんで、プラウの試合内容と、試合前の会話を皆に説明する。


 俺が管理側から何らかの情報を得ているのは、バットマンさん以外は分かっているだろうが、ここでそれをバラしたくはない。

 なので、飽くまでも、メイガスが存在する事と、ブルーベリーさんがメイガスの疑いが強いという事を補足する形だ。


「といった経緯で、俺はブルーベリーさんがメイガスの可能性が高いと思う。」

「せやな。わいやったら、シンさんをそこに配置するわ。」

「僕も同意見なのだ。シーナさんは、相手を攪乱する為のダミーと考えるのだ。」

「了解っす! ブルーベリーさんを見張るっす!」

「なるほど。理に適っていますね。じゃあ、全員で見ていてもあまり意味は無いでしょう。僕は一旦、会場の外に出ましょう。」

「あ、タカピさん、それならあたしも行くわ! もし彼等が試合前に何か相談していたら、大きなヒントになるわ!」

「では、私もタカピさんとご一緒しますわ。ブルーベリーさん達が、試合が終わって出て来た時、足止めしておきますわ。」

「分かりました。タカピさん、カオリン、クリスさん、助かります。」



 タカピさん達が出て行き、暫くすると、またアナウンスが流れる。


『それでは只今より、1分後に、『プラウ』と、『インビンシブル』によるパーティー戦、レベル80台が始まります。』



 両チームが、一斉に闘技場内に散らばる。


 プラウの方は、前回と同様の布陣。

 ふむ、味を占めたな。


 インビンシブルは一般的な布陣。

 ガードを最前線の中央に配置し、その左右には、間隔を取ってナイトとランサー。更に、それぞれの後方には杖装備が3人。

 うん、こちらは適度にばらけた、オーソドックスな陣形だ。


「あ~っ! インビンシブルの奴ら、陣形がちゃうやないか! わいらの時は、あのボインボインのウィザードがわいの正面に来たで!」

「あたいも何かおかしいとは思っていたんすけど、あれは対サモン用、特別シフトだったっすね。」


 ふむ、納得だ。

 サモンの言うところのボインボインのウィザードは、今回後衛の真ん中に位置取りしている。そして、確かに魅力的なアバだ。あれはバニーちゃんとタメ張れるな。

 あ、こっち見て、にやつきやがった!

 観覧席のサモンを見つけたのだろうが、少しむかつくな。

 何しろ、彼女のやった事は、痴漢の冤罪詐欺に近いからな~。

 もっとも、引っかかるサモンがアホなだけなのだが。



『……3、2、1! 始め!』



「スーパーアイドル!」

「スーパーアイドル!」

「マルチガードアップ!」

「マルチガードアップ!」

「オールパワーブースト!」

「トリプルパワーブースト!」

「マジックブースト!」

「トリプルマジックブースト!」


 一斉に下準備の魔法とスキルが飛び交う!


 ふむ、両陣営共、基本戦略は同じようだ。

 お互い、前列中央のガードに攻撃を集中させ、その隙に弱い奴から仕留めて行こうという方針だな。

 そうなると、集中砲火を浴びても大丈夫なプラウの方が少し有利か?


 ちなみに、今回もシーナがマルチガードアップを唱えている。

 そして、ブルーベリーは弓を構えて微動だにしていない。


 プラウの前衛3人が、インビンシブルのガード目掛けて突っ込む!

 そして、インビンシブルの前衛3人は、それぞれ最初に正対していた奴をターゲットにするようで、ばらけて走り込む!


「絶対零度!」

「マジックキャンセル!」


 インビンシブルの巨乳女が唱えるが、何も起こらない。


 そして、マジックキャンセルは、またシーナの声だ!

 しかし、俺は見逃さなかった!

 ブルーベリーが軽く弓を持ち上げ、そして、口元が動いていた!

 間違いない! こいつが唱えた!

 更にこいつ、元は魔法職だ! 魔法を唱える時の癖がまだ抜けていない!


「バーニングフォール!」

「阿修羅六臂剣!」

「四方八連穿!」

「ハイパーヒール!」

「剛腕剛蹴十二連!」

「四方八連穿!」

「メテオアロー!」

「グランドヒール!」


 前衛の距離が詰まり、今度は単体相手の最強スキルが飛び交う!

 そして、今回は回復が間に合ったようで、インビンシブルのガードは、イエローゾーンで耐えている。


「うん、シンさん、やっぱりブルーベリーがメイガスやな。シーナのは若干タイミングがずれとった。あれじゃ成功せえへんわ。ほんで、ブルーベリーの口元は完璧なタイミングやったで。」

「だな。しかし、お互い今は全員リキャストタイム中だろう。切れた時にもう一度注目しよう。」

「いや、もうこれ以上は見る必要ないやろ。あないな連続射ち、うちのアーチャーでも無理やわ。」


 見ると、ブルーベリーが凄まじい勢いで矢を放っている!

 殆ど手元が見えない!


 うん、彼はログを調べるまでもなく、メイガス確定だ。


 矢を放つ場合、一旦背中に背負った矢筒から、矢を取り出し、それを弓に番えてから撃つのだが、彼の場合、その手順を無視しているように見える。

 俺も出来るのかもしれないが、常人には多分無理だろう。


 そして、試合もプラウが勝つだろう。ブルーベリーは前衛のナイトに的を絞ったようだ。インビンシブルの魔法職はリキャストタイム中なので、そのナイトはプラウのランサーと対峙しているが、回復できずにどんどん削られて行っている。もうレッドゾーン寸前だ。


「どうやら間違い無いのだ。僕も会場の前で待ち伏せるのだ。」

「じゃあ、俺も行くよ。うん、試合もプラウの勝ちは揺るぎそうもないしね。」

「あたいもっす!」

「ほな、わいはここで試合を見届けるわ。それにわいまで行ったら、警戒されそうやしな。」

「うん、サモンさん、頼む。」


 俺達はサモンを残して、観覧席を後にする。

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