第47話 メイガス発見!

         メイガス発見!



「オールパワーブースト!」

「スーパーアイドル!」

「トリプルパワーブースト!」

「マルチガードアップ!」


 一斉にスキルが唱えられる!


 『オールパワーブースト』は、オールナイトの、真ん中の奴が唱えた。

 ふむ、こいつだけレベル99なので、サモンみたいな万能タイプなのかもしれない。これで、オールナイト全員の物理攻撃力は一気に上がったはずだ。


 『スーパーアイドル』を使ったのは、プラウのQジロ。

 これは、敵のスキル攻撃を、30秒間自分にのみ集中させる盾スキルだ。魔法や武器スキルを使おうとすると、このスーパーアイドルを唱えた奴にしか選択できなくなるので、範囲攻撃封じにも使える。特筆すべきは、これはプレーヤーにも効くことだろう。

 なるほど、最初に密集していたのは、これがあるからか。ただ、通常攻撃には効果が無いので、微妙なスキルでもある。また、相手の強力なスキル攻撃を一手に引き受けることになるので、余程硬い奴でないと、瞬殺される可能性もある。


 『マルチガードアップ』を唱えたのは、プラウの後衛、シーナ。この魔法は、対象の物理防御と、魔法防御、素早さを同時に上げるので、盾役に唱えるのがセオリーである。Qジロの身体が一瞬光ったので、彼に唱えたのだろう。


 それぞれ、下準備が終わったところで、いよいよ本格的なバトル開始だ!


「なら、お望み通り、盾役から消えて貰うか! 皆、俺に合わせろ!」

「「「「「お~!」」」」」


 オールナイトの唯一レベル99の奴が仲間に指示を送る!

 6人全員がQジロに走り込む!

 プラウの前衛二人も、それを追って、走り込む!


「「「「「「阿修羅六臂剣!」」」」」」

「ダメージキャンセル!」


 うは! 大剣での最強スキルを纏めて一人にって! 

 オールナイト全員の剣が六つに分裂し、Qジロを中心に、一瞬宙に舞い、即座にQジロ目掛けて、その全て、36本が突き刺さる!

 いくら強化されていても、流石にこれは耐えられないはずだ!

 だが、ほぼ同時にダメージキャンセルも唱えられている! 

 Qジロの身体が一瞬青く光る!


 見ると、シーナが杖を翳している。

 ふむ、彼女はバッファーだな。

 だが、6人全員での攻撃だ。一人の攻撃を無効化したところで、焼け石に水だろう。


 俺はQジロが消えるだろうと、彼を注視するが、予想に反し、彼は消えない。

 HPゲージを見ると、何と満タンだ!


 そして、俺が混乱している間にも戦闘は続く。


「いい感じに塊りやがった! 喰らえ! 絶対零度!」

「キャハハ~! 無慈悲なる槍雨そうう!」


 プラウのもう一人の杖を装備した奴と、ブルーベリーが叫ぶ!

 それと同時にオールナイト全員が、一度体中氷漬けになったかと思うと、その氷が砕かれ、更に無数の極太の矢が降り注ぎ、串刺しにされる!

 連中のHPゲージが一気に半分以上減った!


「こうも上手く行くとはね! こいつは頂きだ! 剛腕剛蹴十二連!」

「じゃあ、俺はこいつだ! 四方八連穿!」


 更に、プラウのモンクの単体相手の最上級スキルと、ランサーの最上級スキルが、最もHPゲージが減っている二人を襲う!


「うわ! 各自回復だ! グランドヒール!」


 オールナイトのリーダーと思われる、レベル99の奴が叫ぶが、時既に遅し。

 この華麗な連撃で、二人が消える!


 この、たった10秒程の間で勝負はついた。

 俺の視界にでかでかと、『WINNER! プラウ!』と表示される!


 観覧席から一斉に声が上がる!


「プラウ! つえぇ~~っ!」

「プラウ、完璧じゃん。オールナイトも、あれじゃどうしようもないね。」

「久しぶりにいい物見せて貰ったよ。次も頑張れよ~!」


 観客は一様に、あの見事な連携攻撃に酔いしれているようだが、俺は釈然としていない。

 確かに、オールナイトはプラウの作戦に完全に嵌ってしまった。

 それはいいのだが、理解不能な点が一つある。

 そう、何故QジロのHPは減らなかった?

 結果は一緒だったかもしれないが、普通なら、あの集中攻撃で彼は即死のはずだ!


 『ダメージキャンセル』は、攻撃する側と、される側、二つを選んで発動させる。

 常識で考えれば、一人の攻撃を無効化できても、後5人のは無理だ。


 あ~、そうか。これはかろうじて説明できるか。

 おそらくだが、俺が神器クエストでやったのと、逆の方法だ。

 俺はあの時、玉祖命と、俺達全員を選択することにより、敵の全体攻撃のダメージを無効化する事に成功した。

 今回のパターンは、Qジロと、彼に攻撃しようとした奴全てを選択したに違いない。


 ふむ、俺もやったことはないが、多分、その気になればできる気がするな。

 特に今回の場合は、オールナイト側が、絶対に避けられないようにと、攻撃のタイミングを合わせたのが、もろに裏目に出た訳で。


 しかし、これは自分で言うのも何だが、普通の奴には、神業の部類だろう。

 うん、確実にメイガスが居る! 

 そして、そのメイガスは、ダメージキャンセルを唱えたシーナだ!



『次の試合は9時半からです。対戦カードは……』


 城内にアナウンスが流れ、今の試合で戦っていた、プラウは観客に手を振りながら、オールナイトはうな垂れたまま、全員消えて行く。


 俺も立ち上がって、彼等の後を追おうとすると、バットマンさんが俺に話しかける。


「確かにメイガスは居るのだ! あんな真似、メイガスじゃなきゃ出来ないのだ!」

「俺もそう思う。で、バットマンさん、早速シーナさんに引き合わせて貰えるだろうか?」

「いや、シンさんは勘違いしているのだ! 多分、メイガスはシーナさんじゃないのだ!」


 え? あのダメージキャンセルを成功させたのがメイガスな訳で、それを唱えたのはシーナでは? 

 あの幼い感じの声は、明らかに彼女のものだったはずだ。


 バットマンさんは更に続ける。


「シンさん、良く考えるのだ。確かにシーナさんは『マジックキャンセル』と『言った』のだが、彼女は最初に『マルチガードアップ』を唱えたはずなのだ!」


 あ~、そう言うことか!

 これなら俺にも分かる!

 連中が試合前に、相手を攪乱させるとか言っていたのはこの事か!


「なるほど、リキャストタイムの関係上、シーナさんは、まだダメージキャンセルを唱えられないはずだったと! 本当の魔法は、他の誰かが小声で唱えていたと!」

「そうなのだ! もっとも、最初の魔法を唱えたのも、シーナさんじゃないかもしれないので、彼女がメイガスの可能性は、まだ残ってはいるのだ。」


 ふむ、そうなれば、結局振り出しだ。

 確かにプラウの誰かがメイガスなのは間違いないと思われるが、誰かまでは今の試合では特定できない。

 ただ、Qジロと、範囲魔法を唱えた奴では無いと思われる。

 ならば、残ったのは4人。


 そう、モンクの『バウアー』と、ランサーの『カーディナル』。そして、『シーナ』とアーチャーの『ブルーベリー』!


「う~ん、じゃあ、次の試合で見極めるしかないか。今、彼等を追いかけて聞いても、次の試合もあるから、絶対に教えてくれないだろうしね。」

「そうなのだ! でも、幸い、次はVRファントムとなのだ! サモンさんなら、メイガスが誰か、絶対に暴いてくれるはずなのだ!」


 お! 忘れていたが、お互い勝てば、次に当たる予定だった。


「じゃあ、次の会場、第三闘技場だ!」



 俺達が観覧席に着くと、既に皆が待っていた。

 俺は当然勝ったものだろうと思っているのだが、何故か皆浮かない顔だ。


「皆、お疲れ様。それで、次の試合なんだけど…、あれ? サモンさんは?」


 良く見ると、サモンが居ない。姉貴も居ないが、あの人はいつもの事だろう。

 どうせ、次の試合まで寝るとか言っていそうだ。


「あ~、あのお馬鹿は、もうどうでもいいわね。シン! あいつ、VRファントム追放よ!」

「全くっす! 只のエロ兎だけならまだしも、足を引っ張るとは許せないっす!」

「カオリンちゃん、ローズちゃん、サモンちゃんを責めてはいけませんわ。あれは相手の作戦勝ちですわ!」

「う~ん、僕からは何とも……。あれは、哀しい条件反射でしょうからね~。」


 ふむ、何があったのかは分からないが、どうやらうちは負けてしまったようだ。そして、敗因はサモンにあると。


 詳しく聞くと、次のような話だった。


 こちらは前衛を4人にした、アタッカー重視の布陣。先程のオールナイトと似たような作戦だったそうだ。

 そこまでは問題無かったのだが、試合開始直後に波乱が起こったようだ。

 まず、開始前のポジショニングで、一人のゴージャス体型の女性が、境界線を挟んで、サモンと正対したそうだ。

 そして、彼女はあろうことか、開始と同時に、両手でその豊満な胸を揺すったのだ!


 当然、そんな物を見せつけられたサモンは、彼女に特攻してしまう!

 結果、セクハラぺナであえなく退場。

 試合中にぺナを喰らったのは、前代未聞の珍事だそうだ。


 ちなみに、姉貴は開始と同時にサモンに透明化の魔法、『ディサピア』をかけて貰って隠れる予定だったので、これもサモンが居なくなった事により、隠れる事ができず、あっさり敵のウィザードの餌食になったと。


 おかげで、二人を失ったVRファントムは開始数秒で見事に敗退し、おまけに、大会の最短勝利記録に貢献するという、不名誉な実績まで残したらしい。


 う~ん、カオリンとローズが怒るのは無理も無い。

 だが、一概にサモンを責める気にもなれん。

 これは、クリスさんの言うように、サモンの習性を見極めた、相手の作戦勝ちだな。

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