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オレンジ色の液体が満ちるグラスをサーブする。堀川さんがまた嬉しそうに目を細めた。彼女の“いつもの”は爽やかな甘さのファジーネーブルだ。
「そう言えば店長、最近顔見てないって言ってたよ、会って来た?」
堀川さんが去年の冬までバイトをしていた酒屋の店長は、彼女を特に可愛がっていたから。
「さっき会って来たよ。まったく、店長は怖い顔してそう言うところあるよね」
「堀川さんを子供みたいに可愛がっているんだよ」
店長はまだ独身だったと思うけど。
「バイトしていた時も良くしてもらってしね、感謝してる」
「家にも帰ったの? お盆休みとか、今はないわけ?」
「お盆休みなんて高校卒業してから一日もないって」
そう言って少し自虐的に笑う。あぁそっか、いつもバイトを詰め込んでいたもんね。
「今日はそう言うのじゃなくて、やっと落ち着いたからみんなに報告に来たの」
「報告?」
小首を傾げて訊くと、彼女は隠せないようにニンマリと口角を上げた。
「デビューが決まったんだ」
「え、おめでとう! 凄いじゃん! やったね!」
「ふふふ、うんっ」
無意識に顔の前で拍手していた。歌手を夢見て頑張っていた堀川さんが、やっと夢を掴めたんだもの!
「って言ってもインディーズだけどね」
照れたように頬を掻きながら堀川さんは続けた。
「社長は最初、ヴィジュアル路線で売りたかったみたいなんだけど、どうしてもそれが嫌になって。もっと自然に“私”として歌を歌いたかったから。もしかしたらヴィジュアル系の方が売れたって後で思う時が来るかもしれないけれど、それでもこっちの方が良いって思ったの。若いからそう思うだけだって散々言われたけどね」
「それでも今のスタイルが良かったんだね」
「路線を戻す決断をしたことを反省する時は来るのかもしれないけど、多分、後悔はしないから」
「そっか」
うん、と頷いた堀川さんの笑顔は煌めいていて。フレッシュでやる気に満ちていて、見えないパワーが漲っているようだった。
純粋に、若いっていいなって思う。
「応援してるよ」
「ありがとう」
「それでいつCDは発売するの? 絶対買うから」
CDなんてめったに買わないけれど、これだけはどうしても手元に置いておきたいし。
「ありがとう」
「頑張ったね」
「・・・うんっ」
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