第32話

「琴音ちゃん。ちょっとお話し聞いても良いかな」

別の非喫煙者の男性刑事が奥からやって来て、琴音の前にしゃがみ込む。

「良いけど、何話せばいいの?」

「琴音ちゃんたちをあの部屋に閉じ込めたのは、あの人一人だけ?」

「そうだよ」

「琴音ちゃんがお金を持って行ってからのこと、詳しく教えて貰えるかな?」

「うん。私が公園に鞄を持って行って待ってたら、あの男の人がトラックで来たの。 それで、このトラックに乗ったら妹に会わせてくれるって言われたから鞄持ったまま前の席に座ったの」

「前の席に座れって言われたの?」

「言われた訳じゃないけど、中から前の席のドアが開いたからそこに座れっていうことなのかなって思って、そこに座ったの」

「そうか。その時、周りに他の人はいなかった?」

「いなかったよ。誰も」

「そうか。で、車があの家に着いたのは何時くらい?」

「分かんない。時計無かったから」

「そうか…」

「でもね、車が止まる時、いきなり止まったの」

「いきなり?」

「うん。なんかね、体が浮いた感じがして、何だろうって前見たら、お家が建ってたの」

「そうか。それで?」

「降りて、鞄持って中に入れって言われたの。靴は靴箱に入れろって」

「どうして靴箱に入れろなんて言ったのかな…?」

「もし誰かが来た場合、そこに子供の靴があると何かあったと悟られるのを避けた為…ですかね?」

琴美の背中をさすっていた女性刑事が可能性を示唆する。

「その可能性が一番有力だな。で、その後は?」

「ロビーがホテルみたいに広かったから、入った時ビックリして、しばらく靴を脱がずにいたら、あの人が靴を脱がせようとしたの。だから私は断って、中に入ったの。その後にお風呂場に連れて行かれたの」

「お風呂場?あの部屋に始めから連れてこられたんじゃないのか?」

「うん。まずお風呂場に閉じ込められたの。でも何か気配がして、探してたら琴美がお風呂の中にいたの。水が張ってあってね、中に沈んでたの。だから私ね、すぐ琴美を出してね、目を開けてってずっと言ってたの。そしたら、琴美がね、目を開けてくれたから、良かったって思った」

「琴美ちゃんはお水に沈んでいたのか?」

「うん。もう死んじゃってるのかなってずっと思ってたけど、でも信じられなくて」

「その時、琴美ちゃんは何も着てなかったのか?」

「うん。裸だった。だからお風呂に入ってる時寝ちゃったのかなって思ったけど、琴美をお風呂から出す時に気付いたの。お水だって」

「やっぱり琴美ちゃんを殺そうとしていたのか…」

「多分そうだと思う」

「ん?何でそう思うんだい?」

「だって、お金を渡した時、聞いてみたの。これから私たちをどうするのって。そしたら黙っちゃったから、私と琴美を殺してお兄さんも死ぬつもりなのって聞いたら、凄い顔してた」

「凄い顔?」

「うん。なんか、何でバレたんだろうって顔してた」

「なるほど…で、身体を拭いてあげたのか」

「うん。タオルが置いてあったから、琴美に付いてるお水を拭いたの。でも、何も着せてあげれなかった。何も持ってなかったから」

「脱げって言われたの」

咳が収まった琴美が開いた小さな口から衝撃の真実が紡ぎ出される。

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