第14話

「おまえ、まさか美人局か?」


「美人局?」


 この言葉も琉海の記憶の中であやふやだったが、娼婦と同様男と契りを結ぶ女を例える言葉だったはずだ。


「まぁ、そんな感じかな」


「じゃあ、教えてやる。浜で溺れた男は死んだよ」


「えっ」


「死んだ。いない」


 灯台男は自分の首を絞めるまねをして舌を出し白目を見せた。


「ふ、ふたりとも?」


 灯台男は少し考えるように頭を傾けた。


「いや、1人は生きてる」


 それが陸の王子だ。


 琉海は灯台男に詰め寄った。


「その1人はどこにいるの?」


「連れてってやるよ」


 こんなに早く陸の王子を探し出せるとはなんてラッキー。


 琉海はスッキプしながら犬と一緒に灯台男の後ろをついて行った。


 前の姫は人間になったとき歩くと足が針で刺されたように痛かったというが、進化した薬のおかげか琉海はまったくそんなことはなく、まるで泳ぐように軽やかに歩くことができた。


 琉海は初めての陸に興味津々だったが灯台男がずんずん歩いて行ってしまうので、それについていくのがやっとだった。


 しばらく歩くと灯台男はある小さな建物の前で立ち止まった。


「着いた。ここだよ。ここにその男がいるさ、ほら、さあ行け」


 灯台男は琉海の背中をどんと押した。


 建物には、


 KOBAN


そう書かれていた。




 琉海は最初目の前のそのお巡りを見て唖然とした。


 自分が助けた男のどちらかはこんなに太っていただろうか?


 琉海は必死に記憶を辿ったが助けた男の顔はおろか体型も年の頃もまったく覚えていない。


 でもすぐに目の前のお巡りが陸の王子でないことが分かった。


 あの灯台男に騙されたのだ。


 お巡りのでっぷりとしたお腹を見ながら 琉海はほっと息をつく。


 この男と契りを結ぶなんてぜったい無理だった。


 危うく一生お肉食べ放題の夢が消えるところだったよ。


 それにできれば人殺し人魚にもなりたくない。


 ここにきてようやく陸の王子と恋をしなければいけないということが現実味を帯びてきた。

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