第11話

 どのみち女は死ぬ運命だったのだ。


 琉海は紅藻のベッドから起き上がった。


 しばらくの間人間の姿にならないといけない。


 今日は思いっきり泳ぎ納めといこう。


 月明かりに揺れる水面目がけて虹色の尾っぽをうねらせた。


 柔らかい水が全身を撫でる。


 小さな魚の群れのトンネルを琉海はくぐる。


 キラキラ白く光る魚の鱗が音楽を奏でるようにさざめいた。


 海の中はこんなにも美しい。


 これがあたしの世界、これがあたしの海。


 必ずあたしはまたこの海に戻ってくる。


 琉海は勢いよく水面を飛び跳ねた。


 貝殻のような白い月が空に浮かんでいるのが見えた。




 海のドクターのところは若返りや豊胸など、人間で言えば美容整形を希望する人魚たちで混み合っていた。


 ドクターの人魚はとっくに人魚の平均寿命年齢を超えていると聞いていたが、妙に色気のある年齢不詳の美魔女人魚だった。


「あなたが今度の伝説の姫ね」


 ドクターは琉海をじろじろ見て、「もうちょっと胸が大きくなるように薬を調合しといた方がいいわね」と独り言を言った。


 琉海の前の伝説の人魚は人間になる代わりに声を失った。


 琉海も同じなのかと聞くと薬が進化しているので大丈夫だと言う。


「でも、全く副作用がないわけではないわよ」


 不安になってどんな副作用かと聞くと、それは人間になってみないと分からないと言う。


 頭痛や腹痛など人魚の体質によって副作用の出方が違うそうだ。


「痛いのとか苦しいのはやだな」


「大丈夫、副作用に対処してくれる人間の医者がここにいるから」


 ドクターは琉海に1枚のメモを手渡した。


 この医者は人魚たちが使う薬と似た薬を処方してくれるらしい。


「昔は人間も人魚と同じような薬を使っていたんだけどね」


 そう言いながらドクターは琉海に煎じ薬を渡した。


 いろんな種類の海藻や珊瑚を小さく刻んだものだった。


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