第9話


 最初に助けた方が陸の王子だとか、いや最初に海に落ちた男がそうだとか、姉たちは延々と議論を続ける。


「ねぇ、それであたしはどうしたらいいの?お腹空いてきたんだけど」


 荒れた海の中、人間の男を2人も助けたのだ。


 琉海のお腹がキュルキュルと鳴った。


「あんたはどっちが好みだった?」


 そう聞いてくる姉を別の姉が制する。


「いや、それじゃダメでしょ、好みより直感よ。琉海、どっちにピンときた?」


「分かんないよ、そんなの。外はすっごい嵐ですっごい風にすっごい波で、もうぐっちょぐちょの、ばっしゃばしゃの、ざぶんざぶんで、それどころじゃなかったもん」


 姉たちはまた琉海そっちのけで議論を始めた。


 でも今度はすぐに話がまとまったようだった。


「とりあえず2人を手玉に、いや2人ともものにしなさい」


「えー、やだよそんなの。1人でも面倒臭いのに2人なんて絶対無理」


 琉海の意見はあっけなく却下され、いよいよ琉海は人間になるべく海のドクターに予約を取ることになった。


「ねぇ、本当にあたし人間にならなきゃいけないの?」


 この後に及んで琉海は尻込みをしだした。


「なに今さら言ってるの、あんたは伝説の姫なんだからね」


「でもさぁ」


 1番年配の姉が琉海の耳元で囁いた。


「琉海、陸の王子の心を見事に射止めて伝説が本当になったらね、一生死ぬまで毎日琉海の好きな肉をお腹いっぱい食べれるよ」


「ほんと?」


 琉海は期待でその瑠璃色の瞳を輝かせた。


「ほんとよ、ほんと。だってあんたは陸と海の姫になるんだから」


「そっかぁ、そうだよね。なんだかやる気になってきた」


 姉たちは琉海が気づかないところで顔を見合わせほくそ笑んだ。


 そしていよいよ明日、海のドクターを訪ねるという日がやってきた。


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