第4話
それでも大抵姫たちは男を殺すことができず、自分が死ぬことを選んだが、ときどき男を殺す姫がいた。
人魚に戻った姫はもう伝説の姫ではなくなった。
その象徴であった美しい七色の尾っぽや白銀の髪、瑠璃色の瞳は色あせ、他の人魚たちと変わらない姿になった。
生き残りの姫たちのおかげで、飛躍的に人魚たちに人間界の情報が広まった。
そして彼女らは幼い伝説の姫の養育係のようなものを務めた。
姫が人間界に行った時に困らないように、会話の仕方、食事の仕方、ダンスの踊り方、はたまた男をその気にさせる方法など、ありとあらゆることを幼い姫に教えた。
琉海の場合、前の姫は死んでしまっていたので、養育係はいなかったが、その代わりその姫が書き残した人間界の情報を教科書に姉たちが琉海を教育した。
琉海も人間の男を見つけ次第人間になる予定だが、当の本人に全く選ばれた姫の自覚がない。
姉たちの人間界の講義も聞いているのか聞いていないのか。
ただ人間の食生活の話になると喰らいつくように大きな瑠璃色の目をますます大きく蒼くして熱心に聞いていた。
琉海は今年で83歳になる。
琉海は今が1番美しい盛りだった。
手取り早く人間になって手あたり次第人間の男を逆ナンすればどうかと思うが、相手の人間の男は誰でもいいわけではない。
伝説に『陸の王子』とあるように、人間の男も選ばれた存在でなければいけない。
ただどの人間がその選ばれた男なのかは分からない。
人魚のように明確な外見の違いがあるようではなく、あくまでも推測なのだが、姫が海で助ける人間の男が陸の王子なのではないかと思われる。
前の姫も、前々の姫も、その前々前の姫も、海で遭難する人間の男を助けたのだ。
運命が海の姫と陸の王子を巡り合わせると思われる。
人魚たちは海の荒れる日は琉海を急き立て、船の近くや海岸近くをうろうろ泳がせたが、溺れかけている人間の男を発見することはできなかった。
いっそのこと船を遭難させようかと、そんな案も出たがそれだとセイレーンと同じだし、運命に逆らったのでは陸の王子を見つけられない。
本物の陸の王子でなければ伝説は成立しないだろう。
人魚たちは待つしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます