第2話


 あの姫は最初はうまくいっていたのに結局王子を人間の女に寝取られ、挙句に優しすぎる性格から王子を殺すこともできずに、自分が海の泡となって消えた。


 人間側からしたら美談であるが、人魚側からしたら惨めな負けいくさの話だ。


 人魚の世界には何千年もの前から伝説があった。


『海の姫と陸の王子、2人が真実の契りを交わさば、海が世界を制さむ』


 つまり人魚の女と人間の男が恋に落ちれば海の世界が世の中を支配すると言うことだ。


 今のように人間が中心じゃなくなる。


 信じられるか?


 もうこそこそ生きなくていいのだ。


 人間たちは自分たちこそが現実で真実だと思い込んでいる。


 人魚なんて架空の生き物だと思っているのだ。


 陸を這いつくばることしかできないくせに。


 それがどうだ。


 海と陸が逆転することができるのだ。


 現実と非現実が逆転する。


 そればかりではない、人間のせいで海は昔に比べて汚くなった。


 汚染された物を食べて病気になった人魚もいる。


 美しい珊瑚礁もいくつも死んだ。


 このまま人間に世界を任せていたら、人魚はいつか絶滅してしまうかもしれない。


 現に絶滅した者たちもいる。


 人間が架空の生き物だと信じていた彼らは、皮肉にも本当に幻の生物となってしまった。


 だから急がなければならない。


 一族を救うことできる姫はそんなにしょっちゅう生まれてこない。


 それは数百年に1度。


 今までどの姫たちも人間の男の心を射止めることができなかった。


 選ばれた姫は皆一様に美しい容姿を持って生まれてくる。


 虹色の尾っぽと白銀の髪、そして瑠璃色の瞳。


 それが選ばれた姫である証だった。


 それはそれは美しい容姿で、人魚の男たちの全てが姫に恋するほどだ。

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